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Sir Kay~Brother Of King~第二章<2>




   第二章「変わりゆくもの」<2>



 反乱軍を制圧するだけの力をつけたとはいえ、他国からの侵略者達との戦いは、これまで以上に激しいものになることが予想された。
 この世界は、国と国が大いなるパス(小径)という海で繋がっており、そこを通ることでしか他国へは入れない。そのため国同士の交流が少なく、それぞれが独自の歴史と文化を築き上げていた。
 特に他国には、『科学』といった技術を持つところが多い。科学とは、魔法のように自然からではなく、人為的な力によって用いられるものであり、噂では鉄の固まりで空を飛び、街ひとつを一瞬にして吹き飛ばす兵器作ることが可能らしい。場合によっては自然を破壊してしまうこともあるとか。そんな技術は自然と共に生き、暮らすことが当たり前のログレスには存在せず、且つ信じられないものだ。
 しかし、他国がその科学を使ってログレスを攻撃することは不可能なのである。何故なら、ログレスという地は『結界』と呼ばれる巨大な膜で覆われており、科学によって作られた兵器などは決して通さないからだ。
 他国よりも自然が多く実り豊かであるため、ログレスは常に侵略の危機に晒されてきた。それを未だ回避出来ているのは、その結界の力なのがひとつの大きな要因である。
 だからといって、こちらが有利である保証はどこにもない。
 国力を更に強化させるには、未だ中立の立場を保っている騎士達を、王自らが説得することが必要である。このマーリンの忠言をアーサーは聞き入れ、中立の騎士達の中でも特に力のあるレオデグランス卿の元へ赴くことを決定した。
 大軍を引き連れれば侵略者達に気付かれる可能性があるため、少数編成で行かなければならない。
 護衛は、エクターによってケイ、ルーカン、ベディヴィアの三人が選ばれた。
「ログレスを統一させた後、陛下を補佐していくのは我々のような老体ではなく、彼ら若人だ。今からその覚悟を持つことを心掛けさせるべきである」
 と、いうのが理由だという。
 確かに、今アーサーの側にいるほとんどは、経験深い老練の者達である。統一が成されてから何十年も仕えていく、というのは正直難しい。エクターは先の事まで見越していたのだ。
 三人は彼の期待を背負い、直ちに小屋へと準備を始めた。
 しかし、未だ己の中に答えを見出していないケイに、父の言葉は重くのし掛かっていた。父は愚かな息子の迷いにきっと気付いているのだろう。いっそのこと護衛を辞退させてもらおうかとも思ったが、上手い言い訳も考え付かず、結局こうして旅仕度を整えている自分がいる。実に滑稽だ。
 馬の背に荷を積みながら溜息を吐いていると、キイと木製の扉を開く音が響いた。誰かが小屋へ入ってきたようだ。
「陛下」
 入ってきた者の姿を最初に認めたらしいルーカンの声に驚き、ケイも素早く顔を上げる。そこには馬小屋には似つかわしくない、白く輝いた鎧を身に纏うアーサーが立っていた。三人は慌てて跪いた態勢をとる。
「立ち上がってくれ。邪魔をしに来た訳ではない」
 つい数ヶ月前と比べて随分と凛々しくなったアーサーの声に、ケイは一瞬苦虫を噛みつぶしたようになるが、すぐに気を取り直して忠実な側近の顔に戻す。
 三人が立ち上がるのを見届けると、アーサーは笑みを浮かべた。
「今日はよろしくお願いします。御三方がいてくださるなら、これ程心強いことはありません」
 今の彼らは主従関係のため、公式の場などではお互い身分相応の話し方をするが、他の人間がいない時アーサーはこうして以前の口調に戻る。その度に咎めてはいるものの、一向に直そうとする気配がないのでケイ以外の二人はもう特に気にしていない。時には彼らさえ以前の口調に戻ることがあるくらいだ。そうするとケイに睨まれてしまうので、回数は少ないが。
「そのような事をおっしゃっていただけて、恐悦至極に存じます。必ずや、この命に賭けて陛下をお守りすることを誓いましょうぞ」
 ルーカンの言葉にベディヴィアが黙って頷く。そんな二人に、アーサーは更に笑みを深くしたが、ケイと目が合った瞬間戸惑いが混ざり合った。
「兄上も、どうぞ力をお貸しください」
 それでも目を逸らすことはせず、努めて明るく声をかけてくる。しかし。
「…お力を貸すことは執事としては当然のこと。ですが、陛下」
 ケイは返した言葉は実に淡々としていた。
「今は公務中。そのように私を呼ぶのはお控え下さい。他の者達に示しがつきません」
 事務的に冷たく言い放たつ。アーサーが表情を曇らせたのがわかったが、気付かないふりをした。
「失礼。急ぎ準備を終えなければなりませんので」
 ケイはわざとらしいほど丁寧に一礼すると、馬の方へ体を戻して準備を再開した。
「そう…か。邪魔をしてすまなかった」
 沈んだ声を残してアーサーが去る音がしても振り返らない。
 ルーカンの何かを訴えるような視線にも溜息にも、ケイは無視を貫き通すのだった。
 わだかまりを残したままだったが、準備を終えると四人はすぐに城を出発した。
 草原を駆け抜け、丘を越える。馬が順調な走りを見せ続けたため、三日目の陽が落ちかける頃には、レオデグランス卿の屋敷近くの森まで辿り着くことが出来た。
「今日はここらで休みましょう。陽が落ちると魔物も増えますし」
 ルーカンの提案を取り上げ、四人は馬を降りると野宿の仕度を始める。重い空気は未だ拭いきれていないが、ルーカンが気を配って動いてくれるのであまり気にせずにいられた。
 こうして四人だけでいると昔に戻ったみたいだ、とケイは思った。昔といってもほんの数ヶ月前の話だが。
 子供の頃、幼馴染みだった自分達はよくこうして馬で遠乗りに来ていた。アーサーが一緒に来ることを自分はいつも嫌がっていた。というより、何であっても弟が引っ付いてくることが嫌だったのが正解か。
 そんな風に考えていてハッと気付く。無意識にまたアーサーを弟として見てしまっている。
 兄弟としての感情を捨てるか否か、それはまだ完全には決断できていない。だが、あくまでも今はその感情は封印するべきだ。
 似ていたとしても今はあの頃と違う。今は公務中なのだ。それをアーサーに忠言したのは自分であったというのに。
 このままだと余計に頭の中がややこしくなりそうなので、意識を別へと向けことにする。
 するとベディヴィアが森の中に顔を向けたのが目に入った。
「どうした、ベディヴィア?」
 いつも無表情の弟が険しい顔つきをしているのに、ルーカンが不思議に思い声をかける。
「何か気配がする。良くないものだ」
 ベディヴィアが振り向かずに答える。
「魔物か?」
 ケイの問いにベディヴィアは首を横に振った。
「わからない。…様子を見てくる」
「一人では危ない。皆で行った方が」
「俺一人で十分です。陛下はここで二人と共にお待ち下さい。確認次第、すぐに戻ります」
 アーサーを制してベディヴィアは馬へ跨る。
 何故こいつは普段無口のくせに状況においてペラペラと口が回るのか。器用な性格がケイには羨ましく感じた。
「けれど……」
 アーサーは一人で行くことにまだ納得出来ていない様子だった。それを察してケイが進言する。
「陛下、ベディヴィアの言う通りです。皆で行って万が一陛下の御身が危険に晒されるようなことになってはいけません。ここは剣の腕に優れているベディヴィアに任せるべきではないかと」
「…ケイ卿。だからこそ私が行くべきではないか。仲間を一人危険な場所に赴かせるなど王のすることではない。それに…」
 一度言葉を切ると、アーサーはルーカンに目を向けた。
「ベディヴィア卿に何かあれば、兄であるルーカン卿が悲しむことになる。……貴殿はそうは思わないのか」
 ルーカンを引き合いに出されたことに、ケイは眉間にしわを寄せた。
 王として語っているものの、アーサーはベディヴィアを自身と重ねているのだ。弟が傷つけば兄が悲しむ。そのことを自分に同意して欲しいのだろうか。
 だが、そんな彼の気持ちには気付かないふりをしなくてはならない。自分の心が定まるまでは。
「それは……」
「陛下」
 ケイが反論する前にルーカンが口を開いた。
「陛下。お言葉ですが、私はケイの意見に賛同します。もしベディヴィアに何かあったとしても、それは騎士として常に考えられるべきこと。覚悟は出来ておりますのでご心配なさらないで下さい。お心遣いは感謝いたします」
 ルーカン本人にそう言われてしまえば、アーサーもこれ以上強くは出られず、ベディヴィアに森の探索を命じる。
 ベディヴィアは頷くと、馬を走らせて森の中へと消えていった。
 残った三人を気まずい静寂が包む。アーサーは森から目を離さずにいる。表情が些か暗いのはベディヴィアを心配しているためであろうが、先程の言葉をケイから賛同を得られず、露骨に顔をしかめられたこともあるのかもしれない。だが、それを指摘するわけにもいかないので、ケイは気付かない振りをしたまま馬の背から荷を下ろして食料を取り出し始めた。
「……しかし嫌な気配とは何なんでしょうなあ」
 暗い雰囲気を吹き飛ばすようにルーカンが明るく振る舞うと、アーサーはようやく顔を上げた。
「さあな。ただこの辺りにそんな大した魔物はいない。ベディヴィアもすぐに戻って」
 ケイが手を休めずに応えている、その時だった。
 大きく激しい獣の咆哮が森から響き、三人は一斉に振り向く。
 十数羽の鳥が驚いたようにすごい勢いで空へと飛んでいく。ただ事ではないと察知した三人は、それぞれの馬に飛び乗ると森へと駆け出した。
 時は夕暮れを差しかかっていた。森の中は薄暗く、遠くまで見通すことが困難であるが、それでも三人は馬の速度を緩めず、果敢に進んでいく。
 そして、少し開けた場所に出たところで飛び込んできた光景に、三人は息を呑んだ。
 中央に頭から胸の辺りまでが食い千切られた馬の死骸が転がっている。その傍の木陰でベディヴィアが夥しい血を流して座り込んでいた。そこにはあるべきはずのものがない。
 彼の左腕がもぎ取られたかのように無くなっていたのだ。
「ベディヴィア!」
 馬を降り、一番に駆け寄ったのは兄のルーカンだった。その後をアーサー、ケイと続く。
 ルーカンはベディヴィアの手を傷口から離させると、自身の布を引き裂いて抑える。
 ベディヴィアは意識が混濁していていたのか、最初彼らに気付けなかったが、必死に呼びかけられて何とか取り直した。
「ベディヴィア殿!大丈夫ですか?一体何があったんですか?」
 案じながらも事態を把握しようとアーサーの問いかけに、ベディヴィアは懸命に声を振り絞って答えた。
「レオデグランス卿の御息女・グィネヴィア様がお乗りに…なった馬車…が巨大な黒い影に襲われ…かかっているのを見つけ…何とかお助けしようと…向かったところ…返り討ちに遭い、この…ザマです」
「グィネヴィア様が…?それで、グィネヴィア様はどこに?」
 辺りを見回すながらケイが尋ねると、彼は更に衝撃的な事を口にする。
「馬車…は戦う前に逃した…が、影は…俺の腕を食いちぎると…後を追って…。俺のことは…構わずに…早く…追いかけてくれ…。馬車は…向こうに……」
 三人はベディヴィアが残った右腕の方の震える指で示した方向に顔を向けた。
 グィネヴィアにもしものことがあれば、父のレオデグランス卿は深い悲しみに落ちることだろう。そうなれば力を借りるどころではなくなる。いや、それ以前に騎士として婦女子の危険を見過ごすことなど出来はしない。
「ルーカン殿はベディヴィア殿のお傍に。私と……」
 指示を出しながらケイと目があったアーサーは不自然にそこで言葉を止めると、
「私とケイ卿が後を追う」
 と、言い直した。焦燥のあまり素に戻りつつあったせいか、また兄上と呼ぼうとしてしまったのだとケイは気付いていた。しかし、今はそんなことはどうでもいいことだ。
 指示を終えると、アーサーが馬の背に駆け上る。ケイもそれにならう。
 二人はルーカンとベディヴィアを残すと、息急き切って示された方向へ馬を走らせていく。
 そして、特に木々が生い茂って夕日の明かりさえ感じることの出来ない場所で、高貴な装飾で作られた馬車が止まっているのを見つけた。
 ベディヴィアの話では、馬車は逃げたとのことだったが……と、不審に思いながらも、馬を降りて確かめてみる。
 御者台に回ったところで、二人は驚きで息を呑む。辺り一面、血の海となっていたのだ。
 馬車を引いていた馬も、それを操っていた御者の亡骸の欠片すら残っていない。
「魔物は後を追っていたんだ。なのに何故箱は無事で前にいた奴らだけが……」
 つぶやくようにケイが言うも、答えは見つからない。
「…そうだ。グィネヴィア殿は!」
 アーサーが急いで箱へ駆け寄る。ケイも後を追った。
 勢いよく扉を開くと、輝く金色が目に入ってくる。中には長く美しい金髪の少女が蹲っていた。肩を震わせ、両手を祈るように組んでいる。
「…グィネヴィア殿、ですか?」
 アーサーが静かに尋ねると、少女はビクリと肩を震わせた後、ゆっくりと振り返った。本来なら見目麗しいと評される筈の顔立ちは青く、疲れ切っている。それでも微かにではあるが、確かに頷いた。
「ご無事で良かった。私の名はアーサー。貴女を助けに参りました」
「アーサー…様?あの…エクスカリバーの勇者の…?」
 アーサーが出来るだけ優しく声をかけると、少女・グィネヴィアは初めて声を出した。とても頼りなくか細いものだったが。
「はい……。勇者かどうかはわかりませんが、エクスカリバーは私を…」
 勇者という言葉にアーサーは戸惑ういながらも彼女の問いに答える。だが、それが言い終わることなかった。
 グィネヴィアが彼の胸に飛び込んできたからだ。
 突然のことに驚くアーサーだったが、彼女からしゃくりあげる声が聞こえて沈痛な面持ちに変わる。
「馬車が止まったと…思ったら…悲鳴が…聞こえて。何が…起こったのか…見ることも…出来なくて……」
 泣きながら、更に強く縋りつくグィネヴィアをアーサーは慰めようと肩に手を置いた。
「もう大丈夫です。貴女をこれ以上危険な目には遭わせません」
 優しい、けれど強い言葉に、グイネヴィアの震えが徐々に落ち着いていく。顔を上げると、彼と目が合った。二人はそのままじっとお互いの目を据える。
 それを横で一部始終見ていたケイは妙に気まずくなりつつも周囲に気を配っていた。グィネヴィアは無事だったものの、これだけの惨事を犯した当の魔物の姿はまだ見ていないのである。
 今のところ木陰に隠れているような気配は感じられない。どこかへ去ってしまったのだろうか。だとしたら幸運なのだが。
 どっちにしてもここで長居をしていては危険なことに変わりはない。早くグィネヴィアを安全な場所へ連れていかなければ。ルーカンとベディヴィアも迎えにいかなければならない。
 アーサーへ提言しようと顔を上げた、その時。ケイは空の方に小さな影があることに気付いた。鳥かと思ったが、影はどんどん大きくなっていく。それがここへ落ちてきているのだと気付いた時、ようやく正体に見当が付いた。一瞬にして戦慄が走る。
「アーサー!」
 ケイの叫びで現実に引き戻されたアーサーは、彼の声から危険を察知し、グィネヴィアを抱き上げ、馬車から飛び離れる。
 ケイも同様に飛び離れた次の瞬間、馬車は落ちてきた影によって無惨に砕かれた。衝撃で舞った煙が少しずつかき消され、影の姿が浮かび上がっていく。
 三人は、驚きの声さえ上げられない。
 落ちてきたのは、黒い鱗を持った巨大なドラゴンだったのだ。

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[ 2006/08/19 23:28 ] オリジナル小説連載 | TB(0) | CM(0)
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2006年5月16日開設

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