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Sir Kay~Brother Of King~第二章<1>




   第二章「変わりゆくもの」<1>



 愁絶のあまり、光は魔に魅入られる。
 闇は光の変化に惑う。



 マーリンの言葉通り、アーサーは若干十五歳にしてログレスの唯一人の王となった。
 だが、先代王・ユーサーの血を引き、王の証であるエクスカリバーを抜いたとはいえ、全ての者がすぐアーサーに忠誠を誓った訳ではない。それは何もアーサーがまだ年若く、騎士の従者でしかないことだけが理由ではなかった。
 そもそもアーサーの出生は複雑なものである。母・イグレーヌは、元々ユーサーと敵対していた騎士の妻であり、ユーサーは彼女を手に入れるために自ら戦いを起こしたのだ。
 更にユーサーはマーリンの魔力を借りて彼女の夫に姿を変え、彼女を騙してそのまま夜を共にしてしまったという。
 その後、戦いはユーサーの勝利に終わり、彼の妻となったイグレーヌは数ヶ月後、ひとりの男子を産んだ。それがアーサーである。彼が生まれたのは、そういう経緯の元であった。
 ちなみにそのアーサーがエクターの元へ預けられたのは、ユーサーがマーリンに力を借りる際、二人の間に出来た子供を引き渡す事を条件にとしたためだという。
 とにかく、そんな出生の持ち主であるアーサーを「不義の子」と罵る者は少なくなく、彼らは反目の決意を固めていた。
 他国からの侵略者だけでなく、アーサーの敵は内にも存在していたのである。
 向けられる敵意は、十五歳のアーサーには辛いものだった。だがマーリンの教えやエクターを始めとした騎士達に支えられたこと、生来の王者としての資質が次第に彼を王として目覚めさせていき、正式な王となるために行った戴冠式の時には、すでに戦いに挑む心構えを済ませていた。
「これより正義をもって王政を執り行う」
 騎士達の前に立ち、毅然とした態度で高らかに宣言する。その姿は、数ヶ月前まで従者であった少年とは思えない程に凛々しく威厳に溢れていた。
 正しく彼は選ばれし王なのだと、その場にいる者達に思い知らせる程に。
 アーサーは国のちょうど中央に建つ、キャメロットと呼ばれる城を拠点とした。そこは四百年ほど前のログレス王ドル・ドナが居城としていた城であった。
 こうしてアーサーのログレス統一による戦いが幕を開けたのだった。
 最初の目的は、内乱の終結に力を注ぐことだ。王としての器はあろうと、実戦経験は皆無に等しく戦力も劣る。反乱軍がアーサーをそう甘く見たことが幸いした。
 彼らがどう攻めようか思案している最中に、こちらから先手を取るのに成功したのだ。
 まさかあちらから攻めてくることなど考えてもいなかった反乱軍は浮き足立ち、反撃らしい反撃も出来ないまま、退却を余儀なくされてしまう。
 アーサーの最初の戦いは勝利によってはなばなしく飾られたのである。
 この勢いに乗って、アーサーは以後の戦いも華麗な勝利を収めていき、その噂を聞きつけて、彼に忠誠を誓う騎士が次第に増えていった。
 そして反乱軍を鎮圧させ、ついにログレス統一を達成する。
 マーリンの知恵やエクターを筆頭とした騎士達の助力もあったが、不利な状況を巧みに凌いでいったのは、アーサー自身の実力だった。
 彼は、もう周りに担ぎ上げられるだけの王ではない。名実共にログレスの王なのだと誰もが認める結果である。
 その後キャメロットで、内乱の終結といよいよ侵略者達との戦いに赴くために一致団結するという名目の元にささやかな宴が催された。誰もがアーサーを王として讃え、アーサー自身もそれに応える。何とも輝かしい光景だ。
 その中で唯一、ケイだけが、いつの間にか大きくなってしまった彼の背中を苦々しい思いで見つめている。
 執事として側近となったケイは父・エクターと共にアーサーの補佐を務め、アーサーが出陣するときは常に傍にいて彼を守ってきた。足手まといにならないよう、戦いにも政においても鋭意努力し続けた。それは、老練の騎士達にも認められている。
 しかし、そんな周囲の評価とは裏腹に、心中には暗い霧が立ちこめていたことには、どれくらいの者が気付いていただろうか。
 アーサーが王としての風格に目覚めていけばいくほど、ケイは自分が闇に蝕まれていくのを感じ取っていた。故に最近では執務以外でほとんどアーサーとは口を聞かない。声をかけられては、へりくだった言い方で何かと理由を付けて断る。そんなことを繰り返していた。
 その度に悲しい表情をするアーサーを見ると心が痛む。だが同時に苛立ちもするのだ。
 わざわざ自分と話す必要はない。王となった今の彼には父やマーリンだけでなく、数多くの騎士達が仕えているのだ。彼らの方が自分よりも正しい意見を返してくれるだろう。だのに何故自分の言葉を求めようとするのだろうか?
 否、これは疑問ではない。答えなんてわかりきっている。
 アーサーは弟として、兄と話がしたいのだ。
 王となり、様々な知識と経験を積んでも彼の中で変わらないものがある。
 人を疑う事を知らない純粋さだ。その純粋さがケイに臣下ではなく、兄弟としての会話を求める。
 ケイにとっての疑問はそれだ。何故そんなことをするのかがわからない。
 だから、ケイはアーサーの想いを拒み続ける。
 最早あの頃の兄弟関係には戻れないのだから、と自分に言い訳をして。



「暗い」
 後ろから突然声がして、驚いたケイは持っていた杯を落としそうになった。振り返り声の主を見て、顔をしかめる。
 こっそり宴の席を離れて、窓辺で一人良い気分で飲んでいたというのに。
 そんなケイの気持ちを知ってか知らずか声の主、ベディヴィアは柱に寄りかかってこちらを見ていた。隣にはいつものようにルーカンが困った顔をしている。
 彼らもアーサーがエクスカリバーを抜いたあの日以来、ケイ同様側近としてアーサーに仕えていた。そう望んだのはアーサーだ。幼少の頃からの付き合いで気心の知れた者を傍に置きたいと思ったのだろう。
「…いつからいたんだよ」
 不機嫌なケイにルーカンは苦笑する。
「つい、さっきかな。気配で気付くと思ったんだけれど」
「声かけりゃいいだろ」
「そうしたかったんだが…かけにくくてな。考え事していたみたいだし」
 鋭い指摘に一瞬表情が強張るケイだったが、すぐ元に戻した。
「…別に何も考えちゃいねぇよ」
 苦々しくつぶやくと、再びベディヴィアが口を開いた。
「お前は暗かった」
「は?だから何だよ」
 意味がわからず、ケイは眉を顰めた。
「お前は考えている時、暗い」
 その言葉にケイは思わずこけてしまいそうになった。
「明るく考え込む奴なんかいるか!」
 体勢を整え、怒ったように叫ぶとルーカンがまあまあと言いながら間に入ってくる。
「でも、そう言うってことは、やっぱり考え事していたんだろう?」
 にこやかに言われてしまうと、ケイはもう反論する気も失せてしまう。目の前の兄弟を睨んで舌打ちすると、一気に杯の中の酒を仰いだ。
 口を離して一息吐くと、ルーカンが横から酒瓶を差し出してきた。
 ほら、とでも言うように酒瓶を傾けられ、ケイは黙ったまま杯に酒を注いでもらった。
 その時少しだけ空気が和らいだが。
「アーサーが心配していた」
 ベディヴィアのこの一言でぶち壊れた。ケイの表情が一気に色立つ。
「なるほど…。アーサーの命令で来たってわけか」
 無意識に杯を持つ手に力を込める。
 ミシ、と唸る音にルーカンの笑顔も引きつってしまう。一瞬恨めしそうにベディヴィアを見やると、すかさずフォローに入る。
「ああ、いや、別に命令された訳じゃないんだ。ただアーサーが君を捜していたのを偶然見かけてさ。王が宴からいなくなるのはまずいし、じゃあ私達で見つけてこようってことになっただけで……」
「そいつはご苦労さん。なら、俺は一人で楽しく飲んでいますからご心配なくとお伝えしといてくれ」
 ケイは淡々とそう告げると、視線を二人から外した。
 その姿にルーカンは何も言えず、溜息をひとつ零す。
 するとベディヴィアは柱から身体を離すと、扉へ歩き始めた。
「ベディヴィア?」
 ルーカンが声をかける。
「報告は一人でいいだろう」
 そう言うとベディヴィアは来た道を戻っていく。
 後にはケイとルーカンだけが残された。
 ルーカンはそれを見届けると、自分の杯に酒を注いで、ケイが座る窓の縁へ同様に腰掛ける。ケイはそれをちらりと見ただけで、またすぐに視線を戻した。
 下から宴の音が少し響くことを除けば、周囲はとても静かだ。
 ルーカンは杯の中の水面に映る満月に視線を落とす。
「弟に仕えるというのは、そんなに嫌なものか?」
 ケイは答えない。
「兄としての自尊心が許さない、か」
 やはりケイは答えない。だが、その沈黙は何よりも雄弁に彼の心の内を語っていた。
 吹き出す音が聞こえ、ケイは振り返る。
 見ると、ルーカンが顎に手を当てて笑っているではないか。
「何がおかしいんだよ」
 ケイは不機嫌そうに顔を顰める。
「いや…なに…」
 ルーカンは一頻り笑うと、ケイの方を向いて指を二本立てる。
「笑った理由は二つ。一つは君の兄としての自尊心の高さについて。そりゃそうだよな。エクスカリバーを抜いたのは自分だと偽ったぐらいなんだし」
「…馬鹿にしてんのか」
 過去の恥を引き合いに出されて、ケイの表情はより厳しくなる。
「怒るなって。馬鹿にしているんじゃないさ。むしろ羨ましいというか……まあ、それはいい。で、あと一つは……」
 ルーカンは困ったように頬を掻くと、そこで一旦言葉を切って、指を折り曲げて一本にする。
「…君とアーサーは、やっぱり兄弟なんだなあって」
 立てた一本の指を横に振りながら、そう言ったルーカンにケイは驚く。
 何故そんな事を思うのかが全く分からなかった。
「どこ見てそう言えんだよ」
「見たままを言ったつもりなんだが」
 ルーカンは指を戻して酒を口に含んだ。
「それじゃわからねぇよ」
 苛立ったケイは杯を乱暴に置くと、足を組んで背を向けた。
 そのまま黙ってしまったケイの背中を見ていたルーカンだったが、特にそれ以上何も言わずに酒を煽り続ける。
 一時の沈黙。
「お前は……」
 先に破ったのは、ケイの方だった。
 ルーカンが杯から口を外す。
「お前だったらどうする?ベディヴィアに仕える立場になったとしたら…」
「私がベディヴィアに?」
 問われてルーカンは考えるようにう~んと唸る。しばしの間、思案すると顔を上げた。
「まあ、受け入れるんじゃないかな」
「相変わらず大人だね」
 予想していた言葉だったのか、ケイは驚かずにやや皮肉る。
 しかし、ルーカンは首を横に振った。
「そういう意味じゃない」
「なら、どういう意味なんだよ?」
 回りくどい言い方にケイは苛つく。
 それに気付いたルーカンは肩を竦めた。
「私とベディヴィアの間柄は、兄弟が前提じゃないってことさ」
「…?兄弟だろ、お前ら」
「そうだけれどね。私はあまりベディヴィアを弟って目線で見たことがないんだ。寧ろ相棒って言った方がしっくりいくな」
 ルーカンは酒を一口含む。
「けど、君とアーサーは違うだろう?だからアーサーに仕えることに抵抗があるんだ」
 ケイは何か言おうと口を開くが言葉出ず、顔を手で覆った。
 だが、わかっているのだとでも言うように微笑むルーカンを見ると楯突きたくはなる。
「…血が繋がっていないのに?」
「それは君にとって問題あることなのかい?」
 ようやく出た反論も効かなかったようだ。こうなったら認めるしかない。
 ルーカンの言う通りだった。アーサーが実の弟ではないと知って育ったケイは、父・エクターの教育もあってか血の絆にはそれほど意味はないと感じていた。血が繋がっていようと子を愛さない親もいるし、父のように血の繋がらない子を我が子として愛する者もいるからである。
 一番大切なのは心の絆。
 そう思っているからこそ、ケイはアーサーを兄として愛してきた。
 しかし、反対にその想いが劣等感と嫉妬も抱かせているのだ。
 だったら、いっそのこと。
「捨てちまった方がいいのかもしれない……」
 兄弟という間柄を。これまでの十五年間を。
 ただの主従関係になってしまえば、楽になれる。
 そう口にはしなかったが、ルーカンはケイの言わんとしている事を理解しているようだ。
「君はアーサーの兄だ」
 残った酒を一気に煽って言われた言葉に、ケイはわずかに驚いて顔を上げた。
 ルーカンは彼の方を向かずに続ける。
「いや…君はアーサーの兄でなければならないんだ。アーサーのためにも」
 アーサーのために。
 それは一体どういう意味なのだろうか。
 疑問を投げかける前、にルーカンは酒瓶を置いて立ち上がり、入り口へと足を向けた。
「おい!」
 ケイは止めようとしたが、ルーカンは止まらず、
「私の言いたいことはそれだけだ」
 と、言って去っていってしまった。
 ひとり残されたケイは舌打ちをすると、ふと夜空に目を向ける。徐々に傾いていっている月がとても綺麗だったが、満天の星々が視界に入った途端、気分が沈んでそこから顔を背けた。
 子供の頃のある出来事以来、星を見ることが好きではなくなってしまったからだ。
 杯に入った赤い液体に視線を移動させて、先程のルーカンの言葉の意味を考える。
 アーサーの兄でなければならない。アーサーのためにも。
 兄でいることが、何故アーサーのためになるのだろう。アーサーがそれを望んでいるからなのか。
 わからない。だが、それより何よりも。
(俺は、どうしたいんだ…?)
 捨てた方がいいとさっきは思った。元々崩すきっかけを作ったのは自分なのだから。
 だけど。
 そう。どうしても『だけど』と思ってしまう自分もいるのだ。
 わからなかった。ルーカンの言葉の意味も。
 そして自分自身の心も。
 結局答えを見つけることも出来ず、時だけが無意味に過ぎていく。
 あの眩いばかりの月光でさえも、自分の心を灯すことは出来ないのだと感じずにはいられなかった。

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[ 2006/08/12 14:46 ] オリジナル小説連載 | TB(0) | CM(0)
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2006年5月16日開設

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