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Sir Kay~Brother Of King~外伝 <3>・後編

……間に合った。良かった。
もう何も言い訳はすまい(-_-;)。

サイトは明日更新します。



   外伝「ルグス遠征」<3>・後編



 翌日。
 ケイは文書の騎士との待ち合わせ場所である小さな街へと来ていた。
 交渉事は自分には向かないので他の人間がいい。何度もそう意見したが聞き届けられることはなく、結局騎士との最初の接触はケイの役目となってしまったのである。
 未だに納得がいかない。
 広場の噴水に腰かけながら、ケイは憮然とそう思っていた。
 そもそも自分にこのような不向きな任が与えられることとなったのは、ガウェインがこの任は自分が適任であると提言したからだ。
 しかもその理由は「勘だ」という。実に馬鹿げているではないか。そんなことでログレスの今後を左右する役目を決めようなどとは。
 自分が適任であると言ったのがベディヴィアだけだったなら、何が何でも拒否していただろう。だが、現実は彼だけではなかった。アーサーもまた自分が適任であると同意したのだ。
 いくら納得いかないとはいえ、主の命は絶対。無下には出来ない。結局ケイはこの任を受けざるを得なくなってしまったのだった。
 受けてしまったものは仕方がない。お世辞にも交渉事が上手いとはいえないが、腹を括るしかなかった。尤も気にかけなければならないことは他にあるのだが。
(あの文書は本当に信用出来るのか?)
 魔女に操られている皇帝を救う協力を要請した文書。確かに実際に会見した皇帝は魔女に操られているように感じた。恐らく事実だろう。しかし、それだけで文書を送ってきた騎士が味方であると結論づけるのはあまりにも早計だ。協力を求めるふりをして罠を仕掛けていることも否定できないのだから。

 何通りもの可能性を頭に思い浮かべながら、それらしい人物を目だけ動かして捜すケイ。
 すると、横から突如大きな歓声が聞こえてきた。
 何事かと思い、見てみれば、数人の子供達に一人の道化の姿が目に入る。どうやら道化が子供達に芸を見せているところのようだ。独特な化粧を施した道化に思わず顔を顰める。
 ケイは幼い頃から道化といった、人を笑わせることを生業としている類の存在が苦手だった。理由はふたつある。ひとつは周囲から馬鹿にされることの多い自分を見ているようだという自虐的な理由から。
 もうひとつは彼らに対しての反応の返し方は非常に下手だからだ。アーサーやルーカンといった人当たりの良い人間のような喜びや驚きをケイは上手く表現することが出来ない。そのため愛想を振りまかれても微妙な反応しか返せず、道化さえも困らせてしまい、和やかだった筈の場の空気を一気に冷ませてしまうのだ。
 その後、周囲から不快な視線を向けられることも煩わしかった。別に好きで場の空気を悪くしているわけではない。ただ他の者が普通に出来る良い反応を返せないだけなのにそれが原因で責められるのだから、道化を見かけても決して自分から近付くことも輪に加わることもしなくなった。
 自分の役目を知った今では昔ほどの苦手意識はなくなったが、反応の下手さ加減は相変わらずなので、やはり敢えて自ら近付こうとは思えないのはそのままだ。
(……て、今はそんなことどうでもいいか)
 いつの間にか昔の記憶に思いを馳せていたことに気付いたケイは、楽しい雰囲気が醸し出される輪から顔を背け、再び騎士捜索に取りかかる。
 ちょうど輪から真逆の方向へ視線を向けたときのことだった。
「お兄さん」
 軽くリズムに乗せた甲高い声が背後から聞こえてきたのは。
 ケイは訝しみを覚えたが、振り返りはしなかった。まさか自分が今捜している騎士ではないだろう。騎士がどのような声をしているかなど知らないが、どこか声色を変えたようなそれとは思えないし、第一協力を要請しようとしている他国の騎士に「お兄さん」などと軽々しい口をきく筈がない。
 自分が呼ばれたのではないと判断し、捜索を続けようとすると。
「ちょいと、お兄さん。貴方だよ、貴方」
 言葉と同時に右肩に重心がかかった。
 思わず反射的に顔が動く。視界に入ったのは、派手な袖から出ている真っ白な手。恐らく白粉だろう。嫌な予感はしたが、今度は顔を肩から頭上へ向ける。
 そこには衣装と同様、派手な化粧を施した道化が立っていた。そう、先程子供達と輪を作っていたあの道化だ。
 視線だけで辺りを見渡す。先程と同じ場所に子供達が立っている以外は誰もいない。
 つまり、つまりだ。道化がずっと呼びかけていたのは。
「……俺?」
 恐る恐る問いかけると、道化は白い歯を見せてにかっと笑った。
「そうだよ。辺りは子供ばっかりでお兄さんと呼べるのは貴方ぐらいでしょう」
 やはり、そうなのか。ケイは予測が当たったことを苦々しく思う。尤も肩に手を置かれた時点で呼ばれたのが自分であると分かっていたが。
 それにしても道化が自分に一体何の用があるというのか。
 こちらが聞く前に道化が顔を近づけて言った。
「何かさっきから暗~い顔してるね。駄目だよ、そんな顔をしていたら幸せの方が貴方から逃げ出してしまう。どうだい? 僕と一緒にあの子達を笑わしてみないかい?」
「は? いや、今はそんなことしている暇は……」
 訳の分からない申し出にケイは眉間に皺を寄せ、すぐさま拒否しようとする。
 しかし、道化は目の前で人差し指を横に動かしながらそれを遮った。
「うっそだあ。ず~っとここでぼ~っとしていたじゃないか」
 そう言って笑うと、ケイの左腕を掴んでくる。突然の事態にケイは一瞬対処を忘れてしまった。
「ほら、こっちに来なよ。こんなところに座っているよりも絶対に楽しいから」
「お、おい! ちょっと待て!」
 慌てて制止するが、道化は大丈夫大丈夫と返すだけで全く取り合わない。無理矢理振り払おうとするも、思いの外に力が強く、びくともしなかった。たかが道化にこれほどの力があるものなのだろうか。
 そのまま道化はケイを子供達のところまで引っ張っていくと前へ押し出し、呆れるほど明るい声で言った。
「さあ、みんな! 今度はこちらのお兄さんと一緒にとっておきの芸を見せてあげるよ!」
 不思議そうにケイを見ていた子供達が、その一声でわあっと喜びの表情へと変化させる急遽参加してきた正体不明のお兄さんが、果たしてどのような芸を見せてくれるのかと期待に目を輝かせて。
 こちらの戸惑いなど関係なく進む展開にケイは焦って背後の道化に抗議しようと顔を寄せた。一応子供達の前なので小声で、だが。
「待てっつってんだろ! 急に言われても芸なんて出来ねぇぞ! 第一俺は今……!」
「心配しないで。お兄さんはここにただ立っていてくれれば良いから」
 だからそうではないと次第に苛立ちが募ってきたケイは歯がみをする。甲高い声がやけに耳につく。
 この道化は何故さっきからこちらの話を一切聞かないのだろうか。ここまでくるとわざとされているのではないかと勘ぐってしまう。だが、今はそんなことはどちらでもいい。
 もうすぐここにルグスの騎士がやってくる。その者との話し合い如何によってはログレスが再び戦火に見舞われることになるかもしれない。もちろんそれを阻止するために自分達は行動しているわけだが、時に事態は思いも寄らぬ方向へまるで何かに引き寄せられるかのように向かってしまうこともある。だからこそ、その分岐点ともいえる騎士との邂逅には慎重に事を運ばなければならない。このようなことに関わっている場合ではないのだ。
 ケイは再度道化を睨みつける。
「いい加減に……!」
 我慢の限界に達し、大声で叫ぼうとした次の瞬間。
 体が金縛りに遭ったかのように動かなくなった。同時に声も上げられなくなる。
 表情だけで動揺するケイに道化は耳を寄せ、小声で囁いた。
「動かないでね。でないと失敗してしまうかもしれないよ」
 声の調子は陽気なのに寒気を感じるのは内容だけのせいだろうか。
 しかし、ケイは道化が近くに置いていた大きな道具袋から出したものが視界の片隅に入ってきたとき、更にぞっとすることとなる。

 道化が大きな道具袋から取り出したのは。
 切っ先の鋭い剣だったのだ。

 道化はその剣を高らかに上げて子供達へ宣言する。
「今からこの剣がお兄さんの体を貫く。でもご安心! こちらのお兄さんには実は特殊な力があって剣が体を貫いても怪我ひとつしない! それをこれから実験してみせよう!」
 戯けた調子のとんでもない言葉にケイは背筋が凍る。子供達の期待と不安が入り交じった声が飛び交うのがひどく遠くから聞こえてくるようだ。
 背後の道化が回り込むように前へと移動する。笑っているが、派手な化粧を施しているためにどこか企みを感じてしまう。自分の道化に対する苦手意識がそう見させているのかもしれない。
 剣の刃先をこちらに向けて構えをとる姿に驚きを超えて戦慄さえ走る。当然だ。自分はこれが如何なる種を持つ芸なのかを全く聞かされていないのだから。
 何の打ち合わせもしていない状態ではどのような種があるかも自分は知る筈がない。それどころか種があるかどうかも信じがたい状態だ。
 大体このような大がかりな芸は、信頼関係を築いた間柄でやるべきではないのか。否、それ以前に自分は何故このような場所に立ち、剣を向けられなければならないのだ。時分はここにルグスの騎士と会うために来た筈なのに。
 何とかこの状況を打破する術を見つけ出そうと模索するが、体が動かず、声も出せないのでは逃げることはおろか制止することも不可能だ。この道化は魔法が使えるというのか。以前に魔女・モルガンにも似たような魔術をかけられた経験があるが、それとは少し異なる気がする。尤もそこは今問題視するところではないのだけれど。
 道化が一歩前へと足を踏み出す。子供達は緊張の面持ちでこちらを見つめ、全く声を発しておらず、道化の衣擦れの音だけが周囲に響く。ケイは最後の抵抗として必死に体を捩ろうとするが、指一本さえ動かすことは叶わなかった。
 そして、道化は笑顔を崩さないまま手に持った剣を一度後ろへ引くと。

 何の躊躇もなく、刃先をケイの腹部に突き刺した。

 子供達の悲鳴が上がる。
 ケイは目を瞑ることも瞬きも忘れ、己の腹に剣を突き刺している道化を凝視していた。声をかけてきたときから一寸変わらぬ笑顔に釘付けになる。
 だが、それよりも不思議に思うことがあった。
 剣は、深々と腹に突き刺さっている。
 その筈なのに何故だろう。
 痛みが全く感じられないのだ。
 困惑するこちらを余所に道化は腹部から剣を引き抜く。血糊が付いているどころか全く輝きを失っていなかった剣を高らかに掲げ、子供達の方を振り返った。
「ほら! 見ての通りお兄さんの体には怪我ひとつない。本当だよ。お兄さんの体に触れてごらん」
 驚きで言葉を失っていた子供達が、それを合図に一斉にケイの傍へと駆け寄る。我先にと剣が突き刺さった腹部を触ったり撫でたり叩いたりして道化の言うとおりであることを実感すると、驚きと感嘆の入り交じった声を口々に上げていく。
 子供のこのような行動には普段なら怒鳴りつけているところだが、ケイはそれさえも忘れてただ呆然としていた。完全にこちらを無視して盛り上がる光景を満足げに見ていた道化が手を叩いて子供達の意識を向けさせる。
「さあ、これにて今日のショーはおしまい! みんな、そろそろお家にお帰り」
 解散の合図に不満の声を漏らす子供達もいたが、今の以外にもたくさんの芸を見せてもらったのだろう。最終的には皆笑顔で家路についた。時折振り返っては大きく手を振る子供達に道化も同じように返す。その間もケイは、ただ立ち尽くしていた。
「いやあ、ありがとう。貴方のおかげで実に素晴らしいショーになったよ!」
 嬉しそうな道化の手が肩に置かれた瞬間、体が軽くなる。確かめてみれば指は簡単に曲がり、足も上がる。先程までが嘘のように体はこちらの意志通りに動くようになっていた。
 首を動かし、道化の方を振り向く。初めて会ったときから全く変わらない笑顔が視界に入ってきた。いや、最初よりももっと笑みが深い。自らのショーの成功を心から喜んでいるのだろう。
 それがケイには非常に不快さを感じさせた。
 驚きですっかり忘れていた怒りが沸々と蘇ってくる。
「……な」
「え? 何だい?」
 思わずつぶやいた言葉は本人には聞こえなかったようだ。こちらの怒りに気付いている様子もなく、無防備に耳を寄せてくる。
 ケイは表情にも怒りを露わにしたが、耳を傾けている道化には見えなかったようだ。
「ふざけんな!」
 耳元で思い切り怒鳴りつけると、道化は驚きで飛び上がり、その場に尻餅をついた。
「人の話も聞かず勝手に巻き込みやがって! 大体今のどこに笑う要素があったんだ! 俺が単に見せ物にされただけだろうが! そもそも俺は用があったからここにいたんで、てめえの馬鹿騒ぎに付き合う暇なんて一秒だってないんだよ! 今すぐここから消えて二度と俺にそのツラを見せんな!」
 有無も言わせず、一気に捲し立てる。力を入れすぎたのか肩で息をして、右手には無意識に握り拳が作られ、震えていた。あまりの剣幕に流石の道化も笑顔をなくし、呆然とこちらを見つめている。
 すると、辺りから人の気配をいくつも感じるようになった。
 不思議に思い、振り向いてみれば、街人がそれぞれ自分の家から出てきてこちらを眺めているではないか。
 怒鳴り声が聞こえてきたので何事かと出てきてみれば、ひとりの男が道化に怒りをぶつけている。日常には見ないその光景に更に注目を高めた。そんなところだろう。
 野次馬根性に固まった無数の視線が突き刺さり、途端にケイは冷静さを取り戻す。そして、自分の浅はかな行動に今更ながら気付いた。これほど注目を浴びてしまったら、ルグスの騎士が近くまで来ていたとしても出てこられないではないか。否、それ以前にこのような騒動を起こす男がログレスの騎士であると考える筈がない。考えられたとしても明らかにログレスへの印象が悪くなるだけだ。どのみち最悪である。
 何故たかが芸の駒にされたことであんなに怒りを感じてしまったのだろう。もっと紳士的に対処するべきだったのだ。いくら考えたところで過去が変わるわけではないと分かっているが、それでも後悔せずにはいられなかった。
 どうするべきかと迷う。ここにいては注目を浴びたままだ。かといって、別の場所に移動してはルグスの騎士がまだ来ていなかったら、会えなくなる可能性もある。
 そう考えたところでケイは自嘲する。そこはもう問題ではないだろう。仮にルグスの騎士が来ていてこの騒動を目撃していた場合、最早自分には会わせる顔がないのだから。
 未だ冷めやらぬ視線を背中に感じながら、ケイはゆっくりとその場を離れた。いくら何でも走って逃げるような、そこまでの醜態をさらすことは出来ない。歩いて去れば醜態が消えるわけでもないが。
 心情をそのまま表した苦い表情を浮かべたケイの頭の中には己の愚かさばかりが埋め尽くし、道化のことはもう片隅にもなかった。

 キャンプ地へと戻ったケイはすぐにアーサー達の待つテントへと向かう。
 敬礼をする見張りの騎士達の不思議そうな視線に違和感を覚えたが、今のケイにはそんなことも気にする余裕はなかった。
 テントに入ったケイを迎えたのは、アーサー達の笑顔だった。
「ケイ! 戻ったか!」
 人一倍帰還を喜ぶガウェインにケイは顔が引き攣る。まさかあのような失態を演じてきたとは夢にも思っていないだろう。
「騎士には会えたのか?」
 ランスロットの率直な問いに言葉が詰まる。思わず事実を口にすることを躊躇ってしまう。かといって嘘をつくのはもっと出来ないことも重々承知していた。
「あ……いや、それが……」
「後ろにいる」
 覚悟は決めたものの、なかなか言葉に出すことが出来ないでいると、ベディヴィアが妙なことを言ってきた。全員の視線が一斉に背後へと移動するのを見て、ケイも後ろを振り返り、驚く。
 そこにはいつからいたのか。柔和な笑みを浮かべたひとりの騎士が立っているではないか。焦っていたとはいえ全く気付かなかった。
 彼の姿にケイはそうかと合点がいった。先程の騎士達の視線は彼に注がれていたのだ。
 しかし、いくら心に余裕がなかったとはいえ、背後の気配を察知出来なかったとは。自分がそれほど未熟であるという証拠なのか。それともこの騎士はよほど気配を隠すことに優れているのか。
「お初にお目にかかります」
 混乱している自分の背後を通り抜け、騎士はアーサーの前で跪いた。
「ルグスの騎士・ディナダンと申します。お会い出来て光栄で御座います、アーサー王」
「そなたがあの文書を……?」
 アーサーが戸惑いを覚られないよう努めて冷静に騎士へ本題をぶつける。ディナダンは静かに首を横に振った。
「いえ、私は代理で参りました。お会いできて早々、このようなことをお頼みするのは如何なものかと思いますが……恥を承知でお願い申し上げます」
 次の瞬間、ディナダンの声に重みが増した。
「どうか我が同胞の『トリスタン』を救う手助けをしていただきたい」
「トリスタン?」
 別の騎士の名が登場したことで、ガウェインが思わず声に出す。ディナダンは顔を上げて話し始めた。
「トリスタンはルグスの優秀な騎士であり、そちらの文書を手がけた本人で御座います。敬愛するルキウス皇帝陛下の変貌には誰よりも心を痛め、今回危険を承知でログレスへ協力を要請する文書を潜り込ませました。我々は彼の決意に惹かれ、集った者です」
「そのトリスタン殿を救う、とは?」
 文書を手がけた本人であることを聞いたからか、ランスロットも問いかける。確かにそのことには誰もが疑問に思っていた。
 主である皇帝を魔女から救うため、敢えてその意志に背く行為に手を染め、他国に協力を要請した騎士を救って欲しいという。もしや今回の件が魔女の耳に入ってしまったのだろうか。不吉な推測が頭を駆けめぐる。
 しかし、ディナダンの答えはこちらの考えていたものとはまるで違っていた。
「……トリスタンには幼き頃から親しくしているイゾルデというご婦人がいるのですが、その方が昨日近隣を荒らし回っている巨人に攫われてしまったのです。トリスタンは彼女を救うために単身巨人の元へ。トリスタンはルグスでも屈指の剣の達人ですが、巨人は魔物中でも凄まじい怪力の持ち主。このままでは最悪の場合、皇帝陛下をお止めする前に彼自身の命が消えてしまうかもしれません。お願いします! 我々と共に彼とイゾルデ殿をお救いする力をお貸し下さい!」
 ディナダンが沈痛な面持ちで必死に希う。見てみれば思いがけない事態にガウェインもランスロットも言いあぐねている様子だ。それもそうだろう。まさか主を救おうとしている騎士が今昔なじみの女性を救うために奔走しているとは、考えてもみなかったに違いない。
 それに果たしてこれは本当の話なのだろうか。協力を求めておきながら本人は現れず、しかも巨人と戦おうとしている。そしてそれを救って欲しいなどと。二人もそこに引っかかっているのかもしれない。実は全て偽りで自分達を巨人の元へおびき寄せようという罠ではないだろうか。
 すると、これまで沈黙を守っていたベディヴィアが提言してきた。
「陛下。私は以前兄のルーカンと共にルグスへ参った際にこちらのディナダン卿とお会いしています。彼が我々を欺く人間ではないことは私が保証いたします」
 今度は皆ベディヴィアに注目する。この男はディナダンと顔見知りだったのか。
 外交を担当している兄同様、ベディヴィアは人を見る目には長けている方だ。かといって、それでディナダンの話を全面的に信頼出来るわけではないが。
 重い空気がテント内を包む。それを一気に払拭したのは。
「私も彼が嘘をついているとは思えない」
 ベディヴィアの意見に同意するアーサーの言葉だった。
「それに婦人を救うために命をかけるは騎士として最も尊うべき行い。そのような騎士を失うわけにはいかぬ」
 更に助力をすることを了承する応えにディナダンは表情を明るくした。
「ありがとうございます、アーサー王! 貴方様はやはりお噂どおりの方だった。ケイ卿を信じてついてきて良かった!」
 喜び勇んだ声にケイはぎくりとする。その言葉こそ偽りであると知っているからだ。
 自分はあの道化の一件のせいでこの騎士には出会っていない。なのに、彼は自分についてきたという。何故そのような嘘を言うのか、全く理解不能だ。
 本当に彼を信用していいのか不安が残る。だが、アーサーが彼の願いを聞き届けたことで周囲の決意も固まっている。今この空気を壊してしまうのは無理があった。
 横目でディナダンを伺えば、視線に気付いたのか彼の方もこちらに顔を向けてきた。にっこりと笑いかけられ、ケイは曖昧な表情で返す。とても初対面の者に向けられるものではないそれにより一層戸惑わせられる。
 進むべき道を見つけた周囲とは逆にケイだけは凝然として立ち尽くしていた。

 与えられた猶予が終わるまで、あと4日。

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[ 2008/05/31 20:19 ] オリジナル小説中編 | TB(0) | CM(0)
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2006年5月16日開設

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