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Sir Kay~Brother Of King~第一章<7>




   第一章「騎士ケイ」<7>



(アホか、俺は……)
 こうして心の中で、自分を毒突くのは何度目だろうか。
 壊れた剣よりも上等なものを見つけてこい、と無理難題をふっかけられて戸惑うアーサーを置き去りにし、ケイは一人で街に戻ってきていた。
 ふっかけた本人でありながら、今となってはそれを後悔する気持ちしか湧いてこない。
 街へ戻る途中では噴き上がった怒りが治まっていなかったため、鞘に戻した剣を見つめながら悪態をついたりしていた。しかし、だんだんと頭が冷静になるにつれて、ひょっとしたら自分はまたとんだ失敗をしてしまったのではないか、と少しずつ思い始め……。
 そして街に着いた頃には、あの時の怒りはどこへやら、自分の心の狭さと情けなさに完全に意気消沈していた。
 剣が壊れてしまったのは、どう考えたってアーサーのせいではない。巨人に捕まったからといって、焦って闇雲に振り回した自分の責任なのだ。父より授かった大事な剣であると思っていたのは、誰より己自身であったのに。
 何故、自分は湧き上がる衝動に任せて、そんな当たり前のことさえ、考えられなかったのだろう。
 第一、アーサーを迎えに行った自分が一人で戻ってきたら、明らかにおかしいではないか。ルーカンやベディヴィアは、まだ誤魔化せるかもしれない。可能性は大いに低いが。
 だが、父を騙せる自信は一切ない。このことが知れたら、どれだけの説教をくらうことになるのか、考えただけでも気持ちが沈む。
 大体考えてみれば、万が一アーサーが代用の剣を見つけてきたとしても、元の剣をどうしたかは話さなくてはならない。嘘に嘘を重ねなくてはならないのだ。自分はそこまで嘘が上手くはない。もし、そこでバレてしまえば、普段の倍以上の説教をくらうのは確定だった。
 そうなったとしても、全て自分の蒔いた種である。
 あのまま一緒に戻ってくればよかった。そして父に洞穴で起こったことを正直に話せば、それで丸く収まったのに。
 もう一度アーサーの元へ戻ってみようかとも考えたが、実直な弟は、恐らく兄からの無理難題に熱心に取り組む筈だ。もうあそこにはいないだろう。だからといって、自分だけ父の元に戻るわけにもいかない。
 アーサーを捜しに行くことも出来ず、父やルーカン達の元に戻ることも出来ず、ケイは戻ってきてから、ずっと街の門口の陰に隠れて立ち尽くしていた。そっと街中を覗き見ると、幾人かの騎士達が剣の稽古をしたり、剣の手入れを行ったりしている。大馬上槍試合の準備であろう。
 真剣な面持ちな彼らを見ていたら、何だか無性に惨めな気分になってきた。門の陰に人目につかないように隠れて、自分は何をやっているのか。何故、こんなことになってしまったのだろう。否、そもそもの発端などわかっていた。
(何で謝れなかったんだろう、俺……)
 そう、全てはあの時、アーサーにちゃんと詫びることが出来なかったのが原因なのだ。
 自分の失敗をアーサーに指摘されて、恥ずかしさから八つ当たりして。それを詫びるために彼を捜しに行った。
 しかし、いざ会えてもなかなか言うべき一言を口に出来ず、やっと言えるかと思ったら巨人と対峙するハメになって。それで剣を壊して再び八つ当たりして、現在に至る。改めて思い返すと、今日の自分は本当に駄目な事ばっかりだ。
 もし、あの時謝ることが出来ていたら、今のような状況はなかったかもしれない。
 何故、たったあの一言が口から出てこなかったのだろうか……と、思うケイは考え込んだ末、あることを思い出した。
 自分が、これまで一度も弟に対して謝ったことがなかったことを。
 兄弟として共に過ごしてきた十五年間、自分達がケンカをしたのはごくわずかだ。それも自分が一方的に怒るばかりだったので、ケンカといえるのか難しいが。
 明らかに自分が悪い時もあった。というか、ほとんどそうだった。それでも謝ることは絶対にしてこなかった。
 理由は簡単である。負けたくなかったからだ。
 弟に何かしらで勝ったことなど何もなかったが、『謝る』という行為をすることは完全な敗北を認めることだと、自分は幼い頃から考えていた。だから、何があっても自分から謝ることを頑なに拒否し続けていたのだ。
 勝てるとは思っていない。けれど、負けたくもなかった。
 騎士となってからは、兄弟の他に主従関係もくっついてきたので、より一層その気持ちが強くなり、いつの間にか兄としての気持ちと主としての気持ちが綯い交ぜになってしまっていたらしい。昔そんな風に考えていたことなど、すっかり忘れてしまっていた。だが、長年張り続けてきた意地は肉体をも縛っていたようだ。あの時たった一言を口に出来なかったのは、それが原因だったのだろう。
 それにしても忘れてしまうとは、何とも都合の良い頭をしているのだろうか、自分は。
 謎が解けて、次に感じたのは脱力感。その場にしゃがみ込んでしまうのを、ケイは壁に手を突くことで、かろうじて堪える。しかし、顔は首が力なく前に垂れているため、地面へと向けられていた。あまりの惨めさに、とても澄んだ青空を直視出来ない。
(本当にアホだ、俺……)
 再度の毒突きは、今までよりも落ち込みが激しかった。
 いっそ、この場に穴でも掘って自分を埋めてしまいたい気分になる。太陽の光がこんなに熱いものだったと、改めて思ってしまう。
 何故こうもアーサーに対して意地を張ってしまうのか、自分でも不思議だった。他の人間には、嫉妬したことも羨ましいと感じたこともないというのに。そもそも、自分と他人を比べたりしたことさえない。他人は他人であり、自分は自分だと、常々考えているから。
 アーサーにだけだ、こんな感情を持つのは。だが、その理由が全く思い当たらない。
 否、今はそんな理由などどうでもいいのだ。
 そろそろ陽が傾きかけてきている。このままでは開会式に間に合わなくなってしまう可能性が高い。自分も準備しなければならないのだが、一人で父やルーカン達に会ってしまうことを考えれば、街中に入るのは躊躇われる。
 ならば、代用の剣を見つけていようといまいと、アーサーが戻ってくるのを待つしかなかった。せめて、こちらにやって来る弟らしき影を確認しておかなければ。
 ケイは、今出せる精一杯の力で顔を上げた。試合に参加する騎士や観戦目当ての旅行者など、様々な人が行き交う街道を、目を細めて凝視する。
 すると、遠くから駆け足で来る、ひとつの人影が目に入った。他が緩やかな足取りの者が多い中だからというのもあるが、そうでなくてもその人影は確実に目立っただろう。
 醸し出す雰囲気が違うことが、ここからでもよくわかるからだ。そしてケイが知る限り、そんな相手は一人しかいない。
 人影――アーサーは、両腕で長く大きな白い包みを抱えながらこちらへ駆けてくる。白肌の顔面に、風でなびいた幾筋の髪が頬にかかり、美貌を更に惹き立たせていた。通り過ぎる者は皆、太陽のように眩しいその姿に魅了されていく。
 それは、ケイが幼少の頃からよく見ていた光景だった。アーサーにひと目出会った者は、誰もが惹き付けられてやまなくなるのだ。どちらかといえば、人に敬遠される自分とは正反対である。
 徐々に近づいてくるアーサーは、ふと何かに気付いたのか瞳を輝かせ始めた。更に足を速め、片手を上げてブンブンと強く振ってくる。
「兄上―!」
 突然呼ばれて、ケイはぎょっとした。こちらに気付いて、手を振ってきたのか。
 しかし、何故門口の陰に隠れているのに、自分がここにいることがわかったのだろう?
 不思議に思っていると、あちこちから視線を感じ始める。顔を向けてみれば、街へ入っていく騎士や旅行者が、自分を見ながら通り過ぎていくではないか。彼らも太陽のような少年に手を振られているのが誰なのか気付いたようだ。一気に居心地が悪くなる。
 しかもよく見たら、今自分が立っているのは門口の陰ではなく門前だった。アーサーが来たことに驚いたのか何かして、知らない内に足が動いていたのかもしれない。だから弟は兄に気付いたのだろう。
 周囲が見ているので、再び隠れることも出来ず思い迷っていたら、アーサーは自分の前へと辿り着いた。息を整える間もなく、ケイの足下に跪く。
「遅くなって申し訳ありません、兄上」
 自分たちを魅了した少年が、そんなへりくだった態度を取ったことに周囲の者は驚いているようだ。視線は彼から、その彼に跪かれている自分へと向けられる。小声で「兄……?」とか「あれが……?」などのひそひそ声も微かに耳に入ってきた。
 似てる似てない云々の話ではない。兄とはいえ、何の特徴もない地味な騎士が人を惹き付ける少年に敬われているのが、実に不相応だと言い合っているのだ。
 被害妄想みたいだが、恐らく当たっている。同じようなことを何度も経験しているからだ。居心地が悪いことに変わりはないが、気にしないように務める。
 改めてアーサーを見下ろし、横に置いてある布にくるまった、長く大きな包みに視線を向けた。中身は見えずとも、その形から剣であろうことが伺える。この短時間で代わりの剣を見つけたことに、ケイは素直に驚きを感じていた。
「…本当に…見つけてきたのか?」
 驚きは、言葉にも如実に反映される。はい、と答えると、アーサーは顔を上げて包みを差し出してきた。
「兄上の大事な剣を壊してしまった責を果たさなければという僕の願いを、天が応えてくださいました。お納め下さい、これがその剣です」
 やはり剣が壊れたのは自分のせいだと思っていたのか、とケイは居たたまれない気持ちになる。本当の原因はこちらにあるのだから。
 天が応えたのかどうかは知らないが、現に代用の剣を持ってきたのだ。今は、それを素直に誉めてやるべきだろう。
 しかし、ひとつ疑問が残る。
「お前…これをどこで手に入れたんだ?」
 ここにあるということは、どこかから手に入れたということだ。では、この剣は元々どこにあったものなのか?
 アーサーに限ってないだろうが、まさか盗んだんじゃなかろうかと物騒な事を考えてしまう。聞かれた本人は、こちらの含みある言い方に気付いていないようで、さらりと答えてきた。
「丘の上の教会の、裏手にある岩に突き刺さっているのを見つけたのです。そこから抜いて持ってきました」
「教…会…?」
 その単語を聞いて、ケイの脳裏にある記憶が蘇ってきた。あれは魔物討伐を終えた時のこと。ベディヴィアと共に行った集合場所であった丘の上の教会で、ひとつの風景に目を奪われた。
 大岩に突き刺さる、神々しい剣。
 そこでベディヴィアから話を聞いた。あれの名前が『王者の剣』である事。あれを抜いた者こそ、ログレスの王の資格を持つ者である事を。それがここにあるということは……。
 まさか、とケイは首を横に振って思い浮かんだ結論を否定する。そんなわけがない。きっと別物だ。そう思うのだが、何故か中身を見るのを怖く感じている自分がいる。
「兄上、見て下さい。素晴らしい剣なんですよ」
「ば、馬鹿。ここで出すな」
 こちらの混乱など露知らず、嬉しそうに布を外そうとしたアーサーを慌てて止める。驚く彼を無視して、そのまま手を取り、早足で駆け出した。
 あちこちから視線が投げかけられたが、今のケイには、それに気付く余裕もない。
 街中に入り、自分達が泊まっている宿へと向かう。その裏手に回ったところで、ようやく手を離した。引き摺る形になっていたため、急に手を離されたアーサーは、やや体をよろめかせる。
「どうされたんですか、兄上?」
 背中を向けたままの兄に声をかけてくるアーサー。その声音からは、戸惑いと憂慮が感じられる。
「この剣ではお気に召しませんでしたか?それとも…あっ、人前で兄上とお呼びしてしまったことが」
「いや…そうじゃなくて」
 振り向いてもらえないことで不安に駆られたアーサーの勘違いを打ち消す。
 ケイは迷っていた。否、困惑していたという方が正しいか。
 正直、包みの中を見たくない。もし、中身が自分の思い描いたものであったらと考えると妙に怖くてたまらないのだ。見てしまったら最後、今までの何かが変わってしまうような、そんな気がするから。
 だからといって、このままでいるわけにもいかないのも事実だった。ならば、覚悟を決めるしかない。ケイはひとつ溜息を吐くと振り返った。
「見せてみろ」
「え?」
「剣だよ、剣。とにかく見せてみろ」
 兄にそう言われて、途端に嬉しそうな表情になったアーサーは、はい、と元気よく頷き、布を丁寧に外していく。
 その姿を見ながら、ケイは心臓がまるで全速力で走った後のように、激しく動くのを感じていた。体中のありとあらゆるところから、じわりと汗が噴き出していく。徐々に中身が露わになっていくにつれて、何度も生唾を呑み込む。
 そして、布が完全に外されたところで、ケイは愕然となった。

 包みの中から出てきたのは、まぎれもなく、あの時見た『王者の剣』だったからである。

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[ 2006/07/22 23:23 ] オリジナル小説連載 | TB(0) | CM(0)
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2006年5月16日開設

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