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Sir Kay~Brother Of King~第一章<4>




   第一章「騎士ケイ」<4>



 アーサーは良く出来た弟である。そう、優秀過ぎるほどに。
 勉学も教養も剣術も、人を惹き付ける魅力も。アーサーは、全てにおいてケイに勝っていた。幼少の頃はそれを自慢として捉える事が出来たが、時が経つにつれて感情は歪んだものへと変化していった。
 年を追うごとに膨れ上がる劣等感と嫉妬。世界中の全てがアーサーを愛し、自分などいらないと言っているように見えてくるというくだらない被害妄想。こういった負の想いは、ケイの性格にも暗い影を落とすこととなってしまう。
 嫌味を言っては卑屈な態度を取り、周囲をかき乱す。そんなことを繰り返すようになり、案の定、ケイの傍からは人が離れていった。
 彼の複雑な想いを理解し、変わらず接してくれたのはルーカンとベディヴィア兄弟、そしてアーサーだけだ。アーサーが理解してくれていることがまた劣等感を引き出すことになるのだが。
 父・エクターは何も言ったことはなかったが、知っていることだろう。
 ケイとてわかっているのだ。他人はともかく、両親が自分を心から愛してくれていること。アーサーが、ただ純粋に自分を兄として慕っていること。
 何より自分自身が、負の感情の裏にアーサーを愛する気持ちが確かにあるということを。
 幼少の頃、アーサーは夜になると母・エリスの歌を聴きながらでないと眠れない程に暗闇が苦手だった。エリスは綺麗な歌声を持った女性で、ケイもそれを受け継いでおり、いくつかの歌を教わったことがある。その母が悲しくも病で逝去した後、アーサーに歌を聴かせる役目は、自然にケイのものとなった。
 夜ごと暗闇が怖いと泣くアーサーを、邪魔だと思いながらも突き放すことが出来ず、結局寝付くまで歌っていたことを思い出す。あの頃は今ほど負の感情に支配されることはなかった。むしろ、弟を守ってやらなければという気持ちの方が強かった。
 アーサーを守る。
 そんな風に思い始めたのは、その頃だったろうか。もっとそれ以前からだった気もするが、思い出せない。
 だが、そんな想いは果たして今必要だろうか。能力の全てはアーサーの方が上なのだ。自分が彼を守らなければならない場面など、正直想像付かない。
 アーサーも、あと少しすれば正式な騎士として認められる。そのときどうなるのだろうか。父は、実子より優秀な養子を後継者とするかもしれない。
 そう考えると、再び心は負の感情で一杯になる。こんなことではいけないとわかっているのに。
 しかし感情というのは、理性では片付けられないものがあるのだ。
 ちょっとしたことでアーサーにきつく当たってしまう。今の苛立ちもベディヴィアの言ったように、元々はケイが原因だった。
 そもそもこの街に来たのは、新年の祝祭として大馬上槍試合が行われるためであった。数多くの騎士達が己の腕を競い合うこの試合に、従者のアーサー以外の三人は参加することになっている。
 長い時間馬を走らせ、ようやく街に辿り着いたケイ達だったが、その耳に最初に入ってきたのは、マーリンの予見による魔物討伐の知らせだった。
 大急ぎで宿に荷物を置き、仕度をして外に出たケイは、緊張を抑えようと精神を集中させた。しかし次の瞬間、有り得ない失敗をしてしまったことに気付くことになる。
 何と、愛用の剣を宿に置き忘れてしまったのだ。
 これは昔からのケイの性格であった。焦ったり気を張ったりすると、必ず何か失敗してしまうのである。しかもそのことには周りに指摘されるまで気付かないのだ。
 そして、今回その指摘をしたのが、他でもないアーサーだった。
 騎士でありながら、これから魔物討伐へ行く身でありながら、最も必要な剣を忘れたこと。そんな恥ずべき失敗を、よりにもよって弟に指摘されたことに、思わず頭に血が上ってしまい、
『従者のお前が持ってくるべきだろう。忘れたのはお前のせいだ!』
 などと無茶苦茶なことを口走り、剣を取ってくるよう命じてしまったのである。
 忘れたのはケイなのだから自分で取りに行くべきだと、ルーカンは言った。他の誰でもそう言っただろう。
 しかし兄を慕う弟は理不尽な言葉に反論するどころか、自分の至らなさを詫びて、すぐさま宿へと走っていった。
 その姿を見て、心が痛まなかった訳ではない。なかなか戻らず、何かあったのかと考えなかった訳でもない。戻ってきたら、今度はこちらから詫びようと思ってもいた。だが、いざアーサーの顔を見ると、つい冷たく当たってしまう。その度に、自分の心の狭さに嫌気が差す。
 そして、その原因であるアーサーにまた苛立ってしまう。
 まるで堂々巡りだ。
 終わる兆しを見せない今の戦乱のように、ケイの心が晴れる日も遠かった。



 ケイとベディヴィアが教会に辿り着いた時には、周辺の魔物はすでに片付けられていた。担当であった騎士達も、各々疲れを癒すため、座ったり雑談したりしている。
 そんな、和やかな雰囲気とは対象に、先程の口論を引きずっているのか二人の間には気まずい空気が流れていた。立ったまま、一言も喋らない。
 とはいっても、声をかけづらいというわけではない。そんなことで気まずくなるような、薄い関係ではない。
 第一、気まずいと思っているのも、先程の口論を引きずっているのも、アーサーに八つ当たりしたという図星を指されたケイだけなのだ。ベディヴィアの方は、そんな空気を少しも醸し出してはいない。
 ケイ本人もわかっていたが、自分から今の空気を変えるのはどうも癪だと思った。かといって、あっちからいつも通りに話しかけられても無視してしまうだろう。
 何だか今日は、色んな事に苛立っている気がする。
 せめて今だけは、そんな自分の感情から目を背けたかった。
 微動だにしないベディヴィアの背中をひと睨みすると、辺りを見回し始める。
 その時、あるものに気付いた。
 教会の裏手に大きな岩があり、そこには一振りの剣が突き刺さっているではないか。
 柄にはいくつもの宝石が散りばめられており、それでいて毒々しさを感じさせず、むしろ神秘性を漂わせていた。
 剣の神々しさに魅了されたのか、気まずさも忘れてケイはベディヴィアに話しかける。
「なあ……。あれ、なんだ?」
 訊ねられてベディヴィアも、剣のある方向に視線を移した。
「あれは王者の剣だ」
「王者の剣?」
 耳慣れない名にケイは眉を寄せる。ベディヴィアは話を続けた。
「あの剣の呼び名だ。抜いた者は、このログレスの正統な王としての資格があるんだそうだ。マーリン殿がお触れを出したらしい。今のところ抜けた者がいるって話は聞いていないが」
「あのじいさんが?」
 赤子のアーサーを連れてきた老人の名が出たことに、ケイは驚く。
 マーリンはエクターの元に預けた後も、幾度となくアーサーに会いに来ており、ケイとも顔見知りだ。
 そもそもケイの家がアーサーを預かることになったのは、エリスの両親、つまりケイの祖父母とマーリンがその昔、何かしらの縁があったからだったらしい。
 一体どのような縁なのか、ケイも詳しい事は聞いていないのでわからないが。
 マーリンはアーサーを実の孫のように可愛がり、アーサーもよく懐いている。魔法や勉強は、彼から教わっていた。
 ケイも直接ではないが、何度か助言をもらったことがあった。
 しかし、ケイはこの老人がどうしても好きになれない。
 純粋で人を疑うことを知らないアーサーとは反対に、ケイは疑い深い性格だ。だから、アーサーに向ける、あの柔和な笑みの裏に、何かを隠しているような雰囲気がしてならないのだ。
 考えすぎかもしれないが、今なおその気持ちは消えない。
「挑戦するのか」
「しねぇよ。俺に抜けたら、大抵の奴が王になれるぜ」
「だろうな」
「…嘘でも否定してやるって気持ちはないのかよ」
「ない」
「聞いた俺が馬鹿だった……」
「なら聞くな」
「お前な……!」
 剣を見ながら、そんな口論を繰り広げていると。
「おっ、もう来ていたのか」
 後ろから、聞き慣れた声が近づいてくるのに気付き、二人は振り返る。
 思った通り、それはルーカンだった。岩壁で共に戦った騎士達とこちらへやって来る。
「ルーカン」
「遅かったじゃねぇか。ずいぶん手間取ったな」
「ああ、あそこは森に近かったから。洞穴に隠れたり、崖から攻撃してくるヤツもいて大変だったよ」
 自然とベディヴィアの隣に移動しながら、ルーカンはやれやれ、と疲れたように肩を竦めてみせる。
 だが、ケイはそれよりも気にかかることがあった。
 そう、彼と共に来るべき筈の人物がいないのだ。
 視線をあちこちへ移して、もうひとつの人影を捜す。
「どうかしたのかい?」
 声をかけられ、視線を戻すと、ルーカンのにこやかな微笑みが映った。
 明らかに何をしているのか気付いている表情に、カチンと来る。
 腹が立つが、彼はアーサーがどこにいるのか知った上で、ここに来たのだろう。なら、聞いてみるしかない。
「…あいつはどうしたんだよ?」
「あいつって?」
「あいつだよ。わかってんだろ!」
「う~ん。『あいつ』という名の知り合いは思い当たらないなあ」
 微笑んだまま、ルーカンはとぼけたように聞き返してくる。
 無表情で思ったことをズケズケ言ってくるベディヴィアも嫌だが、笑いながら遠回しに包むルーカンはもっと質が悪い。
 「正反対」といわれることの多いこの兄弟。だが付き合いの長いケイにしてみれば似たもの兄弟である。
 結局口で勝つことが出来ず、最後はこちらが折れるしかなくなるのだ。
「アーサーはどうしたのかって聞いてんだよ!」
 やっと名前を口にするケイに満足したのか、ルーカンは大袈裟に手を振ってみせた。
「何だ、アーサーの事だったのか。アーサーなら、まだあっちだよ。洞穴に用があるらしいから、先に街へ戻っていてほしいって」
 そう言って岩壁の方を指し示す。ケイは言葉に詰まった。
「戻っていてほしいって……」
「もう魔物がいないことは、ちゃんと見てきたけれどね。まあ、仮にいたとしても大丈夫だろう。この辺りの魔物でアーサーの腕に敵うヤツなんていないさ」
 ルーカンの言葉に、ベディヴィアも頷く。
 確かにアーサーの剣の腕前は、ここにいる騎士達の中でも群を抜いている。ゴブリンやウルフ程度に負けることは、まずない筈だ。
 しかし、ケイは妙に胸が騒ぐのを感じていた。
 そういった勘が、特に鋭いわけではない。だからこそ、ひどく気になるのだ。
 とはいっても先程の事もあってか、自分から「迎えに行く」とは意地もあって、どうも言いにくい。
 どうすればいいのかとあれこれと迷っていると、突然ルーカンが、ポンと手を叩いた。
「そうそう。アーサーからさっき何故遅くなったのか、理由を聞いたんだが」
 こちらの葛藤を見抜かれたのか。あまりにも丁度良いタイミングにケイは不満だったが止めようとはせず、続きを促すように睨むだけにした。
 その様子に、ルーカンは苦笑を浮かべながら続ける。
「途中でマーリン様にお会いしたんだそうだ」
「じいさんに?」
 再びあの老人の名が出たことに、ケイは少なからず驚く。
 ルーカンが更に先を話す。
「マーリン様は今回の魔物出没を予見されただろ?それで色々助言をして下さったんだと。そんな心遣いを、無下になど出来ないじゃないか。アーサーの性格なら、尚更にな」
「…だったら」
 戻ってきた時にそう言えば良かったじゃないかと、ケイは心の中で悪態を付いた。もっとも、あの場で聞いていたなら「言い訳すんな!」とでも言っていただろうが。
 そんな兄の心情を理解していたからなのか。はたまた、どんな理由があろうと自分の責任だと思っていたから何も言わなかったのか。
 後者であることは、容易に想像は付いた。
 ケイが黙然していると、ルーカンがあっ、と声を出した。そして付け加える。
「アーサーには内緒にしといてくれって言われていたんだった。悪いが黙っていてくれ」
 茶目っ気で人差し指を押さえるルーカンに、ケイはまたカチンと来た。
 要は、行って謝ってこいと言っているのだ。直接口にしないのは、あくまでもこちらが自主的に行動したと見せるためだろう。それが彼の常のやり方であった。
 何だかこの男に背中を押された感じなのが癪にさわるが、今はそれを素直に受け取ることにして、岩壁へと歩き出す。
 あくまでも自分の意志だと主張するように。
「どこへ?」
 ベディヴィアが聞く。声音からしてわかっているのは見え見えだ。
「迎えに行く。あいつ遅れると色々困るから」
 面倒くさそうにケイは答える。わかっているなら聞かないでほしいと思う。
「可愛い弟だものな」
「従者、だからだ!何かあったら俺のせいになるんだよ」
 からかうようなルーカンの言葉を即座に否定して振り返る。
 ルーカンはケイを手で制しながら宥める。
「はいはい。じゃあ、私達は先に戻っているから。アーサーは頼むよ」
 そう言って、ルーカンはベディヴィアと共に他の騎士達の元へと行ってしまう。
 ケイはその姿をしばらく睨んでいたが、気を取り直すと再びアーサーのいるであろう岩壁の方へ歩き始めるのだった。

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[ 2006/07/01 23:46 ] オリジナル小説連載 | TB(0) | CM(0)
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2006年5月16日開設

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