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Sir Kay~Brother Of King~第三章<21>




   第三章「弟の影となり」<21>



 エクター卿の葬儀は厳かに、だが多くの葬列者を集い、行われた。
 その騎士の鑑とも言えるべき実直な人柄であった彼の死を誰もが嘆き悲しみ、そしてそれ以上に彼が遺した数々の教えを、今度は自分達が後生へと伝えていこうと決意を固める。
 彼の死が与えたのは悲しみだけでなく、これからを生きていく強さ。
 それを葬列者の表情から感じ取ったケイは、改めて父の存在の大きさを噛み締めていた。
 父の死と同時に、ケイは正式に家を継いだ。とはいえ、キャメロットの宰相でもある為、この自邸には留まらず、近々そちらへ移ることになっている。自邸は定期的に自分が訪れる以外は、別の者に管理してもらうつもりだ。普通なら、主が邸に留まらないことは不可能だが、父の名は知れていても、そもそも家自体の身分はさほど高くはないケイにはさして問題にはならない。家を守ることも大事であるが、それ以上に宰相としてキャメロットに留まり、アーサーの傍にいることの方が重要である。
 それが、自分自身の決めたことであり、そして父の遺言を守ることに繋がるのだ。
「ケイ」
 喪主として取り仕切った葬儀が終わり、葬列者の見送りを粗方済ませたケイを、いつもの声が呼びかけてきた。
 振り返れば自分同様、黒い喪服に身を包んだルーカンとベディヴィアが立っている。軽く眉を寄せたその表情には、こちらを気遣う感情が見て取れた。
「こんな日に何を言っても気休めにもならないが……あまり気を落とすな」
 ルーカンが歩み寄り、肩を叩いてくる。常に涼しい顔をして飄々としているが、彼も後ろの弟も父を尊敬していた者の一人であったことを、ケイは知っている。だから、こちらを気遣う気持ちも半端なものではない。そうでなくても、幼少の頃からの付き合いである自分の父が亡くなったのだ。自分が意気消沈していないか、心配してくるのは当然だろう。常なら、そんな彼らについ悪態をついてしまうが、今はその心配りが素直に嬉しく、自然とそれが態度にも表れた。
「ああ、分かっている。俺達にはこれからやらなきゃならない事が山ほどあるんだ。いつまでもへこたれてるわけにはいかない」
 こちらの返答が意外なものだったのか、二人は少々驚いた顔になった。
「意外だ」
「思っていたより、前向きじゃないか」
 確かに彼らの言うことは尤もである。自分がこのようにポジティブな考え方をするのは、極めて珍しい。大したことでもないことをいつまでも気にしたり、ぐちぐち文句を言い続けるのが、常の自分なのだから。そう思うと何故か可笑しくなって、ケイは思わず苦笑をもらした。
「親父の言葉を、ちゃんと受け取ったからかもな。ところで、アーサーを知らないか?」
 突然の話題変更だったかもしれないが、ケイは今の自分の目的について尋ねる。
 この葬儀で、アーサーは喪主の自分を補佐してくれた。彼は今、自分にとっても父にとっても主である。だが、エクターが彼を育てたことは事実であり、彼もまた父を慕っていた。だから、周囲の反対を押し切って、ケイはこの葬儀の間だけは、アーサーを自分の家の者として扱ったのである。
 葬儀中、アーサーは決して涙は見せず、その表情も周囲を気遣うものだった。いくら今はこの家の者に戻っているとはいえ、皆の前で彼が王であるのは変わらない。本人にもその自覚があり、気を張っていたのだろう。その後葬儀が終わり、別々に葬列者へ挨拶回りをしていたら、いつの間にか姿が見えなくなっていたのだ。
「バルコニーにいる」
 ベディヴィアがバルコニーへ続く窓のひとつを指し示す。ケイは、その方向を一瞥すると、視線を戻して顔に僅かな笑みを浮かべた。
「そうか。サンキュ」
 腰に挿した剣を構え直し、ケイは二人に手を振りかざしながらバルコニーへと足を動かす。すると。
「あ……ケイ!」
 ルーカンが急に呼び止めてきた。ケイは訝しみながらも足を止め、振り返る。
「何だよ?」
 呼び止めた理由を問うが、当のルーカンは口元に手を当てて考えるように黙ったまま。それに眉間の皺を寄せるが、視線が自分の剣にきていることに気付いた時点で、彼が何を言わんとしているのかが理解出来た。
「いや、いいんだ。早く行くといい」
 首を横に振り、微笑みながら今度はバルコニーへ行くのを促す。このように自身で話しかけながら、自身で勝手に話を切り上げることは、この男にはよくある。いつもならちゃんと吐き出させるまで問い詰めるところだが、今回は何を心中で思っているのかを自分で理解出来た為、追求はしなかった。
 それに何より、今は早くアーサーの元に行かねばならない。
 行って、話をしたい。
 その思いが先に出て、ケイはもう一度手を振ると再び足をバルコニーへ動かした。
 少し開いていた窓を静かに開ける。カーテンを退かせてみれば、確かにバルコニーにはアーサーの姿があった。手摺りに身体を預け、夜空を見上げているその背は、周囲の暗闇を身に纏っていて、どこか悲しげに見える。
 窓を身体ひとつ通れるぐらいに開く。そこに身体を滑り込ませ、ケイもバルコニーへと出た。夜空に神経を集中しているのか、アーサーは気付いていないようだ。
 室内から見た背中は、こうして近くで見ると悲しげなだけでなく、少し寒々しい。それはこの寒い中、喪服しか身に着けていないことも原因だろう。
 何か探してくるべきかと、窓の方に視線を戻そうとして、はたと気付く。バルコニーの片隅にぽつんと椅子がひとつだけ置かれており、その背もたれには誰かが忘れていったらしいストールが掛かっていた。それを勝手ながら拝借すると、そっとアーサーの肩にかけた。
 瞬間、僅かにビクリと肩を竦ませたアーサーが勢いよく振り返り、こちらの姿を目に留めて更に驚く。
「……兄上?」
「風邪をひくぞ。今お前が倒れたら大変だろう」
 驚いた表情のまま、肩にかけられたストールとこちらを交互に見つめてくる。その目元はうっすらと赤い。何となく思っていたが、やはりここで泣いていたのだろう。
「……ありがとうございます」
 こちらの視線を感じたのか。小さく頭を下げると夜空の方へ向き直した。ケイは黙ったまま弟の隣に並び、同じように夜空を見上げる。
 風の音以外は何も聞こえない空間に二人で佇む。こんなことは、本当に久しぶりだ。そして、弟の隣でこんなにも穏やかな気持ちでいられるのも。まるで、子供の頃に戻ったような感覚に陥っていく。
 あの、共に流れ星を探した夜に。
「父上は……無事にアヴァロンへ旅立てたのでしょうか?」
 隣から声が聞こえたのにハッとして振り向くが、アーサーは夜空に目を向けたままだったので自分も視線を戻した。
「大丈夫だろう。きっと、お袋が迎えにきてくれたさ」
「そうですね……」
 こちらの言葉に小さく返答してくる。すると、ふいに頭を下げ、項垂れるような形になった。再び振り向いてみれば、覆う髪の隙間からきらりと光るものが目に入る。
「泣くなよ。自分が死んだ時は泣かずに笑えと、親父がよく言っていただろう」
「分かっています。けれど……」
 肩が震えてきた思ったら、声も掠れていく。完全に泣いている状態になったようだ。それにケイは、ため息を吐く。
「ったく、相変わらず泣き虫だな」
 小さく一人ごちると、アーサーが肩の震えを止めて顔を上げた。その表情に涙はなく、どこか憮然としている。
「……私は今まで泣き虫だったことなどありません」
 どうやらそこに引っかかったらしい。そういえば、こんな表情をするアーサーも久しぶりだ。普段から純粋で真っ直ぐな性格の弟がこんな表情をするというのは、大抵の人間は想像も出来ないだろう。だが、実は弟は時折こういった表情をしたりすることを、自分は知っていた。何だかひどく懐かしくて、思わず意地の悪い笑みが浮かんだ。
「へえ、暗闇が怖くて泣いて、毎晩人に子守歌をせがんだのはどこの誰だっけな?」
 子供の頃の事を引き合いに出されて、アーサーはぐっと息を詰まらせた。みるみる顔が赤くなり、それを隠すようにそっぽを向く。
「意地悪を言わないで下さい」
 わかりやすい態度が可笑しくて、ケイは声を立てて笑う。昔はこんな風に少し拗ねることも多かった。優秀な面が目立つ弟であったが、こうして思い出すと普通の子供らしい部分も確かにあったのだ。
 笑うこちらを、最初は怒ったような目つきで見ていたが、次第につられてきたのか口元が綻び始め、やがて二人で顔を見合わせて笑い合った。昔から、そして王となってからもアーサーは微笑みを絶やさないが、今のそれはどこか作ったようなものばかりで。こんな風に自然と笑う姿を見るのも久しぶりだった。
 そこでふと気付く。
 自分も、こんな風にアーサーの前で笑うことが久しくなかったことを。
「……ですが、兄上の歌にいつも救われていたのは、事実です」
 笑いが収まると、アーサーが急にそんなことを言ってきた。意味が分からず、首を傾げる。
「兄上の歌はいつも私を導いてくれていました。巨人族の里でも」
「巨人族の……?」
 思いがけない言葉にケイは眉を寄せる。自分が巨人族の里へ行ったことは話していたが、歌で巨人族を説得したことは黙っていた。巨人族の長にも言わないようにと口止めしてきたのである。だのに、何故アーサーがそのことを知っているのか。
 訝しく思っていると、アーサーは更に言った。
「里へ向かう途中、道に迷ってしまったことがあったのです。このまま進むか戻るか考え、戻ろうかと思った時、聞こえたのです。兄上の歌声が」
 ケイは目を丸くする。彼らが巨人族の里からどれくらいの距離で迷ったのかは謎だ。しかし、里は岩山に囲まれていたので、とても外にまで自分の歌声が響いたとは考えられない。だが、アーサーは確かに聞いたという。
「ランスロットもガウェインも聞こえてはいませんでしたが、あれは決して幻ではなかった。現にそれを辿りながら進んでいったら、迷い道から抜け出すことが出来たのです」
 目を閉じ、その時のことを頭に思い描くかのように弟は言った。その穏やかな表情は、とても偽りを口しているとは思えない。聞き間違いということもあり得る。道に迷い、切羽詰まっている状況の中で耳にした何かが、たまたま自分の歌声に似ていただけかもしれない。それをたまたまランスロットとガウェインは聞き漏らしたのかもしれない。そう考える方が自然である。
 しかし、ケイはその考えを捨てた。アーサーの言っていることは正しいと、何故かそう思うことにしたのだ。理由は上手く言えない。けれど、アーサーの口から聞くと、普通は有り得ないことも有り得るのかもしれないと感じてきてしまうのだ。
 それと……もしかしたら、自分もそう思いたかったのかもしれない。アーサーが、アーサーだけに自分の歌声が聞こえたことを。
「歌だけではない。兄上がいて下さったからこそ、私は最後まで戦い抜くことが出来ました。それなのに……私はいつもワガママを言ってばかりで、重荷まで背負わせて……。兄上が私に下さっているものの何分の一も返せない……」
 アーサーの顔から微笑みが消え、代わりに苦渋の表情が浮かぶ。
 『重荷』という言葉がケイの心に突き刺さった。それがモルゴースとの一件のことを示しているのは、一目瞭然だ。あの日の事を知っているのは、当事者以外ではマーリン、モルガン、そして自分の三人のみ。その中でマーリンはどこかへと去り、モルガンも神出鬼没。つまり、常に傍にいて知る者は、自分だけだ。その自分を見る度に己の犯した過ちを思い出してしまうのかもしれない。
 否、弟はどんな時でも決して忘れはしていないだろう。己の過ちを。
『人はその罪を、身をもって知ってようやく己を戒めるものだ。これでアーサーは、この先良き王であり続けることだろう』
 マーリンの残した言葉のひとつが蘇り、ケイは苦々しい思いに駆られる。悔しいが、正しくあの老人の言うとおりになった。これから先、アーサーは過ちを悔やみ、己を戒め、王として生きていくことだろう。強い戒めは、弟をどこまでもストイックにしていく筈だ。多くの誘惑をはね除け、立派ログレスを治めていくだろう。
 しかし、それはアーサーの心に一生平安を与えてはくれないということだ。国が平和になればなるほど、きっとアーサーはより己を戒めていく。たった一人、誰にも打ち明けることの出来ない秘密を抱えながら。
 そんな弟に、彼の過ちを知る自分が出来ることは、たったひとつしかない。だが、その為にはまずしなければならない。そして、伝えなければならないことがあった。
「アーサー」
 夜空を見上げながら静かにその名を呼ぶ。顔を上げたのを確認し、一度大きく息を吸い込んでから言った。
「俺さ、ずっとお前を妬んでいた」
 アーサーが驚いたのが空気で分かる。それもそうだ。こんな風に自分の本当の気持ちを吐露したのは初めてなのだから。
「剣も弓も馬も、そして勉学も。何一つお前に敵わなかった。周りからお前と比べられる度に腹を立てて、お前のことも嫌になっていった」
 腰に挿した剣にそっと片手を添える。
 今まで思っていても決して言葉にすることはなかった。しようとも思わなかった。言ったところでどうとなるわけでもなし、わざわざ言って気まずくなるのも面倒だったのだ。しかし今は。父の葬儀である今日だからこそ言わなければならない。これから先の為にも、自分の本心を弟に伝えなければならなかったのだ。
「それは……私も同じですよ」
 声に押されるように顔を向ける。アーサーが苦笑を浮かべて言った。
「兄上の歌声には、聞く者全てを癒す力がありました。誰かを癒すということは、そう簡単に出来るものではない。それができる兄上が、私はとても羨ましかった」
 それは、自分が抱えているような暗い気持ちとは異なるだろう。けれど、アーサーが自分を羨ましく思っていたとは意外だった。自分がアーサーに羨ましがられるところなどないと思っていたし、何よりこの弟に相手を妬む気持ちがあるとは思わなかった。
 そこでようやく感じ取った。結局自分達は、どちらも父を超えることが出来なかったのだ。お互いに弱い感情に振り回されてばかりで、実直で人の良いところを見極める目に優れ、その良いところを尊重出来た父とはほど遠い。常に前にいると思っていた弟が、実はずっと今みたいに同じ位置にいたことに、今更ながら気付いた。
 改めて弟を見やる。すると、思った以上に近くアーサーはいた。しっかりと見てみれば、彼の目線が自分より少し上になっていることを知る。確かほんの数ヶ月前までは、同じくらいであったのに。こちらが目を背けている間にどんどん成長していっているのだ。そして、これからもどんどん成長していくのだろう。自分よりもっと背が高くなり、顔立ちも凛々しくなり。今もエクスカリバーを抜く前よりも立派な表情をしているが、それも遙かに超えていくだろう。
(エクスカリバー……)
 脳裏に自分達の岐路となった日の記憶が鮮やかに蘇ってくる。
 そう。自分には隠していた嫉妬心を吐露する以外にもしなければならないことがあった。
「あの日、エクスカリバーを抜いたお前に、そんな気持ちがあったまま忠誠を誓ったんだ。……だから」
 ケイはアーサーを見つめる。アーサーもまた、いつになく真剣な兄を見つめ返してくる。十五年間、ずっと傍にいたけれど、こんなにも弟を身近に感じたのは初めてだった。
「だから、もう一度やり直さないか」
 こちらの言葉にアーサーが目を見開く。驚いたというよりも意味を図りかねているといったところか。
 説明はせず、ケイはアーサーの足下に跪いた。何かを言わせる前に腰の鞘から剣を引き抜き、前に差し出す。
「兄上、この剣は……」
 アーサーが呆然と剣を見つめる。この剣が何なのか分かったのだろう。切っ先部分が折れてしまっている、この剣の意味を。
 ケイは肯定するようにひとつ頷いた。
「そう、お前と巨人族に遭遇した時に折れちまった剣だ。もう戦いに使うことは出来まいけれど、これは親父がくれたもの。どの剣よりも思い入れがある。だから、この剣で改めてお前に誓いを立てたい」
 あれはまだ自分達がただの兄弟であった頃のこと。自分が騎士となった時に父が贈ってくれたというだけで、どんな剣よりも思い入れがあるけれど、これが折れてしまったことが、アーサーがエクスカリバーを抜くきっかけになったともいえるので、自分達にとって非常に因縁深い剣なのである。そんな様々な想いが詰まった剣だからこそ、前のよりも確固たる誓いを立てることが出来るのだと、ケイは思った。
 目を伏せて大きく息を吸い、静かにゆっくりと誓いの言葉を述べ始める。
「私ケイは、この剣と我が父の名にかけて誓う。騎士として、偉大なるアーサー王に永遠の忠誠と信頼を。そして……」
 本来誓うのは剣のみにであるが、自分はここに父の名を入れた。アーサーにとっても、そして自分にとっても、父は絶対的な存在である。父の葬儀を行った今日という日に、父に誓いを立てることで、自分の決心の強さを主張する。アーサーにもそれが伝わった筈だ。自分の父への想いを誰よりも知っているのは、この弟なのだから。
 静かに、だがはっきりと誓いの言葉を述べていく。騎士として、主への忠誠を誓う言葉を。そして、自分にはもうひとつ立てなければならない誓いがあった。
 瞳を開き、顔を上げ、真っ直ぐにアーサーを見つめる。絶対にもうお前から目を背けたりしないというという想いを込めて。
「兄として、弟に変わらぬ親愛と苦しみを共に背負う覚悟を」
 アーサーが驚きの表情を浮かべ、言葉を失った。ケイはそれ以上何も言わず、ただじっと真っ直ぐに見つめ続ける。
 自分が何よりも誓おうと思ったこと。それは主従の関係になってから捨てるべきか迷い続けてきた、兄弟としての関係。一度は捨てようと決めたその関係を続けていこうと決めたことだ。捨てようとしたことがアーサーに過ちを犯させた要因になったことが理由ではない。あの日から色々な事があって、その中で色々な事を思い出され考えさせられ。それで気付いた。自分が、本当はアーサーと兄弟でいたかっのだと。騎士としてだけでなく、兄としてもアーサーの傍にいたかったのだと。
 自分から終息させようとしておきながら、本当に勝手だとは思う。けれど、これが今の自分の本音なのだ。今更アーサーがそれを受け入れてくれるかは分からない。それでも伝えなければならなかった。これから先、アーサーと共にいる為に。起きてしまった過ちを、共に背負っていける為にも。
 すると、アーサーが自分と同じように屈んできた。差し出した剣にそっと触れ、こちらを見つめてくる。いつの間にかその表情は、泣き笑いのようなものになっていた。
「……貴殿の真摯な想いに応え、私も誓おう。ログレスの王として、貴殿が誇れる主であり続けることを。己の犯した罪を忘れぬことを。そして……」
 ぐっと涙を堪えているようだったが、それでも弟は微笑んだ。
 心底嬉しそうに。
「貴方の弟として、貴方が傍にいてくれることに感謝をいたします」
 そう言って剣に触れていた手でこちらの手を握った。その手は、もう子供の頃のような小さく弱い手ではない。自分と同じように大きく、骨張った手だ。
 けれど、大きかろうと骨張っていようと、これがアーサーの手であることに変わりはない。子供の頃、後ろからついてくる彼を邪魔に思いながらも最後には繋いだ、あの時の手と同じもの。兄として守らなければと感じた、あの時の手だ。
 真っ直ぐにアーサーを見つめる。アーサーもこちらを見つめる。互いに微笑み合いながら。これ以上、もう言葉はいらなかった。互いの想いは、確かに伝わったと感じ取ることが出来たから。
 自分達は、父を超えることは出来なかった。しかし、そのことを恥とは思わない。父が遺した言葉のとおり、自分達は自分達の出来ることで、自分達と愛すべき者達の為になることをしていく。それが自分達の為になり、ひいてはログレスの為になり、何よりも父への恩返しになると信じている。
 マーリンが最後に残した予言の存在もあるが、アーサーと気持ちが通じ合えた今、ケイはもうそれを恐れはしない。たとえログレスを崩壊に導く何かがこの先現れたとしても、自分達なら必ず退けることが出来ると信じている。
 ケイの心は今までにない希望に満ち溢れていた。それはきっとアーサーも同じだと、互いに見つめ合いながら感じ取るのであった。



 多くの悲しみと喜びを経て、アーサーの治世は始まりを迎えた。戦のない、平和な時代がログレスに訪れたのである。
 誠実さとカリスマ性を持った王は、全ての者を惹きつけ、全ての者の尊敬と信頼の念を得た。彼に寄り添う王妃は、その美しさと賢さで、全ての者の憧れの的となった。
 マーリンより譲り受けた『円卓』をもって、ケイ達は正式に『円卓の騎士』を名乗った。その名は、平和の中で緩みがちになる騎士達の意識を引き締める活力となった。
 素晴らしき王とその妻。そして彼らに仕える円卓の騎士達は、この平和を永遠のものとしてくれるだろう。誰もがそう願い、信じて疑わなかった。もちろん、アーサーもケイ達もその願いを叶える為、これからも切磋琢磨していくつもりである。自分達ならログレスに永遠の平和を与えることが可能であると、未来ある若者達も信じて疑わなかったから。



 しかし、ケイもアーサーも、そして誰もまだ知らなかった。
 平和な時は、新たな戦いの芽が出てくる時であることを。
 悲しい運命の糸に手繰り寄せられた命が、今正に産声を上げていることを。
 マーリンの予言の真の意味を。
 そして、平和を打ち砕く存在というものは……想像しているよりも近くにあることを。



 まだ……誰も知らない。

 [第一部完]

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[ 2007/03/17 23:18 ] オリジナル小説連載 | TB(0) | CM(0)
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2006年5月16日開設

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