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Sir Kay~Brother Of King~第三章<14>




   第三章「弟の影となり」<14>



 三人は、何とか騒ぎになる前にエルフの里へ戻ることが出来たのだが、行方が分からなかったことは知られてしまっていたようで、どこへ行っていたのか散々尋問されてしまった。
 しかし、三人は戻る直前、『今回の一件は、坑道が本当にあるのを確認するまでは、とりあえず黙っておこう』と決めていた。その為、口に出来る説明が何一つなく、変に怪しまれてしまったものの、一応アーサー王が戻ってくるまでは保留にされたのはある意味幸運であった。とはいえ、多くの騎士達から疑惑に満ちた瞳に見つめらのは、非常に嫌な気分であったが。ケイにはそれよりも意識を向けなければならない事があった。父・エクターの事である。
 自分が戻ってきたことを、父は何も言わなかった。ただ、自分を静かに見つめていただけであった。
 何故、何も言わないのか。去れ、と言ったのは父の方であったのに。
 聞きたかったが、出来なかった。そんな勇気、今の自分にはまだない。それに、もし聞いたとして、そもそもの原因である『アーサーに仕える意志』について答えろ、と言われても、己の心の形を訴える返答が出来るのかどうかも正直怪しい。もう少し時間が欲しかったのだ。
 周囲から監視されているような日々を過ごすこと三日。ついにアーサーが帰ってきた。もちろん、ガウェインとランスロットも一緒に、である。里は一気に騎士達の歓声で包まれていった。
 彼らの表情は、達成感に満ち溢れている。それが遠目からでも分かり、無事に戻ってきたことと、騎士達は目的を成し遂げられのだろうということ、ケイ達は巨人族が約束を守ってくれたのだろうということで、心から安堵した。
 エルフの里へと入った三人は馬を降りる。アーサーが前へと進み、ガウェインとランスロットは彼より一歩下がった場所に控える。その様子を、騎士達は固唾を呑んで見守っていた。
 自身を囲むように集まった騎士達全てに、アーサーは一度視線を回す。そして、彼らが求めている答えを提示する為、腰からエクスカリバーを鞘ごと外し、彼らの前に掲げた。
 次の瞬間、次々と騎士達の口から感嘆の声が漏れていく。掲げられたエクスカリバーは、鞘に入ったままの状態でありながら、よりその神々しさを増していた。それは、鞘自体の美しさの向上故であることは、誰の目からも明らかである。
 エクスカリバーをじっくり披露した後、アーサーは掲げた姿のまま、高らかに言った。巨大な迷路のような道をかいくぐり、巨人族の里へと辿り着いたこと。長からの試練に耐え、認められたこと。そして、エクスカリバーの鞘を完全なものと成せたことを。
 マーリンの予言の通り、アーサーは二つの『宝』を手に入れた。エクスカリバーの鞘と、優秀な騎士であるランスロットという、二つの『宝』を。
 これで異国からの侵略者達との戦が、よりこちらに有利なものとなったであろう。そう感じ取った騎士達は皆、喜びの声を上げる。アーサーも、その後ろに控えているガウェインとランスロットも、満足そうに微笑む。
 その様子を見ながら、ケイはふと、あることを思った。マーリンの予言通り、アーサーは二つの大きな力を得ることに成功した。そのお陰で騎士達の士気は、最大限まで高まっていっている。恐らく、先に戻った者達も、より神々しくなったエクスカリバーと、大きな試練を乗り越え、またひとつ成長した王を見れば、同じようになるだろう。
 そう考えれば、果たしてわざわざ今もあるのか分からない坑道を探して罠を停止させる必要があるだろうか。正直、今の状態なら、そんなことをしなくても勝てるような気がする。教えてくれた、あのドワーフの老人には悪いが。
 尤もそう思う理由は、戦力と士気の上昇だけではない。もし、坑道を探すとしたら、その分騎士を何人か探索に出さなければならなくなる。そうすれば、せっかくの戦力が低下してしまい、肝心の戦いが危うくなってしまうかもしれないのだ。一度坑道に探索隊を派遣させるというのも思い付くが、すぐに無理だと悟る。今回の二つの『宝探し』の一件で、かなり時間を消費してしまった。探索隊を出して確認してから戦に望む、などと悠長なことをいっていられないのが事実だ。こうしてみると、罠の全停止は、かなりのリスクが伴うのではないか。
 しかし、そう思っても完全に頷くことが出来ないところもある。確実に勝利出来るという計算は、あくまでも侵略者達の戦力のみを想定してのことだ。砦の周囲を張り巡る罠の内容が如何なるものなのか不明である以上、その力は計り知れない。それも踏まえれば、果たしてどちらに軍配が上がるのか、全く予測がつかなくなる可能性もあるのだ。どのような罠があるのか。そういったこともあのドワーフの老人に聞いておけば良かったと、今更後悔しても後の祭りだが。
 罠を停止せずとも勝てるかも知れない。けれど、その罠の力が想像以上であれば負けるかも知れない。二つの答えが頭の中でグルグルと回り続ける。
 そんな風にあれこれと考えていたら、突然一人の騎士が声を上げたことに気付く。何事かと思えば、自分達がアーサー達がいない間、一時行方知れずであったことを報告し始めたではないか。場が一気に静まる。やばい、と思った。自分達のことで場の空気が悪くなるのも嫌だったが、アーサーに今事情を聞かれても納得のいく返答が、自分には出来ないからである。ベディヴィアは喋ってもあるがまましか言わないし、こうなったら口達者なルーカンに上手く言い繕ってもらえるのを願うしかなかった。
 しかし、事情を聞いたアーサーは、不思議なことに彼は自分達を咎めようとはせず、しばらく考え込んだ後、わかった、と言うだけで詰問もしてこなかった。自分達だけでなく、他の騎士達も何人か訝しんだが、王がそう言うのであれば、これ以上蒸し返すことも出来ないと、何も言わなかった。
 話を終わらせ、後ろにいたガウェインとランスロットに声をかけるアーサーを視線で追いながら、ケイは考える。何故、アーサーは、何も聞いてこようとしないのか。
 こちらの様子から、何か事情があると汲んでくれたのだろうか。
 それとも……自分達が何をしようと、キャメロットには何の支障もないといいたいのだろうか。
 尤も、それも当然かもしれない。彼の傍にはガウェインだけでなく、恐らくキャメロットの騎士の中で最強であろうランスロットもいる。自分達が……自分が何をしようと支障はない。彼の片腕は、最早自分ではないのだ。そもそも片腕など、父の言葉があったからこそ周囲からそう認識されただけで、それに相応しいものなど自分は何一つ持ち合わせていなかったけれど。そして、彼の信頼も失った自分には、もうそのように名乗る資格もなかった。
 問いつめられなかったことは、幸運だった。しかし、戻ることを決めた自分にとって、それは素直に喜べる状況ではなかったのだった。
 その後、エルフの長や里の者達に礼と別れを告げ、アーサーら騎士一行は、急ぎ足でキャメロットへと帰還することとなった。とはいっても、エルフ族の秘術『光の道』をキャメロット近くの森へと結びつけてくれた為、戻るのに半日とかからなかったが。先に戻っていた騎士達に迎えられ、休む暇なく皆、来る決戦の時に思いを馳せながら、着々と準備を進めていくこととなる。
 そんな中、ケイ達がキャメロットへと帰還してまず最初に行ったことは、書庫へ行くことだった。色々と考えたが、まずは坑道が本当に過去にあったのかを、古地図を探し出して確認することをケイは決めた。どうするか考えるのは、それからにしようと思う。
 書庫は、城から少し離れた一個の建物の中にある。その建物は、丁度太陽から死角の場所にあり、中は昼間でもあまり明るくない。書庫へ来ることは、ケイはこの時が初めてだったが、ルーカンはキャメロットに来てから何度か通ったらしく、いくつか説明をしてくれたのだ。
 古く軋んだ扉を開け、中へと入って最初に感じたのは、埃とカビの混じった臭いだった。あまりの悪臭にケイは思わず鼻を摘んだが、ルーカンとベディヴィアは何のためらいもなく奥へと進んでいく。こいつらは鼻が壊れているのかもしれない。ケイは本気でそう思ったが、口にはしなかった。
 自分も中へと入っていけば、視界に入ってきたのは、たくさんの本棚と、その回りに積み上げられた埃にまみれた本の山。棚に入りきらなかったのか、読んだ者がそのままにしてしまったかは定かではない。
 キャメロットに数ヶ月が経つが、戦続きと使用人などの人手不足の為、実のところ、城内外の全てを把握し切れていなかった。この書庫のように洗練されていない場所は、他にもあるということだ。今まで敢えてそういった所に踏み込んだことはなかったが、こうして目の当たりすると、かなり酷いものなのだと実感する。戦が終わり、正式にアーサーが王として即位した後、最初にやることは大掃除だな、と思うと気分が沈んでいく。尤も、それ以前にこの書庫に通っていたルーカンの方にげんなりだが。
 ともかく、今はカビも埃も我慢して古地図を探すしかない。
 バラバラに別れて探索を開始する。床、壁、本と本の隙間、果ては本のページの間まで。
ありとあらゆるところに目を凝らしていく。が、なかなかそれらしいものが見つからない。
 本を手にとって分かったのは、置き方がバラバラだということだけだ。一応、ジャンル分けの札があるのだが、それとは全く関わりのない本が置いてあったりと、あまりの乱雑さに、本当にここはかつて書庫としてちゃんと機能していたのか疑いたくなってしまう。今、考えることではないが。
 そんなこんなで探し続けていたら、ベディヴィアと探している本棚が一致した。お互い、隣り合わせで黙々と本を一冊ずつ丁寧に物色する。しかし、それでも見つからない。
「……ったく、何でこんなカビ臭いとこで埃にまみれながら、古地図なんか探さなきゃないんだか」
「必要だからだろう。他に何がある」
 思わず愚痴をこぼすと、さらりと答えを返された。ルーカンが近くにいないから、いつもより饒舌である。
「そりゃ分かってるけどよ。朝から探し始めてもう夕暮れだぜ。本当にあんのかよ」
 窓の外を見やれば、空は既に赤く染まっていた。このままの状態では、夜どころか明日の朝までかかってしまうかもしれない。それだけ、この書庫は広すぎた。
「知らん。だが、見つけなければならない」
 手を止めず、ただそれだけを返される。ベディヴィアの言っていることは、至極当然だ。当然だが、無数の本に囲まれている周囲を、改めて見渡してしまうと、素直に肯定したくない気になってしまう。正直、見つかるとは思えなくなるのだ。それに首が疲れて痛い。ケイは、ふと何気なく、天井に顔を向ける。
 そして次の瞬間、それに気付いた。
「……おい」
 かけてくる声の調子が、先程と異なると感じたのだろうか。今まで本棚から目を離さなかったベディヴィアが、初めてこちらを振り向く。それを確認したケイは、無言で頭上を指差した。ベディヴィアも顔を上げる。
 ケイが指し示された指の先には、本棚の上に乗っかっているのであろう、丸まった紙の先の部分が突き出ていたのだ。そこから予測出来る大きさと、黄ばんだ感じの色具合からあれが何なのか。今思い浮かぶのは、ひとつしかない。
「あれじゃねぇのか?」
「かもな」
 若干興奮している自分とは対称的にベディヴィアの口調からは驚きを全く感じなかった。とはいっても、この男が声を上げて驚いた姿など見たことがないが。とにかく探し求めていた古地図かもしれない紙が見つかったのだ。完全に夜になる前に調べなくては。
「とりあえず広げてみようぜ。えっと、椅子椅子、と」
 そうつぶやきながら、ケイは手頃な椅子を探し始める、のだったが。背後からバサリという音が聞こえて振り返ってみる。
 そこには、近くのテーブルに地図を広げているベディヴィアの姿があった。自分の背丈では無理だったが、長身のベディヴィアなら何とか届くくらいの距離だったようだ。それはすぐに理解したのだが、何故か彼を凝視したまま、一瞬固まってしまう。
「何か?」
 全く意に介さないといった感じで尋ねられる。取ってくれたのだから、むしろねぎらうべきなのは分かっている。分かっているのだが。
「……別に」
 何だか無性に腹が立ったケイであった。
 それ以上は何も言わないまま、テーブルへと歩み寄り、広がった紙の中身を覗きこんでみる。そこには、森や谷など。ログレスの地理がこと細かに描かれていた。恐らく、これが探し求めていた古地図なのだろう。朝から埃まみれになってきたことがようやく報われる時が来たのだ。しかし、そんなことで喜んでいる暇はない。直ちに持ってきた現在の地図と照らし合わせて坑道の存在を確認しなければ。
 が、そこであることに気付いた。もう一人いるべき人物がいなかったことに。
「そういや、お前の兄貴は?」
 辺りを見回してみるが、ルーカン姿は視界に入ってこなかった。一体、今どの辺りを調べているのだろうか。そう思った時、ベディヴィアが言った。
「奥だ。興味を惹く書物があったらしい」
 思ってもみない返答に、ケイは唖然としてしまう。
「はあ? じゃあ、あいつ、探してなかったのか」
 こちらがこれだけ埃まみれになりながらも、ようやくそれらしい古地図を見つけ出したというのに、あの男は悠々自適に読書を楽しんでいるというのか。しかも、先程の言葉から察すれば、この弟は兄の怠惰を知っていながら黙認していたということになる。何ということだろうか。
 一気に怒りが湧き上がったケイは足音も高く、ベディヴィアが指し示した場所へと向かった。腐りかけた床が軋むが、気にしない。
 奥は、先程いた場所よりも更に埃とカビが酷かった。こんな所で読書が出来るとは、あの男の神経は、思っている以上に図太いようだ。今頃、いつもの涼しい表情で椅子に腰掛けながら本のページを捲っていることだろう。
 そして、何列目かの本棚に差し掛かると、案の定椅子に腰掛けて読書をしているルーカンの姿が目に入ってきた。もちろん、いつもの涼しい表情で丁度ページを捲りながら。あまりにも想像通りの光景に、ケイの怒りは更に高まっていった。それをそのまま、声に出してぶつける。
「おい!」
 没頭していた様子だったが、流石に突如遠くから聞こえてきた怒声には気付いたらしく、勢いよく本を閉じると、顔を上げてこちらを振り返った。
「ああ、驚いた。見つかったのかい?」
 わざとらしく胸を撫で下ろす仕草が、逆に腹立たしい。収まらぬ怒りを抱えたまま、ダンダンと床を叩きつけるような足を動かしながら、彼に近寄った。
「見つかったのかい? じゃねぇよ! 俺らだけ埃まみれにさせておいて、何を優雅に読書してやがる!」
「悪い悪い。気付いたら、つい熱中してしまっていたみたいだ」
 こちらが詰め寄ってくるのを抑えるように手を前へと出してくる。その口調から、悪いなどと思っていないのは明白だ。先程の弟の方といい、いつものことながら本当にこの兄弟は自分を苛立たせてくれる。大抵の人間は、誰でも自分がこの兄弟を振り回しているように感じていることだろう。実際は逆の方が多いということを知っているのは、父とアーサー、そして、この兄弟の父親ぐらいだ。それだけ、この兄弟……主に兄の方は外面がすこぶる良いのである。今のような、こちらをイラッとさせるマイペースさなど、これっぽっちも出しはしないのだ。本当にいい性格をしている。自分とは正反対だ。
 尤も、それで怒り続けたところで、全く通用しないことも経験上、理解していた。これ以上は怒るだけ、自分が損なのである。納得は出来ないが、妥協するしかなかった。
「何の本だよ?」
 平静に戻る為、敢えてこちらから話題を変えてみる。すると、ルーカンは、持っている本を、自身の顔の近くまで上げて言った。その答えは、意外なものであった。
「ん? 日記さ」
「日記? そんなもん読んでたのかよ」
 確かに表紙をよく見てみると、外装にはタイトルらしきものはなく、ただ赤いブックカバーに覆われているのみである。本棚にぎっしりと並んでいる何らかの専門書とは、少し異なっていた。本、というよりは日記である雰囲気を醸し出している。だが、他人の日記などにそんなに熱中することがあるのだろうか。そんなこちらの考えを見抜いたかのようにルーカンが反論してきた。
「そんなもんとは心外だな。時に日記は、どの歴史書よりも雄弁に真実を語っているものなのさ」
「『今日、どこそこでこういうことがありました。とても楽しかったです』とかしか書いてない帳簿がか」
「そこがいいのだよ。その時代のありのままが描かれていて、余計な抽象描写がないからね」
 ふうん、とケイが聞き流す。日記の魅力など露程にも分からないが、埃にまみれようとも全く気にせずに読みふけっている本人が言っているのだから、そうさせる何かがあるのだろう。だからといって、古地図探しを放棄しても良いということにはならないけれど。
 しかし、何故書庫に個人の日記があるのだろうか? 探している最中、手に取ったいくつか本の中身を見たが、全て難しい文字が羅列しているものばかりで、とても日記を置くような場所ではない。それとも、ひょっとしてこの日記の中身にもそんなことが書かれているのだろうか。そんな疑問が脳裏に浮かび、軽い気持ちで聞いてみる。
「で、その興味津々な日記には、何が書かれていたんだ?」
「ん? それは秘密さ」
 そう言って日記を軽く振る姿に、眉間に皺を寄せて睨みつけるが、当の本人は、涼しい顔で笑うばかり。全く教えようとする気配はなさそうだ。
 まあ、正直何が書かれていようと、元々興味はないのだ。それよりも今はしなければならないことがある。
「いやあ、しかし、今日初めてこんな奥まで入ったけれど、すごい量だね。戦が終わったら、ちゃんと整理して、もっとゆっくり調べてみたいよ」
「勝手にしろ。けど、今調べるのは、坑道が示されている地図だぜ」
 本当に嬉しそうに笑うのを、適当にあしらい、改めて本来の目的を口に出す。すると、ルーカンは、分かっているとまた笑った。そして、こちらの肩を叩くのを合図にベディヴィアの元へ戻る。
 元場所へ戻ってみると、既にベディヴィアは机の上に現在の地図も用意していた。三人でテーブルを囲み、その上に並んだ二つの地図を見比べる。
「こっちが現在の地図で、こっちが君達が見つけた地図か」
 ルーカンが地図を順番に指す。どちらが新しく、どちらが古いのか。それが分かるのは、紙の具合からだけではない。細かく見てみれば、書かれている名称などが今と所々違っていたからだ。目的の坑道を探す為に、まずは砦の場所をそれぞれの地図で確認する。現在の地図の方を確認してから、古地図へと視線を移動させてみると、古地図の同じ場所には砦の印がなかった。恐らく、この地図は砦が作られた時よりも古いものなのだろう。そう気付いた時、ベディヴィアが古い地図の方のある一点を指した。
「見ろ」
 二人は指し示された場所に注目する。そこには、洞窟の入り口に似た印があった。
「現在の地図には描かれていない印だな。しかも……」
 ルーカンが喋りながら指を滑るように古い地図にある印から、同じ場所の現在の地図へ移す。それを視線で追えば、確かに現在の地図にそのような印はなかった。そして、その印のある場所というのは。
「あの砦の近くか」
 ルーカンとは逆に古地図の、現在砦がある場所をケイが指す。そこの丁度後ろの方に、あの印があったのだ。それを確認して、確信する。
「恐らく、これがじいさんの言っていた坑道だろう。……本当にあったんだな」
 最後の方は、独り言のようだった。とにかく、これであのドワーフの老人の言っていたことが真実であったことが証明されたわけである。そして、その坑道の奥にある装置を操作すれば、砦の罠を全停止させられることに現実味が帯び始めたのだ。実に喜ぶべきことだったが、エルフの里で考えた事が再び脳裏に掠め、ケイの心中は複雑だった。
「ケイ、どうする?」
 古地図のその印に意識を集中させていると、突然声をかけられた。弾かれるように顔を上げれば、ルーカンもベディヴィアもこちらに視線を向けている。それがいやに強い視線で、一瞬首が萎縮しそうになるが、質問の意味が分からなかったので、何とかこらえて聞き返した。
「どうするって?」
「このことを、皆に報告するかということさ」
 エルフの里へ戻った直後に報告しなかったのは、あの時は本当に坑道があるのかどうか、まだ分からなかったからである。だから、周囲に訝しがられても口にはしなかった。しかし、その坑道の存在は実証出来た。もう隠す必要はない。それは分かっているのだが、ケイにはまだ迷いがあった為に、自分の意見を言うのはためらってしまう。
「お前らはどうしたいんだよ」
「私達は……」
 逆にこちらから問われ、ルーカンが答えようとした。が、途中で一旦言葉を着ると、視線を逸らして何事かを考え始める。そして数拍の間を置き、再び視線を戻して口を開いた。
「いや、このことは君の意見を尊重したい」
「何でだよ」
 理解不能の返答に、思わず声を荒げる。いつもは何かしら話し合いをした際、このように強くこちらの意見を求めることはない。まず、最初に意見を出すのはルーカンで、自分はそれに少々口出すだけだ。なのに、何故今回に限って自分に任せようとするのか。訳が分からないでいると、当の本人が答えを出した。
「これは、君がアーサーの為に手に入れた情報だからさ。君がアーサーの為に手に入れた情報なのだから、その情報を如何にアーサーの為に役立てられるかということは、君が一番考えられると思う」
 言葉が詰まった。文句も出てこない。茶化しているのではないことは、言った本人の表情が真摯なものであることからも窺えた。
 信頼されている証と考えれば良いのだろうか。自分なら、アーサーの為になる方法を考えられるという。そのように期待されるのは、普段なら嫌だが、今は照れくさいけれど嬉しいと思う気持ちもあった。
 返事はせず、ケイは目を伏せ、再度頭の中で考える。まずは、罠を全停止させる為に坑道へ行くのかということ。それについてはキャメロットへ戻る際に答えは出していた。確実に勝利を収めるならば、やはり向かわなければならないだろう。
 問題は、どれほどの人数を行かせるかということだ。出来れば、戦力を低下させることはしたくない。戦力を保ちつつ、坑道へ罠を全停止しに行く。果たして、そんな方法があるのだろうか。
 そこで、脳裏をある答えが掠めてくる。それは、エルフの里で考えた時にも浮かんだものだったが、すぐに打ち消してしまった。あまりにも成功率が低いと思ったのと、まだ罠を停止させるかどうか決めていなかったからである。だが、今考えれば、恐らくそれが一番可能性が高い。何より戦力を保ちつつ、坑道へ罠を全停止しに行けるのだ。危険な賭けではあるが、ケイは意を決した。
「……アーサーには報告する」
 伏せていた目を開き、前の二人に伝えていく。
「あと、ガウェインとランスロットも呼んでくれ」
「決めたのかい?」
 一言、そう聞いてきたルーカンにケイは小さく頷くことで応えた。
「まあ、な。詳しいことは三人の前で話す」
 意味ありげな言い方だったかと思ったが、ルーカンはそれ以上何も聞かず、会議の場で待ち合わせようとだけ言い、ベディヴィアを伴って書庫を出て行った。三人を呼びに行ってくれたのだろうと察する。
 一人になったケイは窓を見上げた。外は、そろそろ日が沈むところだ。直に夜の帳に包まれることだろう。徐々に訪れていく暗闇は、せっかくの決意を曇らせていってしまいそうだ。
 果たして自分の考えが、本当にアーサーの為になるのか。正直、自分でも分からない。もしかしたら、単なる独り善がりではないだろうか。そんな風に思う気持ちもある。
 だが、それでも進まなければならないのだ。自分を信じて、今は。
 自分を信じる、という言葉に思わず苦笑を漏らす。これまでの人生の中で、自分を信じたことなどなかった。才能のない自分は、何も出来ない。ずっとそう思っていたから。
 けれど、今の自分なら何か出来るかもしれない。巨人族の里で歌を歌ったあの時のように、とまではいかないかもしれないが。無駄骨に終わってしまうかもしれないが。
 それでも、自分の出来ることをしようと思う。アーサーの為に。その気持ちがあることが、これまでとの最大の違いであった。
 口元を引き締め、ケイも書庫を後にする。会議の間へ向かうその足取りに、全くの迷いはなかった。

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[ 2007/01/27 23:23 ] オリジナル小説連載 | TB(0) | CM(0)
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2006年5月16日開設

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