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Sir Kay~Brother Of King~第三章<12>




   第三章「弟の影となり」<12>



 歌で自分の真心を証明する。
 その、ルーカンの提案に頷いたことを、ケイは今少し後悔をしていた。頷いたその時は、てっきりその場で歌うものだと思っていたからである。
 しかし、今自分が立っているのは、里の中央に位置する広場の高台。更にその周りには、軽く二十は超える巨人族に囲まれている状態だ。
 何故、このような事態に陥ったかというと。
 歌うことが決まった後、自分達を広場へと連れてきた巨人族の長は何も言わず、自分だけ高台へ上がらせると、突然遠吠えのような呻き声を発し始めた。
 すると、これまで洞穴の中からこちらを窺っているだけだった他の巨人族達がぞろぞろと外へ出てきたのだ。彼らはそのまま広場へと集まっていく。呻き声は、里の者を集合させる合図か何かだったのだろうか。
 そして、集合させた理由はただひとつ。自分の歌を、要は真心を里の者全てに判断させよう、ということだ。これは、正直予想していなかった。
 自分を囲む巨人族達を盗み見る。大人か子供かは、大きさで何となく分かるが、岩のような外見は皆同じで性別の差は全く判別出来ない。黒のない瞳が一斉にこちらを見つめている光景は、非常に不気味である。身体が緊張で固まってしまい、指の先さえ動いてはくれない。
 尤も、身体が緊張で竦み上がってしまうのは、何もそのせいだけではなかった。そもそも自分が、このように多くの者から注目を浴びることに慣れていないのが、主な原因なのである。
 剣術、馬術、勉学。どれも人並以下であった自分は、幼少の頃から目立たない存在だった。注目されるのは、いつも全てに優れているアーサーで、自分を見てくれる人間など誰もいなかったのだ。
 歌はまだ得意ではあったけれど、騎士としてはあまり着目される面ではない。そのせいもあってか、人前で歌うことは滅多になく、ましてや今のようにこんな公衆の面前で歌うことなど、人生で初の出来事なのだ。緊張して当然だろう。
 高台へ上がる前、ルーカンが小声でそっと耳打ちしてきた。
『力む必要はない。君が君の思う通りに歌えばいいさ』
 そんなことがすぐに出来たら、今ここで苦労などしていない。
 唯一動く目であの兄弟の姿を捜してみるが、周りは巨人族ばかりで見当たらず。先程まではすぐ近くにいた筈なのだが。恐らく後ろの方にでも行ってしまったのだろう。それがすごく腹立たしい。今、自分がここに立っている切っ掛けのひとつを作ったのは。あの兄弟の兄であるというのに。
 第一、ここで歌うことはアーサーの、引いてはログレスの今後の運命を左右すると言ってもいい。今までそんな大役を買って出たことがない自分には、相当のプレッシャーになることは、長い付き合いである彼らなら分かるではないか。だのに、一人にするなど、何とも冷たい奴らである。
 とはいっても、『アーサーを許してもらえるなら、自分に何をしてもいい』と宣言したのは、紛れもなく自分自身だ。それを考えれば、彼らを責めるのは筋違いというもの。この状況は、自分の力だけで解決しなければならない。それは理解しているのだ。
 しかし、真心を示す子守歌、というのは、果たしてどんなものなのだろうか。何を思って歌えば、真心を示したことになるのだろうか。浅慮な自分の頭では、全く思い付かない。
 ここ数年、特にアーサーが王となってから、自分は歌う意味を失ってしまっていた。今の自分にとって歌うことは、迷っているのと同じこと。いつも通りに歌ってしまえば、失敗するのは目に見えている。
 その上、子守歌は、かれこれ七年ほど口に出したこともない。上手く歌えるかさえ不安だというのに、真心を示すことまで要求されてしまったら、どうすれば良いのか余計に迷うことになる……などと、結局あれこれ考えてしまい、更に緊張が高まってしまい、自分で自分を追い込んでしまう。
 だから、なかなか口ずさむことが出来ず、立ち往生をしてしまっているのだった。
 ただ、無造作に時間だけが過ぎていく。
 多くの視線に耐えきれず、せめてこちらの視線だけは上へと向ける。すると、空が目に入ってきた。
 青く済んだ色をしている空は、どこまでも美しい。その時、ケイはふと思った。
(あいつも今、この空を見ているのか……?)
 脳裏に浮かぶのは、美しい金髪をなびかせ、端正な顔に綺麗な笑みをたたえた自分の主、そして、自分の弟の姿。
 彼は今ランスロット、ガウェインらと共にこの里へ向かっている。エクスカリバーを完全なものとするために。ログレスに真の平和を与えるために颯爽と突き進んでいるのだろう。
 太陽にも劣らないほど眩しいその背を思い浮かべると、いつもなら胸が痛んだり、苛立ったりしていたが、今はそんな気分にはならない。それどころか、眩しさも気にならないぐらいに直視している自分が頭の中にいた。
 そう思った時、あることが頭をかすめる。それは、ずっと心に燻っていた疑問が解消されるかもしれないという期待を生んでいく。
 思えば、自分が子守歌を聴かせたのは、弟にだけであった。だが、その時どのような思いを胸に抱いて弟に聴かせていたか。自分はずっとそれを思い出せないでいた。
 何も思わなかった、ということはない筈だ。確かに自分は何かを思い、弟に毎晩子守歌を聴かせていた。それだけは覚えている。しかし、それが何なのかまでは、いつからか忘却の彼方へ追いやってしまっていた。
 いつから自分は、それを忘れてしまったのだろうか。
 いつから自分は、弟を直視出来なくなってしまったのだろうか。
 いつから自分は彼の前ではなく、後ろにいるようになったのだろうか。
 それを思い出せるような気がするのだ。たとえ、後ろ姿でも眩しさに負けず、彼を見つめられる、今なら。
 そして、それが分かれば、きっと歌えるのだと。
 次の瞬間、耳元に声がささやいたような気がした。
 優しく、綺麗に澄んだ音色のような声。
 それが長らく思い出せなかった母の声だと気付いた時、忘れていた記憶の扉がゆっくりと開いていった。



 あれはそう、母がまだ生きていた頃の事だ。ぽかぽかとした陽気が、部屋の中も暖かくしていた快晴の日。
 椅子に座っていた母は、幼い自分を傍へと引き寄せ、頭を撫でてくれながら言った。
『ケイ。子守歌は何の為にあるのか、分かる?』
 まだ幼かった自分には、母の言わんとしていることが分からず、首を傾げながら、ただ思うままを口にする。
『眠れないやつを眠らせるでしょう? アーサーみたいなやつを』
『そうね。では、何故生きている者は眠るのかは、分かる?』
 また母が自分に問いかけてきた。今日の母はやけに質問ばかりしてくる。不思議に思った幼い自分は、先程よりやや力なく答える。
『……眠たいから?』
 こちらの答えに母はそうね、と優しく笑った。
『でもね、もうひとつあるの。それは、目覚める為』
『目覚める為?』
 思わずきょとんとしてします。何故、眠ることが目覚める為と繋がるのだろうか。
 そんなこちらの疑問を読み取ったのか。自分の頬を、母は両手で包んだ。そして、少し屈むと視線を合わせてくる。
『そう。次に晴れやかな気持ちで目覚める為に生きている者は皆、眠る。そして、子守唄は、眠ることの出来ない人の眠りの手助けをすると同時に、次に目覚める為の道標でもあるのよ』
『みちしるべ?』
 それは、あの頃の自分にとって初めて聞く言葉だった。これまた分からない様子といった自分に、母が丁寧に説明してくれる。
『目覚めさせる為に手を差し伸べる、ということよ。だから子守歌を歌ってあげる時はね、こう祈りなさい』
 自分の頬から手を放すと、母は目を閉じ、両手を組んで祈る仕草をとった。
 瞬間、額のサークレットが太陽の光を反射して美しく光る。
『どうか、この人に安らかな眠りを。そして、晴れやかな目覚めを与えられますように……って』
 再び目を開き、こちらに向けて笑みを深くした。
 大好きな母の笑顔。
 自分もまた同じように笑い、大きく頷く。
 それを見て、母も笑ってくれたのだった……。



 それから、ひと月も経たない間に母は亡くなった。
 元々、何かの病にかかっていたというが、父は未だにその詳細を語ってはくれない。こちらから聞いても口にすることは、いつも同じ。
『母は、アヴァロンへと旅立ったのだ』
 それだけだった。
 アヴァロン、というのは、この世界での常世のことである。生前に善なる行為に勤しんだ者だけが行けると伝えられる、死者の理想郷。そこには、現世の苦しみは何一つ存在せず、ただ優しさだけが満ちているという。
 生きとし生けるものは皆、死後アヴァロンへ行けることを願いながら、日々を過ごしている。自分は正直、今の時点で行ける気がしないので興味はないが。
 それでも母がそこへ行けたというのは、とても嬉しいことだ。父の予想だけではない。自分も母ならアヴァロンへ行けたであろうと思うからである。
 その母が、数少ない思い出の中で残してくれた言葉。
(ああ、そうだ)
 ケイは母の優しい微笑みを浮かべながら、心の中でつぶやいた。
 安らかな眠り。晴れやかな目覚め。
 それが、子守歌を歌う際の、母の教えだった。
 その教えを思い出した瞬間、心が嘘のように落ち着いてくるのが分かった。指先まで緊張で固まっていた身体が一気に解れていく。
 再び空を見やると、そっと瞳を閉じた。
 一瞬にして、視界は暗闇に包まれる。すると、その中に一点の光が見え始めた。
 浮かんできたのは、幼い頃のアーサーであった。
 アーサーは、暗闇が怖い怖いと泣いている。
 何故かその姿は、今の彼と重なっていく。成長した彼の方は、泣きはしない。泣きはしないが、苦悩に歪んだ表情は、泣くよりも辛く見えた。
 再び脳裏に母の教えが過ぎる。
 安らかな眠り。晴れやかな目覚め。
(俺が、あいつにそれを与えられたのは、いつまでだっただろう)
 それは、何も子守歌を歌うことばかりではない。アーサーが辛い時苦しい時、自分は一体何をしてやれただろう。
 お前なら一人で切り抜けられる。自分でなくとも支えてくれる者がいる。
 そんな冷たい言葉を投げ、追い返すことしかしなかった。
 もし、自分に縋ってきたあの時、この気持ちを思い出していたならば、弟をあのような愚かな行為へ走らせることはなかったのだろうか。それだけは、悔やんでも悔やみきれない。
 だが、最早過去を変えることは不可能。ならば、今出来ることをするしかないのだ。
 そして、今、自分が出来ることは、ひとつだけ。
 ついにケイの迷いは消えた。
 頭の中で、泣き続けるアーサーの傍に近付く。少し、身体を屈めると、母が自分にしてくれたように頭をそっと撫でた。
 弾かれたようにアーサーが顔を上げる。涙で赤く腫れる瞼を見ていると、懐かしい気持ちが込み上げてきた。
 長いこと嫉妬と劣等感で隠れてしまっていた、兄としての確かな愛情。
 気付けば、口は無意識に歌を紡ぎ始めていた。
 目の前にいる巨人族達にではない。自分の頭の中にいるアーサーへと向けて、歌は流れていく。
 先程のルーカンの言葉の意味を理解したような気がする。
 自分の思うまま、とは、何も考えないことだ。
 巨人族達に真心を示すとか、国の未来が懸かっているなどという大義名分も何もかも頭から掻き消し、真っ新な気持ちになることなのだ。
 すると、自分でも驚くほどに明瞭な声が出てくる。このように穏やかな気分で歌えるのは、どれくらいぶりだろうか。
 答えは、すぐそこにあった
 全てを追い出した頭の中に唯一残った、幼い頃のアーサー。
 弟に歌っていた頃の自分は、真っ新な気持ちだったということなのだろう。何も考えず、ただ目の前の弟だけを見て歌っていた筈なのだから。
 自分の子守歌が今、弟に安らかな眠りも晴れやかな目覚めも与えてはやれないかもしれない。だが、それでも今は歌おう。頭の中にいる幼い弟に。
 そして、光を背負い、前へと突き進んでいくログレスの王へと向けて。
 思った次の瞬間、ふいに自分の声が聞こえてきた優しく暖かな旋律と重なる。
 懐かしい響き。母の歌声だった。
 いつの頃からか聞こえなくなってしまっていた声が、はっきりと思い出されていく。それがどういうことなのか。今は考えず、記憶の中の母と共に歌い続ける。
 終盤に差し掛かった頃、改めて頭の中の弟を見やると。
 ずっと泣いていた弟が、笑った。とても、安心するように。
 それと同時に歌は終了した。母の声も聞こえなくなる。
 静寂が訪れたと思ったら、突然バンバンと叩く巨大な音が耳へと飛び込んでくる。驚きのあまり、ケイはバッと目を開く。そこには、巨人族達がこちらに向けてゆっくりながらも盛大な拍手を送る光景が広がっていた。
 そうだ。今自分は、巨人族の里で巨人族達に歌を聞かせていたのだった。もちろん、アーサーの姿などどこにもない。
 巨人族達の表情は全くの無表情のままだが、よく見てみればどことなく喜んでいるようだ。
 鳴り止まない拍手の中、長が傍に寄ってくる。他の巨人族と同様、満足げな表所をして。
「良い歌だった。お前の真心、よく見えた」
「本当……か?」
 なかなか実感の湧いてこないケイに、長はしっかりと頷く。
「我ら巨人族は魔物の一種。難しい言葉、よく分からない。だが、歌は歌う者の声に全ての想い、集まる。だから我ら、歌、好む。そして、お前の歌、とてもいい匂いがした」
 歌からいい匂いを感じるというのは、どういう意味かと思ったが、話の腰を折ることになるので黙る。恐らく暖かいとか優しい旋律、ということなのだろう。
 更に長は言った。
「そのお前の歌に応えて、アルキメオスのこと、水に流す」
 長が振り返り、後ろにいるアルキメオスを見た。アルキメオスは、何も言わず、ただ頷く。それは、了承の証であった。
 と、どこから来たのか、ルーカン達が駆け寄ってきた。
「感謝いたします! 良かったな、ケイ」
「あ、ああ。……おい」
 喜ぶルーカンに意識半分で応えると、ケイはアルキメオスに声をかける。アルキメオスは、目だけを動かしてこちらを向いた。
「……悪かったな。怪我させちまったことは、本当にすまなかった」
 神妙に物言う姿にルーカン達が目を見開く。それもそうだ。自分がこんなふうに素直な謝罪をすることなど、ほとんどないのだから。
 アルキメオスは、しばらくこちらを凝視し、ゆっくりと近付いてくる。そして、これまたゆっくりとその大きな手を差し出してきた。
 何かと思ったが、こちらの手を待っている様子に理解する。慌てて同じように差し出すと、強く握り返されてきた。互いの大きさが合わないため、アルキメオスの手に自分の手が覆われる形となる。
 岩のような外見そのままにごつごつと固い感触だったが、生きている者の温もりを感じられ、それがどこか安心感を与えさせられた。
 が、しかし。
 合わないのは大きさだけではなかったようだ。
「いっ……ててて! 痛ぇって!」
 つぶれるのではないかと思うぐらい強い力で握られ、思わず暴れてしまうと手が放された。見れば手は赤くなっており、次第にじんじんと痛み出していく。
 もう片方の手で軽くさすっていると、いくつかの笑い声が聞こえてきた。顔を上げればルーカンと、いつの間にかやって来ていたダルガンが、からからと笑っているのが目に入ってくる。ベディヴィアも声こそ出していないが、口元が上がっていた。
 普段こんな光景を見たら、非常に腹立たしく思うところだが、今は全くそんな気分にはならない。むしろ、清々しいぐらいである。
 長く聞こえなかった母の歌声を思い出すことが出来たことは、ここ数ヶ月乱れ続けていた精神を安定させてくれていく。
 そして、思った。
 母の歌声を思い出せたのは、自分が歌う意味を取り戻したからだと。
 自分がここにいる意味を感じ取ったような気がするからだと。
 ケイは、痛む手を抑えながら、空虚だった心が少しずつ満たされていくのを感じていた。

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[ 2007/01/13 23:43 ] オリジナル小説連載 | TB(0) | CM(0)
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2006年5月16日開設

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