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Sir Kay~Brother Of King~第三章<11>




   第三章「弟の影となり」<11>



 ケイは、一人洞穴を出た。追い出されたと言った方が正しいかもしれないが。
 ぶらぶらと里の中を歩き回っていたが、遠くから感じる巨人族の視線が痛く、最終的にはそれから逃げるように端の方へと移動していった。
 手頃な岩を椅子代わりにして腰掛ける。足を組んで頬杖をつき、そのままどこを見るでもなく、ぼんやりと視線を飛ばす。
 一息吐くと、色々な事が頭の中に浮かんできた。
 主となった弟は離れていき、父から見捨てられ、ついには腐れ縁の者達も匙を投げた。これで自分はキャメロットの騎士である理由が、本当になくなってしまったのだ。
 別にそのようなこと、悲観する必要はない。むしろ喜ぶべきではないか。自分はこの先、自由に生きていける。下らない自尊心にも劣等感にも苛まれることもなくなるのだから。
 今頃、ルーカンが巨人族達を説得しようと、持ち前の巧みな弁舌を披露していることだろう。彼に任せておけば、大抵の者は言いくるめられる。そうすればアーサーの目的も滞りなく達成出来ることだろう。だから、自分が気にすることなど何一つないのだ。
 その筈なのに……何故こうも心中に虚を感じるのだろうか。まるでぽっかりと開いた穴に冷たい風が入り込んできているように寒い。
 結局はどんなに強がってみせても、自分は意気消沈しているのだ。アーサーの傍にいることは、自分という存在を陰に籠もらせるばかりで、そこから抜け出したいとは思っていた。しかし、それが現実に可能となったからといって他の生き方を探してみても全く浮かび上がってこない。この現況が教えたものは、如何に自分がつくづく考えなしであるということだけだった。
 ちらりと視線を先程いた洞穴の方へと向ける。今いる場所がかなり奥まった所なので洞穴そのものは見えないのだが。
 果たして説得は上手くいっているのだろうか。ルーカンは確かに口達者で交渉はお手の物であるが、それは人間の中でのこと。他種族にも通用するのかは未知数である。もしも逆にまた怒りを買うことになったら……。
 そこまで考えてハッとする。上手くいこうがいくまいが、自分には関係がない筈ではないか。いちいち、こちらが気に病む必要など、どこにもないのだ。
 余計なことは考えないよう、頭を激しく横に振ってから意識を景色へと向ける。とはいっても、周りは岩だらけで景色を堪能する、という気分にもなれない。ふとすれば沈んでいく意識のまま、大きく溜息を吐いて顔が下がってしまっていた。
「ほれ」
 声と同時に横からカップを差し出される。振り向いてみれば、そこにはあのドワーフの老人・ダルガンが立っていた。
 立っていたといってもドワーフは背が低いので座っているケイの目線とほぼ一緒であるのだが。
「そんなしけた面するでない。これでも飲め」
 差し出されたカップを、ケイは半ば押し付けられた形で受け取る。こちらの困惑した表情を見やってから、ダルガンは自身も近くの適当な岩に腰を下ろす。
 カップの中を覗いてみると、黒と茶色の中間のような色をした液体が湯気を立ち上がらせていた。自分達が日常的に飲む茶などとは随分違う。
 恐る恐る口を付け、一口飲んでみる。次の瞬間、妙な苦さが口の中に広がり、思わず顔を顰めてしまう。
「……これ、何て飲み物だ?」
 顰めた顔のまま、ケイが尋ねると、ダルガンが一口啜ってから言った。
「巨人族特製、泥茶じゃ」
 その答えは、ケイに思いがけない衝撃を与えた。手がぶれてしまい、カップから泥茶と呼ばれた液体が半分ほど大地へ流れていく。
「こらこら。せっかくの茶が零れてしもうてるではないか、勿体ない」
「うるせぇ! こんなもん飲ますな!」
 勿体なさそうにつぶやくダルガンを怒鳴るケイ。カップを岩の上に勢いよく置いて、ひと睨みしてから背中を向ける。
 ダルガンはやれやれ、といった表情で茶を啜った。
「それにしても、お前さんがアーサー王と兄弟とはな。実に驚きじゃ。風の噂で聞くアーサー王の人柄からは全く想像できん」
 その言葉にケイは不機嫌そうに鼻を鳴らす。それは、幼少の頃から何度も言われた言葉だったからだ。
『お前はアーサーと似ていない』
『弟の方が優秀だな』
『アーサーには出来るのに、どうして兄の君が出来ないのか不思議だ』
 などと、何かにつけてそんな風に比較されることは日常茶飯事であった。過去の嫌な出来事を思い出させられて、苛立ちをそのまま声にする。
「兄弟つっても、俺達は血が繋がってないんだ。似てなくて当たり前だろ」
「なるほど。で、お前さんはその義理の弟を嫌っておる、と」
 それは予想外の言葉だった。思わず目を見開いて振り返ってしまう。
「ここに来る前のお前さんの口振りから、そう感じたんじゃが」
 違ったかの、とダルガンは自身の顎髭を触るのを見ながら、ケイはふと思った。そういえば、今のような質問をされたことはなかったな、と。
 ここに来る前、というのは、森でキレてしまった時のことだろうか。確かにあれだけ暴言を吐けばそう思われるのも当然であろうが……。
(思われる?)
 無意識に浮かんだ自分の言葉に引っ掛かる。違う、そんなことを思いたかったわけではない。
 思われる、という言葉は、嫌いなのが真実ではないということだ。つまり、自分はアーサーを好きであることになってしまうではないか。それは違う、絶対に。
 だが、そこでまた疑問が浮かんでくる。では、嫌いなのか、と。
 それは、当たっている。森で感情が爆発した際にそう思ったのだから。その筈なのに、何故か今は素直に頷けない自分がいる。
 好きではない。けれど、嫌いだともはっきり宣言出来ないのだ。
 おかしな話だ。あの時は確かに嫌いだと思った筈なのに。さほど時間も経っていないのに、何が自分の心境を変化させてしまったのだろうか。
「まあ……間違っちゃいねぇよ」
 何と答えたら良いのか思い浮かばず、なかなか上手い言葉が出てこない。そのため、結局曖昧な返答しか出来なかった。
 しかし、こちらの返答にダルガンはふうん、と大して興味もなさそうな反応しかしてこない。その後は、茶を啜るばかりで何も言わなかった。
 そちらから聞いておいて、何だその反応は。
 ケイはムッとしたが、こちらから指摘するのもどうかと思い、自分も黙る。
 長い沈黙が二人の間を流れていく。聞こえるのは、吹く風の音だけ。
 湯気が立ち上がっていた茶が、そろそろ冷めかけてきた頃。
 ダルガンが再び口火を切った。
「お前さん、アーサー王とどれくらいいたんじゃ?」
「は? 何でそんなこと言わなきゃなんないんだよ」
 突然の問いかけに、ケイは反応が一歩遅れてしまった。
「別にいいじゃろう。言ったところで別に減るもんでもなし。ほれ、言うてみい」
 返答を急かしてくるダルガンを、ケイは訝しむ。この老人は、何故そのようなことを聞きたがるのだろう。全く理解出来ない。それでも何となく勢いに押されて答えてしまう。
「……十五年」
「十五年、か。人間にとっては長い時間じゃの」
 ダルガンはうんうんと頷いて、何事か考える仕草をする。一体何を考える必要があるのだろうか。
 ますます疑問符が増えていくこちらは無視される。数拍の間を置いてから、ダルガンは再び問いかけてきた。
「お前さんはその間、ずうっと弟を嫌いだったのか?」
「え?」
 耳に入ってきている筈なのに、脳に到達するまで時間がかかる。
「十五年も一緒にいたんじゃ。それ以外の感情があっても可笑しくなかろう」
 そこでようやく問いかけの意味を理解出来た。だが、分かっても思考が上手く回らない。否、回ることを拒んでいるという方が正解か。すぐに答えは浮かぶものの、それが自分の本心なのか、いまいち即答出来ないのだ。だからといって、他の答えなどあろう筈もない。悩む必要はない。
「そんなのねぇよ。俺は、いつだって、あいつを邪魔としか思ってなかった」
 すぐに浮かんだ答えをそのまま口にする。なのに、何故かしっくりとしない。どこか自分に言い聞かせているような気分だ。
 ダルガンは、そんなケイの複雑な表情を何も言わず、眺めている。すると、徐ろに口調を軽くし始めた。
「なるほどのう。アーサーっちゅうのは、噂に聞いておるような人格者ではないということか」
「……どういう意味だ?」
 突然の話題変化に、ケイは意味を図りかねる。しかし、それはあまり良い話ではないことは分かった。
 体をこちらから横に向けて老人は言う。
「長年一緒にいたお前さんの言葉の方が、どこから誰が流したか分からん噂などより、よっぽど信憑性があるということじゃ。エクスカリバーに選ばれた勇者だと聞いておったが、なに大した男ではない」
「おい、ちょっと待……」
 予感は的中した。早くこの話を終わらせなければならない。そんな焦燥が湧き上がってきていた。だが、こちらが口を開く隙も与えないほど素早く老人は喋り続ける。
「どうせ周りから王だ勇者だと囃し立てられて調子に乗ったんじゃろう。それを正義のため、平和のためなどと尤もらしいことに結びつけてやりたい放題。とんだ大虚けじゃな。全くしょうもない……」
「違う!」
 カッと頭に血が上っていく感覚が湧き上がってくる。気付くと、強く地を蹴って立ち上がって叫んでいた。ダルガンが驚いた様子もなく、静かにこちらを振り返る。
「あいつはそんな奴じゃない! あいつは……!」
 勢いのまま叫んでいたが、そこでハッと我に返る。今の興奮が一気に冷めていく。黙っていたダルガンが苦笑を漏らした。
「何じゃ。他人に弟を馬鹿にされて怒る気持ちがまだ残っとるのか」
「そんなんじゃ……!」
 ない、と言おうしたが言えなかった。そうではないとしたら、何を言いたかったのか。自分でも分からないからだ。
 じっと見つめてくる老人の視線に耐えられず、顔を下に向ける。今の自分は、どのように見えているのだろうか。アーサーを嫌いだと自分で言っておきながら、他人に馬鹿にされると激昂する。全くもって思考が滅裂だ。もうどれが本心なのか、自分自身にも分からなくなっていた。
「戻るなら今の内じゃぞ」
 どこか優しい響きの声が聞こえ、ケイは惹かれるように顔を上げる。そこには、声と同様に優しい表情をしているダルガンがいた。
「ルーカンだったかの。あやつは随分と口が達者のようじゃが、巨人族を説得するのは難しいかもしれんぞ。巨人族は力は強いが、頭はあんまりよろしくない。緻密な物言いはかえって逆効果になりかねんかもな」
 その言葉にケイは目を見開いて驚く。それは、先程こちらが懸念していたことである。やはり的中していたのか。だが、それにしても。
「そんなこと分かってたんなら、何でここに来る前に言わなかったんだよ」
「お前さんらがどうしようが、アーサー王がどうなろうが儂の知ったことではないからの。……で、知ったお前さんはどうするんじゃ?」
 こちらの抗議を、ダルガンはあっさりとはね除ける。それどころか逆にこちらが問いかけられて、困惑してしまう。
 知ったからと言ってどうだというのか。自分に出来ることなど何もない。あの時、父から指摘された時から、自分はアーサーの騎士ではなくなったのだから。
「俺には……俺にはあいつに仕える意志がない。傍にいる理由がない。そんな俺が何したって……」
「理由がなければいてはならんのか」
 迷う自分を、ダルガンは再度あっさりと否定してくる。実に簡単で明瞭な言葉で。
 しかし、だからこそ、その言葉は迷い悩むケイの心にストンと落ちてきた。
「理由があったから、お前さんは十五年間、弟の傍におったのか」
 呆然と老人を見つめる。自分の本心は見えないままだが、それは否であるとはっきり答えられた。あの頃は、今のように理由を見つけなくともアーサーの……弟の傍にいた。それが当たり前だったのである。
「どうでもええじゃろ、理由など。大事なのはお前さんの気持ちではないのか。もう一度胸に手を当てて考えてみい。弟の傍にいたいのかいたくないのか、な」
 まあ、ある意味それも『理由』になるのかもしれんが。
 最後にそう付け足して、ダルガンは茶を啜り出す。ケイは、立ち尽くしたまま、何も言葉が出てこなかった。しかし、思考はゆっくりとだが確実に動いている。その中でケイは考えていた。
 今まで理由ばかりを求めて考えてこなかった、自分の気持ちを。騎士としての自分、兄としての自分、父の言葉。そんな肩書きが無くなった今の自分が、アーサーの傍にいることを望んでいるのか、を。
 だが、答えが出る前にケイの身体は無意識に動いていた。
 置いたままだったカップを手にして、その中身を煽るようにグイッと一気に飲み干す。
 そして、再びカップを岩の上に置くと。
 足が洞穴へと走り出していた。
 その姿をダルガンは横目でどこか満足げに見ていたことをケイは知らない。
 全速力で里の中を駆け抜け、先程の洞穴へと戻る。
 息を整える暇も与えずに中へ入ると、長や他の巨人族達が顔を上げ、一斉にこちらへ視線を向けられた。その様子に説得を続けていたルーカン達も不審に思ったのか、振り返る。
「ケイ……」
 わずかに目を見開いくルーカン。ケイは巨人族達も彼も無視して、ただ長だけを見つめる。長もまた、鬼気迫っているこちらに視線を外さない。
 ルーカンはただならぬ雰囲気のケイを不思議に思いながらも、長との間に割って入ってきた。
「どうしたんだ。何故戻って」
「あいつは!」
 かけられた言葉は、それ以上の叫びによって掻き消される。ルーカンは驚きで思わず後退するが、叫んだ本人は全く気付かなかった。
「あいつはガキの頃から頭が良くて、何でも俺より優れていた。俺があいつに勝てたものなんて何もなくて。なのに、そんな俺の気持ちなんて知らずに俺を兄と慕ってくるあいつが、邪魔だって、嫌いだって、いつも思ってた」
 叫んだ最初とは違い、語る口調は平静である。更に、視線は長へと向けられているが、語る言葉は自分自身に向けられたもののように周囲には感じられた。
 その通りだった。ケイは長に対して言っているのではない。口にすることで自分の本心を再確認しているのだ。
 ダルガンに言われた、アーサーへの感情が何なのか。
 喋りながら、脳裏には過去の記憶が甦ってきていた。遠き幼少の頃、自分が騎士となった頃、そしてお互いの関係を変えた、この数ヶ月間の事が。
 真っ先に浮かぶのは、多くの人間に囲まれているアーサーの姿。彼らは、アーサーの才を何度も誉め称えていた。それとは逆に自分を見る目は冷たい。アーサーとの能力の差を比べて嘲笑さえしている。
 アーサーはそんな彼らから自分を庇った。兄上は、自分なんかよりもっと優れた方なのだ、と。
 馬鹿にされている兄を弟が庇う。このことで周囲の人間は、よりアーサーを褒めちぎり、自分を見下す。それは、幼少の頃の日常だった。
 だが、自分がいつも腹立たしく思っていたのは、彼らにではない。自分を庇うアーサーにであった。自分の横に立ち、切実な表情で訴えかける姿を見て、ひどく腹が立って、自分が情けなくて。
 彼ら以上に見下されていると感じた。しかも、そんなこちらの気持ちなど露知らず、向こうは無邪気な笑顔で付きまとってくる。
 その姿が目に入る度に思った。
 こいつが憎々しい。嫌いだ、と。
 今もそれはきっと変わらない。
 けれど。
「でも、俺の歌が好きだと言った。暗闇が怖いって、泣いて俺にせがんだ時、俺の子守歌を聴いたら泣きやんだ」
 アーサーは幼少の頃、暗闇を恐れていた。そのため、夜は一人で眠ることが出来ず、毎晩母に子守歌を聴かせてもらっていたのである。
 母が亡くなった後、その役目は母から歌を学んでいた自分が受け継ぐこととなった。なったのだが、毎晩毎晩歌う、というのは、正直嫌でたまらなかった。時にはこちらも眠い時があったというのに、向こうはそんなことお構いなし。歌って歌って、とせがんでくるのだ。本当に邪魔で鬱陶しいと、散々思っていた。けれど……。
 自分の歌を聴きながら、いつの間にか自分の手を握って、すやすやと眠る弟の寝顔を見てしまうと、何故かそれまでの苛立ちが嘘のように消えてしまっていた。
 ああ、そうだ。ケイはいつの頃からか忘れていた感情が清らかな水のように流れ込んでくるのを感じた。渇いていた心が潤されていく。
「邪魔で仕方がなかったけど……嫌じゃなかった。あいつが……あいつの傍にいるのは」
 何でも自分の上をいっていた弟。だのに自分を庇い、慕ってきた弟。いつだって腹立たしかった弟。けれど、自分の歌が好きだと笑う、子守歌を聴きながら安らかな寝顔で眠っていた弟。そんな弟が、自分は。
「嫌いだけど……嫌いじゃなかったんだ。俺は……あいつを」
 それは、何とも曖昧な表現。どっちともつかずの状態だ。しかし、それこそ自分の本心である。自尊心も劣等感も嫉妬心もない、真っ新な状態の自分の気持ち。
 その答えが出た瞬間、真っ先に浮かんだのは、あの夜のアーサーだった。どんな時も強く真っ直ぐに生きていた彼が初めて見せた弱さ。常では考えられないほど卑屈になって自身の出生を蔑み。
 そして、起こしてはならない過ちを犯してしまった。
 何故、あの時自分はそれを止められなかったのだろうか。もっと早くこの気持ちを思い出していれば、回避出来たかもしれないのに。
 いや、それは今考えてもどうにもならないことである。ここですべきことは、巨人族への信頼を得ることだ。その為にしなくてはならないことが、自分にはある。
 アルキメオスに視線を向けて言った。
「アーサーがそいつに傷を負わせたのは、俺を助ける為にやむなくしたことだ。俺が捕まったりしなければ、あいつは無闇に剣を向けたりはしなかった。あいつに落ち度はない。全て俺の責任だ」
 ケイは一歩前に進み出て、その場に膝をつく。
 そして、両手もついて土下座の体勢をとった。
 周囲の空気が騒然と変わる。特にルーカンとベディヴィアの驚きは人一倍であっただろう。このような姿を自分がとったことなど、今まで一度もなかったからだ。
 だが、そんなことを気に留めている余裕はない。今は、自分に出来るこの精一杯をやり遂げなければならないのだから。
「それでも、どうしても許せないというなら、俺を好きにしていい。どうしてくれても、何をされても構わない。だから頼む。あいつを咎めないで欲しい」
 そう言うと、頭を深々と下げる。受け入れてもらえるまで上げるつもりはなかった。引くことは絶対に出来ない。
 騎士として主を。そして、兄として弟を救う為に。
 そこで、ようやくあの老人からの問いの答えが出た。
(俺は……あいつの傍にいたいのか)
 騎士としても、兄としても。
 どちらかであるには、どちらかを捨てなければならなかったと思っていたのに。自分は意外と欲張りだったのだな、と思い知らされて妙に可笑しかった。
 洞穴の中を沈黙が流れる。それは長かったように思えたが、実際は短かったかもしれない。頭を下げているから、長の表情を見ることが出来ないので、徐々に不安が募る。果たして今、状況はどのようになっているのか。
 ついに冷や汗が滲み出てきたその時。頭上から、低い声が響いた。
「お前の言いたいこと、分かった。嘘、ないことも」
 長の声だった。その言葉から、どうやらこちらの言い分は理解してもらえたようだ。更に言葉は続く。
「分かった。お前、責任とってもらう」
「お待ち下さい、もう少しお話を……」
「黙ってろ」
 再び割って入ってきたルーカンを制する。自分が咎められるのを見かねたのだろう。悪いとは思うが、それを今止めてもらうわけにはいかない。頭を下げたまま、長の言葉を待つ。
 またしばしの沈黙の後、長はケイに頭を上げさせてから、言った。
「真心、見せろ」
「真心……?」
 意味が分からず、ケイは首を傾げる。
「お前がアーサー思う気持ち、形にしろいうこと。お前、出来ることで」
「俺の、出来ること……」
 土下座以外のことを、自分に何が出来るというのだろうか。全く思い付かず、困惑してしまう。何と答えれば良いのか、思い悩んでいると。
「あります!」
 頭上から力強い声が降ってきた。ルーカンである。半ば強制的に自分を立たせると、両の肩を強く掴む。
「先程本人も言っていたように、彼は幼少の頃アーサー王に子守歌を聴かせておりました。その子守歌ならば、きっと……」
 最後まで聞く前に何を言わんとしているのか察知した。
 まさか、彼らの前で歌を披露しろというのか。
 振り向くと、同時にルーカンも振り向いた。文句を言おうとしたが、言葉は口から出る前に止まる。
 ルーカンの表情は、至極真剣だったからだ。その眼差しも強い光を宿している。
 ケイは、その瞳をしばらく見つめた後。
 強くはないが、確かに頷いた。

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[ 2007/01/06 23:43 ] オリジナル小説連載 | TB(0) | CM(0)
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2006年5月16日開設

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