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Sir Kay~Brother Of King~第三章<9>




   第三章「弟の影となり」<9>



 岩のように見えたずんぐりむっくりのドワーフは、怒りの形相で蹴られた背中を押さえている。どうやら、ケイの足が当たったのはそこのようだ。
「全く、人が気持ちよく寝ていたっちゅうのに、突然蹴ってくるとは何事じゃ!」
 ドワーフの老人は、全身の毛という毛を逆立たせながら、目をつり上げて怒っている。
 この老人が、本人談によると寝ていた場所は、茂みのちょうど真ん中辺り。そこから身体半分をはみ出した形だった。何故、そのような中途半端な所で眠る必要があるのか。寝床はないとはいえ、森の中なのだから、木の傍やその上の方が寝やすいのではないかと正直思う。
 尤も、ケイはドワーフの事をよく知らないので、何か独特の生活習慣でもあるのかもしれないが。
「何じゃ、お前人間か。まあ、エルフに足癖の悪い奴はおらんからな。それにしても最近の人間はロクなことをせんのう」
 じろじろと値踏みするようにこちらを見やる老人の顰め面に、ケイの心は驚きから先程までの苛立ちへと戻っていく。
 これが普段だったら、素直に詫びたことだろう。騎士はどんな時でも常に誠実な振る舞いを求められるからという理由もあるが、相手がドワーフであることの方が今は重要だ。他種族は元々人間に対してあまり良い印象がない為、接触はなるべく慎重に行わなければならない。個人の印象は、人間全体の印象となる。下手に刺激を与えるようなことを口走れば、種族間の諍いが勃発してしまう可能性もなくはないのだ。侵略者と激戦中である今は、出来れば避けたいところである。エルフの長との謁見の際に少々女中とぶつかってしまったが、ケイからしてみればあれはまだ冷静な対応だった。
 しかし、父から見放されたと思ったことで己の存在意義を見失い、自暴自棄になっている今は、そんなことを考える余裕などなかった。
「……こんな妙な所で寝てるのが悪いんじゃねぇか」
 吐き捨てるように言うと案の定、老人の表情が怒りに戻った。腕を振り上げ詰め寄ってくる。
「何じゃと! 詫びもせん上に己の責をなすりつけるつもりか! 全く、これだから人間は……」
「うるせぇな! 人間がどうだ種族がどうのと言いたいなら他でやれよ! こっちはそんな説教聞く暇なんかねぇんだよ!」
 不満をぶつけてきたのを、それ以上の罵声で黙らせる。かなり理不尽な発言だったが、言った本人はそんなことに気付く余裕がある筈もなかった。あまりの剣幕に老人はたじろいでしまい、詰め寄った分を後退していく。
「な…何じゃ、お前。カッカしすぎるのは身体に悪いぞ」
「てめえに言われる筋合いねぇよ! 放っとけ!」
 更に怒鳴りつけると、老人は完全に萎縮してしまった。ドワーフらしい強面とは裏腹に結構小心者のようだ。
 老人の方は知る由もないが、完全な八つ当たりをしている。頭ではそれを分かっていても、自分で自分を止められない。
 そこで横から気配が近付いてくるのを察知した。僅かに動揺が走る。
「どうしたんだ、ケイ」
 現れたのは、父が来る前に去っていったルーカンだった。例の如く、後ろにはベディヴィアが付いてきている。
「一体何を騒いで……て、こちらのご老人は?」
 ルーカンは、ケイの前にいるドワーフの老人に気付き、首を傾げている。
 自信の父親を貶されて怒ったと思っていたが、今の彼にはそんな雰囲気は感じられなかった。同じように弟の方も。
「ふん。お前さんら、この短気者の仲間か」
 新しい人間の出現に些か威勢を取り戻した老人に、ルーカンが苦笑しながら柔らかく微笑む。
「まあ、そんなところです。ああ、申し遅れました。私は騎士ルーカンといいます。後ろにいるのが弟のベディヴィア。そして、こちらの短気者の名はケイです。よろしければ、貴方の名もお聞かせ願えませんでしょうか?」
 一礼し、丁寧にそれぞれを紹介していく。ベディヴィアが名を呼ばれた後、兄と同じように頭を下げる。ケイは自分の紹介のされ方に眉を寄せて顔を背けた。
「ほお、そっちの短気者とは違って礼節をわきまえているようじゃの。ならば、儂も応えねばならんな。儂の名はダルガン。見ての通りのドワーフ族じゃ」
 ケイとは正反対な紳士的な態度にドワーフの老人・ダルガンは、ここで始めて自身の名を名乗った。すると、ルーカンが目を丸くする。
「ダルガン殿、と申しますと……あの建築家として名を馳せていらっしゃるダルガン殿でいらっしゃいますか?」
 その言葉に今度はケイが目を丸くした。ダルガン、という名を知っていたわけではないが、目の前のしかも先程蹴り飛ばしてしまった老人が、そのような有名人であるなど思っていなかったからだ。
「ほほう。お前さん、儂の事を知っておるのか」
 自身を知っていた事にダルガンが更に気を良くしたのを、ルーカンは見落とさなかった。やや大袈裟な身振り手振りで賞賛していく。
「ええ。ダルガン殿の用いる、シンプル且つ大胆な作りには、私も強い感銘を受けました。特に西の大聖堂。あれは素晴らしい。あれほど美しく神秘的な建造物は見たことがありません」
「ふふん。お前さん、見る目があるのう。儂の弟子にしたいところじゃよ」
「恐れ入ります」
 すっかり機嫌の良くなったダルガンにルーカンが、再度大袈裟な身振り手振りで一礼する。その光景を、ケイは冷めた目つきで見ていた。
 この男はいつもそうだ。自分とは違って人を丸め込むのが非常に上手い。昔からその巧みな話術で、性格上、人と衝突ばかりしていた自分を幾度となく、勝手に助けに入っていた。それだけ色々な者と話を合わせることが出来るほど、多くの知識と情報を蓄えているということなのであろうが、その度に不愉快な気分になったものである。とはいえ、今は流石に感謝すべきかもしれない。
「……ところで、先程何やら言い争っていたようですけれど、彼が何かお怒りを買うようなことをなさったのですか?」
 ある程度、相手の機嫌が取れたのか。ルーカンが話を元に戻してきたのだ。ハッと思い出したかのような表情をしたダルガンは、ポンと手を叩いてからケイを指差す。
「おお、そうじゃ。こやつは気持ちよく寝ていた儂を、こともあろうに蹴り飛ばしたんじゃよ。だのに、詫びるどころか怒鳴り散らす始末。全くどういう教育を受けたんだか」
 その声音から怒りを感じ取れるが、最初の頃の激しさはない。ルーカンの褒め言葉が効いたのだろう。
 指差していた手を腰に当て踏ん反り返るダルガンを見たルーカンは、申し訳なさそうな表情をとった。瞬時に態度を変えられるのも、この男の特技である。
「申し訳ありません。お怒りはごもっともなことも理解しました。ですが、彼は決して悪い人間ではないのです」
「良い人間でもないが」
 ルーカンのフォローと、ベディヴィアの容赦ない突っ込みが入る。予想はしていたが、実際に言われたらやはり腹が立つ。特にベディヴィアの方に声を張り上げる。
「お前は黙ってろ! 言っておくけどな、俺は悪くねぇぞ。茂みから半分身体はみ出して寝ている方がよっぽど問題ありだろ」
 ケイは顔を横に背ける。どんなに言われようと自分から謝る気は全くない。目を閉じて更に言い募っていこうとしたのだが。
「大体、そんな体格じゃ岩に間違え……!」
 言葉は不自然にそこで途切れる。突然、後ろから頭を掴まれたと思ったら、そのままうつ伏せに押し倒されてしまったのだ。地についた顔面が土で汚れる。起き上がろうにも頭を上から押し付けられていて身動きが出来ない。
「こうして彼も反省しているようですし、どうかここはご慈悲を」
 上から耳に入ってきたルーカンの声に眉を顰める。誰が頭を押さえつけているのか。そして命じたのは誰なのかもケイには分かっていた。あの兄弟である。弟が頭を押さえつけ、兄がさもそれをケイが自分で頭を下げたと言ってのけているのだ。要は、頭を下げているから許してくれ、と。
「う、うむ……まあ、そこまでしているのなら、な」
 ルーカン達の強引さに驚いたのか。はたまた地面に押さえつけられているこちらに哀れみでも感じたのか。ダルガンはどもりながら承諾した。
「ありがとうございます」
 一転してルーカンの口調が明るいものとなったと同時に押さえつけていた手が引き戻され、ケイも身体を起こされる。顔には土がべっとりと付いていた。
 そんな不機嫌な彼とは裏腹に、にこやかな顔をしたルーカンがポンと肩を叩く。
「良かったなあ、ケイ。君の真心が通じたよ」
「何が真心だ! お前らが無理矢理押し付けたんだろうが!」
 顔の土を拭き落としながら文句を言うものの、それを無視して急にルーカンが耳元に顔を近づけて、小声で言った。
「こういう場合は先に謝った方が良いんだよ。そもそも君がダルカン殿を蹴ったのは本当なんだろう。それで無闇に相手の怒りを煽ったところで良いことは何もないさ」
 ケイは反論しようと口を開くが、何も出てこなかった。ルーカンの言っていることは的を得てはいる。それは分かる。だが、納得も出来ず、悪態だけはつく。
「別に俺がこのじじいの怒り買ったって、お前らには関係ねぇだろうが」
「私達はいいのだよ。けれど、アーサーに迷惑がかかるのは嫌だろう」
 その名が出たことで、ケイの心が一気に冷めていく。表情も消えた。急激な変化に流石のルーカンも訝しく思ったようだ。それを確認してから、顔を背けた。
「それこそ関係ねぇよ。俺はもう、あいつの騎士じゃないんだからな」
「……どういう意味だい?」
 言葉の意味が分からないのか、ルーカンが問いただしてくるのにケイは投げやりに答えた。
「親父から言われたんだよ。お前にはアーサーに仕える資格がないから去れってさ」
「エクター卿が?」
「ああ。そういうわけで俺はもう自由の身。あいつがどうなろうが知ったこっちゃないんだよ」
 軽く肩に置かれた手を払い除けると、ケイはじゃあなと言ってその場を離れようとした。が、それは叶わなかった。ルーカンが再び、そして今度は強く肩を掴んだからである。
「待つんだ、ケイ」
 振り返ると、沈痛な表情をルーカンが目に入ってきた。こちらを説得しようと試みてくる。
「エクター卿が、本当に君がアーサーにとって必要ではないと考えていると思っているのかい? そう言ったのだとしても、きっと何か理由が……」
 それが引き金になったかなど分からない。もしかしたら、どれも違うのかもしれない。
 ただ、確かなのはケイの中で何かが切れた。それだけだった。
「分かった風な口聞くな!」
 肩に置かれた手を強く掴み、振り落とす。あまりの激しさにルーカンも驚きを隠せなかったようだ。
「俺の親父だぞ! 他人のお前よりもあの人の事は俺の方がよく知ってる! あの人は、伊達や酔狂でんなこと言ったりしない。必要ないって言うんなら、本当にそうなんだよ!」
 溜まりに溜まっていた鬱憤を吐き出すようにケイは叫ぶ。そうすることで心の澱みが全て消えてくれること願うかのように。
「第一、俺があいつの傍にいて何の役に立つ? 剣の腕ではガウェインやランスロットには遠く及ばない。お前みたいに喋りに長けているわけでもなけりゃ、ベディヴィアみたいな頑丈な肉体も持ち合わせちゃいない。なら、俺に何がある? 何もねぇよ。知ってるだろ、周りの奴らが俺をどう言っていたのか」
 自虐的な笑みを浮かべるのを、ルーカンが戸惑うような目つきで見た。始めて見た表情といった感じだ。それもそうかもしれない。自分は不平不満を言うのはしょっちゅうだが、今のように自虐的な言葉を発することはなかった。自分と相手を比べることなら、尚更に。たとえ心では思っていても言葉にしないようにしていたからである。
 しかし、もう自分を抑えることを、心の中の何かが切れたケイには出来そうもなかった。
「それでも親父の言葉があったから、周りからどう言われようと関係なかったんだ。けど、それももうない。親父は分かってたんだよ。俺に、アーサーに仕えたいって意志がないんだってことを。当たり前だよな。どこに好きこのんで弟に頭を下げたがる兄貴がいるんだよ」
 口にすることでああ、と自分の本心に気付かされていく。悩みに悩み続けていたあの事。
何故、あんなにアーサーと兄弟であることを捨てようとしていたのか。
 それは、実に単純な事だった。自分はただ嫌だっただけだ。血は繋がっていなくとも、弟に跪きながら生きる兄であることが、耐えられなかっただけだったのだ。国の為でもアーサーの為でもない。自分の心を軽くしたかったが為に。
「お前、言ったよな。アーサーに仕えていくことを躊躇っていた俺に『兄としての自尊心が許さないのか』って。その言葉、今なら余計に身に染みるぜ。そうだよ、許さないんだよ。何で俺があいつの下で働かなきゃならないんだ。冗談じゃねぇ!」
 それは、宴で一人離れていた自分を、ルーカン達がアーサーの命で捜しに来た時のことである。アーサーに仕えていくについて悩んでいた自分にルーカンはそう言った。
 あの時もそうだったけれど、父の言葉を失ったことが、自分は自分で思っていた以上に兄としての自尊心が高い男だったのだと、つくづく思い知らされてしまった。何一つ人より秀でたものがないくせに、そんな感情だけは大層なものだ。
「大体、あいつもそうさ。あんなに付きまとってたくせにちょっと冷たくしたら、あっさり離れていきやがった。自分勝手な奴だぜ、本当」
 それは自分が選んだ結果ではないか、と心の中でもう一人の自分が冷静に言っているが、聞こえないふりをする。
 何においても、いつも自分より優れていた弟。なのに、いつも自分の後ろを追ってきていた弟。暗闇が怖いと泣きわめいていた弟。
 周囲の前では良い子なくせに、自分の前になると我侭を言うようになる。そんな弟がたまらなく嫌いだった。
 ……そう、自分はずっと嫌いだった。煩わしくて邪魔で、いつだってそう思っていたのだ。
 そして今、弟は兄ではなくなった自分をきっと邪魔だと思っている。それは父も同様だ。
 だったら、もう自分がここにいる意味など、本当に何もない。
「そんなに俺が邪魔だったら辞めてやるよ。こっちから願い下げだ!」
「ケイ!」
 止めるルーカンの言葉を無視した。今度こそ、ここから離れようと駆け出す。
 しかし、その時。
 ケイの耳にひとつの低い音が過ぎる。自然と駆けようとしていた足が止まった。
 あまりにも微かであったため、一瞬聞き間違いかとも思ったが、再度耳に入ってきたことでそうではないと確信する。
「……ケイ?」
 急に立ち止まったケイを不審に思ったルーカンがそっと声をかけてきた。ケイはそのことに気付かず、ひとりごとのようにつぶやく。
「何だ、これ」
「これ、とは?」
 ルーカンが首を傾げる。その言葉には気付いたケイは、先程までの荒々しい感情も忘れて振り返った。
「聞こえるだろ、何か音が」
「音? 鳥の囀りじゃないのかい?」
 ルーカンが辺りを見回しながら答えるのに首を横に振る。
「違う。もっとこう、声みたいな感じで……」
 それは、ケイにとってひどく馴染みのあるように思える音だ。幼少の頃から刷り込みのように聞かされていた、聞いていたもの。そう、まるで旋律のようなこれは。
「……歌?」
「歌じゃと!」
 叫んだのは、ダルカンだった。身を乗り出して詰め寄ってきたことにケイは驚き、後退る。
「それは本当に歌なのか?」
「え? ……ああ、多分」
「そうなのかい? 私には全く聞こえないが……」
 ルーカンが後ろを向くと、ベディヴィアが首を横に振った。どうやら彼にも聞こえていないらしい。視線をダルガンへ戻す。
「ダルカン殿にも聞こえるのですか?」
「いんや、儂にも聞こえん。じゃが、それが何かは分かる」
「何なんだ? 教えろよ」
 ケイが答えを求めるも、当の本人はフフンとしたり顔をするだけだった。
「そいつは実際にお前さんらの目で確かめた方が良い。その歌が聞こえる方角へ案内せい。」
「は? 何でそんなこと……」
「どうせ、お前さんはすることがないんじゃろう? クビになったそうじゃからな」
 突然の命令口調に些かムッとしたケイは拒絶したが、図星を指されて言葉が詰まってしまった。返す言葉が見つからないまま、舌打ちだけして歩き始める。それが了承であると理解したダルガンは後を追う。
 それをちらと横見しながら歩く。すると、その後ろからルーカン達も付いてくるのが目に入ってきたではないか。
「待って下さい。我々も行きます」
 ダルガンにそう告げると、こちらの横に立つ。ケイは眉間に皺を寄せた。
「お前らは帰れよ。他の奴らが心配するだろう」
「今は待機中だから平気さ。新しい事を発見するのは、良い勉強にもなる。それに……」
 ルーカンがじっとこちらを見つめる。何か言いたそうな顔をしたのだが。
「……いや、何でもないさ。行こう」
 ただそう言うだけで顔を逸らした。だが、彼が言わんとしていたのか、ケイには分かっていた。そして、自分がそれに答える術はないことも。
 最早、ケイも止めることはせず、少し足を速めて先頭になると、歌声であろうその音がする方向へと進んでいく。
 歌声は森の奥深くから聞こえてきている。先へ行けば行くほど、次第に道らしい道からは逸れていき、やがて茂みを通り抜ける形となった。前も見えない状態が幾度となく続く。
「やれやれ。この茂みは後どのくらい続くんだろうな」
「俺が知るか。とにかくこっちの方から聞こえてくるんだよ」
 ルーカンのぼやきを軽くあしらうものの、気持ちは理解できた。歌の聞こえない彼らとって、出口へちゃんと近付いているか不安になるのは仕方がない。だが、進んでいく度に歌がだんだんと大きくなっていっているのは確かであり、多分出口へ近付いているのだと思う。このまま進んでいくしかないようだ。
 と、その時だった。
 あれほど耳に入ってきていた歌がピタリと止んでしまったのだ。
 思わず、あ、と声を漏らすとルーカンが尋ねてくる。
「どうしたんだい?」
「消えた……」
「え? じゃあ……」
 これ以上は行けないのかと言いたそうな感じの声を、待てと言うことで遮り、先程まで聞こえていた方向へ茂みを除けながら走り出す。
「こっちだ。こっちから聞こえてたんだ」
「ケイ、待つんだ。勝手に先へ行くんじゃない」
 ルーカンが止めたが、ケイの頭には今や謎の歌声しかない。後ろの三人を置いてぐんぐんと先へ進んでいく。
 何故こんなにもあの歌を気にするのか、自分でも分からない。好奇心が強いわけではなく、正直面倒な事は避けたい方なので、このような得体の知れないものに首を突っ込もうとしているのが信じられないでいる。
 自分だけが聞こえるということに特別性を感じるからなのか、否だ。
 己の存在価値を見失って暴走しているのか、それも否だ。
 上手く言えないが、求めているのだ。自分の中の、何かが。
 それ以上は何も考えず、ひたすら走り続けていく。度々大地から伸びる草にもつれながら。
 もう何度目か分からないが、茂みをかき分けると、眩い光が目に飛び込んできた。
 つまり、ようやく茂みが終わり、開けた場所に辿り着いたということだ。
 しかし、光に慣れた視界に飛び込んできたのは、大きな岩のような何かだった。ケイは首を傾げ、指で突いてみる。岩にしては柔らかい。そういえば、先程自分は寝転んでいたダルカンを岩に間違えたのだったか。
 思い出した瞬間、何故かすごく嫌な予感がしてきた。正直、上を見るのが怖い。だが、いつまでもこうしているわけにもいかなかった。
 恐る恐る、顔を上げる。そして、予感が的中していたことを知った。
 頭上にあったのは、巨大な顔と胴体。
 そう、目の前にいたのは、巨人族だったのである。しかも目の前にいる者の他に左右に一体ずつ立っている。正確には計三体だった。
 驚きでケイは声も出ない。すると、背後の茂みがガサガサと動き出した。ルーカン達だ。来るな、と言いたかったが口が動かなかった。
「はあ、やっと抜けられ……」
 願いむなしく、ルーカンが茂みの中から身を乗り出してくる。出口に辿り着いたことへの安堵の表情が、この光景を目にしたことで一瞬に凍り付く。その後から来たベディヴィアも同様である。
 唯一人、ダルガンだけは少しも慌てた様子は見られなかった。前を向いているケイには知る由もなかったが。
 巨人達は固まっている彼らをしばらくじっと見つめていたが、やがてゆっくりとした動作で腕を動かすと、三人の後ろ襟首を掴んだ。
「な! おい、何すんだよ! 放せ!」
 持ち上げられたことでハッと我に返ったケイが叫ぶが、巨人達は全く意に介さない。これまたゆっくりとした動作で歩き始める。
 結局、ケイ達は捕らえられたまま、巨人達に連れ去られてしまったのだった。その後ろをダルガンが意気揚々と付いてきていることには気付く筈もなく。

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[ 2006/12/23 23:33 ] オリジナル小説連載 | TB(0) | CM(0)
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2006年5月16日開設

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