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Sir Kay~Brother Of King~第三章<7>




   第三章「弟の影となり」<7>



 『宝』は渡せない。
 エルフの長の言葉にケイは驚くアーサーとは正反対にああやはりな、と冷静に思っていた。ルーカンとベディヴィアもきっと同じ気持ちだろう。
 エルフ達は己が持つ技術によって、アーサーの活躍を静観していた。そのことは評価していると思われる。でなければ、住人であるランスロットが連れてきたからといって、こうも簡単に長の住居へ迎え入れる筈もない。
 しかし、内乱を終結させようと、異国からの侵略者達を追い詰めようと所詮は血なまぐさい戦である。更にその全てが人間のみによって行われているのだ。他の種族からしてみれば迷惑でしかない。それを考えれば、彼らがあっさりと自分達の『宝』を渡してくれるわけがないのだ。
 尤も、それがどうやら納得出来なかった者もいたようだが。
「それは何故でございますか!」
 ガウェインが身を乗り出して叫ぶ。
「我々の行いを見ていらっしゃったのなら、陛下がログレスの平和の為、どれだけ身を粉にしてきたかお分りの筈。あなた方の『宝』とて完全なる勝利に必要だとマーリン殿の助言があったからこそここまで求めてきたのだ。だのに、そのような言い草は納得がいかん!」
 拳を強く握り、激昂する彼を長達は表情ひとつ変えず見守っている。見た限り怒っている様子はまだ見られないが、これ以上ガウェインが熱くなると色々ややこしくなるかもしれない。今の内に諫めた方が良いと思ったのだが。
「長。私もガウェイン殿と同じ思いです」
 こちらが動く前に口を開いたのはランスロットだった。しかもガウェインを後押しするような物言いをする。
「私は短いながらも彼らと共に戦い、言葉を交わしました。その中で彼らに悪意はなく、また陛下からは王としての強い意志と勇ましさをお持ちなっていると感じたのです。決して私利私欲の為に動くような方々ではございません」
「控えなさい、ランスロット」
 女中の一人に諫められ、ランスロットは口を止めた。
「貴方は長が行ってはならぬと申されたにも関わらず、その言いつけを破って彼らの元に馳せ参じた。その貴方が長に対して意見する資格などありません」
 そう責められ、ランスロットは苦渋の表情を浮かべる。
 今の言葉は予想外だった。彼は育ての親である長に反抗してまで自分達を助けてくれたというのか。その自分の信念を貫き通す姿勢は、実にアーサーに似ている。
 それにしても彼といいガウェインといい、真っ直ぐな奴らだ。己の想いを嘘偽りなくぶつければ相手は理解してくれると思っている。それは決して間違ってはいない。だが、必ずしもそうすることで事が全て上手くいくわけでもない。真っ直ぐな想いはとても眩しく美しいが、結局は理想論であるからだ。
 そして、今の状況では、恐らくこのままでは埒が明かない。ルーカンも同じように思ったのだろう、沈黙を破って前へ進み出た。
「人間である以上、我々に信頼がないのは理解しているつもりです。そちらにそちらの事情もあるかとも。ですが、正直に申せばこちらにもこちらの事情がございます」
 冷淡な物言いにガウェインは驚いた様子だ。口出しされる前にルーカンは言葉を続ける。
「我々に『宝』が渡せぬという明確な理由を求めます。ただし、『人間であるから』というものではなく、理論に基づいた返答で頂きたい」
「人間如きが我らの長に命令するのか」
 ランスロットを諫めた方ではないもう一人の女中が怒りを押し隠して言い放つ。その態度にケイは気付かれないよう、こっそりと溜息を吐く。こちらに感情が先走る者がいるために話が先に進まなくなると思っていたが、どうやらあちらにも同じタイプがいたようだ。
「ちゃんとした答えが欲しいと言っているだけでしょう。考えが飛躍し過ぎではないですか」
 自分としては宥めるように言ったつもりだったが、あちらには馬鹿にしている風に思われてしまったようだ。元々上がっている方だった目がよりつり上がっていく。
「同じことだろう。お前達人間はそうやって自分以外の領地を荒らし、血に飢えて戦を起こすのだ」
 目だけでなく、口調も怒りの感情が剥き出しになりつつあった。逆にケイの頭は冷める一方である。相手が冷静であれば感情的になり、逆に今のように相手が感情的であれば冷静になる。それがケイの性格だった。何とか平静を取り戻してもらおうと試みるのだったが。
「それは否定しませんよ。ですが、戦を始めてしまった以上、こちらも負けるわけにはいかない。我々としても早く終わらせたいのですよ」
「その戦に勝利するため我らの『宝』を血で汚すというのか。お前達人間らしい、勝手な言い分だな」
 だから何故そういう展開に持って行くのか。
 こちらが何か言えば言うほど、相手は辛辣になっている気がする。どんなに説明しても返ってくる言葉は結局同じ、まるで堂々巡りだ。
 もうここまでくると、段々気持ちが萎えてくる。話をする気も失せてしまう。
「それが理由ですか。ならば、最初からそうおっしゃればいいものを変に圧力を掛けた物言いをするのは相手に悪印象を与えますよ。ご注意なさっては」
 投げやりなのが伝わったのか、馬鹿にされたと思ったのか、女中は最早怒りを露わにした表情で一歩前へ詰め寄る。それを長に止められ、気恥ずかしそうに元の位置へと戻った。
 すると、これまで長と無言で対峙しているかのようだったアーサーが口を開いた。
「ケイ卿。もう良い」
 振り返らず、長同様に自身の配下を諫める。ケイもこれ以上は言えることはないと思い、素直に従った。
 軽い諍いが終わった後、アーサーは長の前へと一歩進み出た。
「戦を起こしたこと、それは確かに我々の罪。ですが、皆ログレスの平和を胸に抱きながら剣を振るっている。そう思われているのだとしたら、全ては私の至らなさが原因。どのようなお叱りも受ける覚悟です」
 そう言って真っ直ぐに長を見つめる。後ろにいるケイからは確認出来ないが、その瞳は強い意志を醸し出していることだろう。長もまた鋭敏な瞳をアーサーへ向けている。
 数泊の沈黙が流れると、長はゆっくりと立ち上がった。
「アーサー。マーリンは貴方にこう問いかけた筈です。『剣と盾、どちらが重要か』と」
 思いがけない言葉にケイは大きく目を見開く。
 更に長は言った。
「そして、貴方は『重要なのは剣だ』と答えましたね」
 開いた目をそのままに視線だけを動かせて周囲を見る。どうやら他の四人も驚きを隠せないようだ。アーサーだけは背中しか見えないので確認出来ないが、恐らく同じ気持ちだろう。
 しかし、こちらの様子を観察していたとはいえ、まさかそこまで知っていたとは正直考えていなかった。
 そう思ったところでケイはひどく嫌な予感がした。そこまで見ることが可能なら、あの日の出来事も知っている可能性があるではないか。
 動揺を隠してちらりと様子を窺う。無表情の長からは何も読み取れない。知っているようにも見えるし、知らないようにも見える。結局は分からないということだ。
 だが、もし知っていたとしたら、それが『宝』を渡せない理由なのかもしれない。下手をすれば今ここで暴露されてしまう恐れもあるのだ。駄目だ、それだけは絶対に避けなければならない。とはいえ、自分に一体何が出来るのか……。
 そんなこちらの不安を余所に長の話は続いていた。
「確かに鞘だけでは敵を打ち倒すことは出来ません。しかし、剣も鞘がなければ、やがてその力を敵以外へと向けてしまうでしょう。剣も鞘も、そのどちらかだけでは永遠に不完全。剣があり、そしてそれを収めるべき鞘があってこそ、ひとつの完全な武器が生まれるのです」
 アーサーは長の言葉を遮ることなく、黙って耳を傾けている。流石のケイもなるほど、と思った。確かに鞘だけでは敵を討つことが出来ない。剣だけであっても抜き身のままになってしまって危険だ。二つは共にあるからこそ意味がある。だから、どちらかではなく、どちらも重要だという理論には納得だ。あの老人も同じ事を言いたかったのだろうか。
 ただ、どうも腑に落ちない。こちらの行動を熟知しているのは分かったが、何故、今そんな話をする必要があるのか。
 何より、あの事はどの程度知っているのか。ケイにとってはそちらの方が気がかりだ。
「私は、貴方の戦いを全て見ていました。確かに貴方は亡き父君とは異なり、私利私欲の為ではなく、このログレスの秩序と平和を目指し、尽くしてきた。その志は理解しています」
 長が突然話を元に戻し始めた。頭を左右に動かし、こちらを見回す。
「我がエルフ族に伝わる『宝』が如何なるものかはご存じですか?」
「持ち手の傷を癒すという『魔法の鞘』だとは聞き及んでおります」
 ルーカンの返答に長は頷いた。
「そうです。そしてそれは、貴方が持つエクスカリバーを収めるための物なのです」
 その言葉にケイの視線は、アーサーの腰元にある剣へ自然に移動する。彼を王とした証の剣。自分にとっては浅はかな嘘を付く切っ掛けとなった剣。その鞘がエルフ族に伝わる『魔法の鞘』だという。
 鞘は今もあるが、それは特に何の謂われのないごく普通の鞘である。ログレスの王の証たる剣を収めるのは不相応。そう考えれば『魔法の鞘』の方がエクスカリバーを収める物として相応しいといえるだろう。
「貴方が本当に鞘を受け取る資格があるのかどうか、私はまだ判断しかねています。ですから、貴方の考えを聞かせていただきます」
「何なりとお聞き下さい。騎士の名にかけて、決して嘘偽りは口にしないことを誓いましょう」
 迷いのないアーサーの答えを聞き、長は静かに語り始めた。
「平和を勝ち取るために戦うとは聞こえが良いですが、所詮は普通の戦争と何ら変わりありありません。森は焼かれ、大地は荒れ、罪もない女や子供、老人が犠牲になる。ですが、それでも人間は傷つき、戦い続けている。そして、今その中心にいるのが、貴方」
 そこで一旦言葉を切り、少し間が置かれる。果たして何が聞かれるのだろうか。その返答によって『宝』を得られるかどうかが決まるのだ。緊張がこちらにも移り、ゴクリと唾を呑み込む。
 抑揚のない長の声がアーサーの名を呼んだ。
「王として最も必要なものとは、何ですか」
 それが、長の問いかけであった。
 王として必要なもの。そういえば改めて考えたことはなかった、とケイは思った。
 強さ、知性、決断力、判断力、カリスマ性、寛大さ、冷静さ、度量の大きさ……その他もろもろ。上げていけばいくらでも出てくる。それだけ資格を持つ者は限られているということだ。
 だが、最も必要、と言われてしまうと、正直迷ってしまう。要は、数多の答えの中からたった一つを選べということである。そのたった一つが何なのか、ケイには皆目検討もつかない。
 アーサーは、何と答えるのだろう。
 ケイだけでなく、他の者も注目する中、アーサーは考え抜いた末、ただ一言つぶやいた。
「……わかりません」
 一瞬にしてその場の空気が変わる。凍り付いたわけでもなく、騒然となったのでもない、何とも形容しがたい空気に。
 まさか、そんな答えが出てくるとは考えてもみなかった。アーサーのことだから、凡庸な自分では思い付かなくてもちゃんとした答えを持っているものだと思っていた。正直といえば正直だが、あまりにも正直すぎるのではないか。
 見ればルーカン達はもちろん、ガウェインも、ランスロットですら目を見開いている。流石に長達エルフ族も予測していなかったのか、涼しい表情が一転して驚きに変化していた。
「私は騎士としても王としてもまだ未熟の身。己の進む道に迷い戸惑うことも常でございます。王として必要だという一つの答えなどを持つ資格さえありません」
 周囲の動揺に気付いていないのか、それとも気付いていての上なのか。アーサーは更に言葉を募っていく。ゆっくりと、自分自身で噛みしめるように。
「そんな私が恐れずに前へ進めるのは、一重に私を支えてくれる大勢の者達がいるからです。同じ道を歩んでくれる者達が」
 アーサーは後ろを振り返り、ケイ達を顧みた。
 純粋な瞳で真っ直ぐに見つめられ、皆は目が離せなくなる。
 すると、アーサーが突然何かに気付いたかのようにハッとした。
「……そうか。マーリンの言わんとしていたことが、今ようやく分かった。剣は私であり、鞘は私を誤った道から守る彼らだったのだ。剣が重要だといったあの時の私は、つまり己が最も大事だと言ったも同然……」
 誰に聞かすでもなく、まるで自分の中で確認するように口ずさむ。そこからケイ達もマーリンのあの時の問いの意味を知ることが出来た。
 アーサーは再び長の方へと振り返った。
「王として最も必要なこと。それは未だ私には答えることが出来ません。ですが、私自身が最も必要とするのは、私の鞘となってくれる彼らである。それだけは、騎士の名に懸けて宣言しましょう」
「陛下……」
 ガウェインが感嘆な溜息を吐く。首だけ向けたアーサーと互いに微笑み、頷き合う。
 それは、新鮮な光景だった。自分とは違って幼少の頃から友達作りが上手かった奴だったが、自分達ほど親しくする者はいなかった。その彼が、数ヶ月の付き合いである男と長年の戦友のような心の通じ合いをしている。
 自分の知らないところで、アーサーは自分達以外の者と好誼を通じていたのか。当たり前のことの筈なのに、相手がガウェインであっても、ケイにとっては驚きだった。自分が知らなかったことに。
 そこまで考えて、何を馬鹿な、と思う。知らなくて当然ではないか。自分はもうアーサーの兄という立場を放棄したのだから。第一、今はそんなことはどうでも良いのだ。
 もやもやとしたものを頭から振り払い、改めて前を見る。アーサーの言葉を黙聴していた長は、静かに瞳を閉じ、少し顔を下げた。
 長い沈黙が流れた後。
 エルフの長はわかりました、と一言つぶやき、再び顔を上げた。
 その瞳には、今まで感じられなかった情緒が表わされている。
「ログレスの王・アーサーよ。貴方の御心、確かめさせてもらいました。貴方なら鞘を手にし、エクスカリバーを完全な物とすることが出来るでしょう」
 先程とは打って変わって、一気に場の空気が明るくなる。嬉しさのあまりか、ガウェインが喜びの声を上げ、拳を叩くと。アーサーの肩に手を置いた。賞賛の言葉を述べているのだろうか、後ろにいるこちらにまでは届かない。
 ほっと小さく安堵の溜息を吐く。視線を感じて横を見やれば、ルーカン達が微笑んでこちらを向いていた。それにいつものように不機嫌な表情で返す。この兄弟にはそれで自分の気持ちが通じるのだ。
 こちらの様子に微笑んでいた長は、女中の一人を傍に来させる。何やら耳打ちされた女中は奥へと引っ込み、長く細い包みを持って戻ってきた。
「これが、エクスカリバーの鞘です」
 長の言葉と共に布が解かれる。ようやく現れた『宝』に皆、釘付けになる。
 それは、思っていたよりも簡素な作りだった。外装には必要以上の装飾はされておらず、神々しく優美なエクスカリバーの鞘にしては、正直に言えば随分地味に感じる。
 剣は騎士にとって武器であると同時に身分や権力の象徴でもあるのだ。その為、鞘にも豪華な宝石や珍しい素材を散りばめている者は少なくない。ケイ自身は派手さを好まないので、そういった類はほとんど付けていないが。だが、そんな自分から見てもこの鞘は地味さを拭えない。
 それともそういった感覚は人間だけのものであって、この鞘の作り手からしてみればこういう形の方が美しいのかもしれない。作った人物が誰なのかなど知らないけれど。
 色々と考えていると、長が口を開いた。
「ですが、その鞘はまだ未完成です」
「未完成?」
 それは正に寝耳に水の話だ。エルフの里に大事に保管されていた『宝』が未完成? 一体どういうことなのだろうか。
 疑問が表情に出ていたのだろう。長は鞘の末端の部分を指差して言った。
「完成させるためには、このコジリの部分に特殊な金属を着ける必要があります。それがなければ、鞘はエクスカリバーの鋭敏な刃を受け止めることが出来ません」
 だったらさっさと付ければいいのに。何故、未完成のまま放っておいたのか。つい、不満が頭に浮かんでしまうが、口にはしない。出せばせっかくの良い雰囲気を台無しにしてしまうだろう。
「では、その金属というのは、どこに?」
 問いかけたのはルーカンだった。すぐに長が答える。
「その金属を所有し、鞘を完成させられるのは、巨人族だけです」
「巨人族だって!」
 叫んだ瞬間、皆の視線が一気にこちらへ回ってきて、すぐにまた口を噤む。それでも動揺までは消せなかった。
 まさか、その名をここで聞くことになろうとは。巨人族は魔物の中でも最大級の種族だ。ケイも以前、アーサーと共に洞穴で遭遇したことがある。しかし、彼らは力は凄まじいが、知能は低い。そんな彼らに鞘を完成させるという細かい作業が出来るのだろうか。
 こちらの疑問を解消するように長は話を続けた。
「いつかエクスカリバーに選ばれた者が、自ら巨人の元へ完成させに行くために敢えて未完成のまま残していたのです」
 長の話によると、巨人の里はこのエルフの里からそう遠くない岩山の奥地にあるという。そして、何と意外にも彼らは友好関係を結んでいるらしい。だから、鞘の最後の部品である金属を預けることが出来ていると。
 妖精のエルフと魔物の巨人が友好関係、というのはいまいち想像が付かないが、どうやらそこに行かなくてはならないようだ。ここまで来るのにもかなり疲弊したというのにまだ厄介事が続くのかと思うと、ケイは正直げんなりしてしまう。わざわざ未完成のままになどせず、さっさと完成しておいてくれればいいものを。いや、そもそも最初から『宝』は未完成であると教えておいてくれれば良かったのだ。本当にあの老人は中途半端な予知しかしない。
「ただ、巨人は我らエルフ以上に他種族の侵入を拒絶します。今よりも更に少ない人数で向かわねばなりません」
「ならば、私が陛下に同行します。この命に代えましても必ずお守りいたします」
「……ありがとう、ガウェイン」
 力強いガウェインの言葉にアーサーが謝意を述べる。すると、その光景を見ていたランスロットが長の前へ一歩進み出てきた。
「長、私もどうか同行することをお許し下さい」
 皆の視線がランスロットに集中した。
「私も陛下らと共にログレスの平和の為に尽くしたいのです」
 ランスロットは強い眼差しで長を見据える。
 その瞳には一寸の迷いも感じられない。
 長はしばらく黙って彼を見つめた後、静かに口を開いた。
「ランスロット。貴方にも、旅立ちの時が来たのですね」
 その声は優しさに満ちている。まるで、親が子に語りかけるように。
「私は、貴方の亡き父の願いにより、今まで貴方を育ててきました。それは、エルフの中で生涯を終えさせる為ではなく、人の元へ返す為だったのかもしれません。……お行きなさい、貴方の望むままに」
「……ありがとうございます」
 柔らかく微笑んだランスロットの肩をガウェインが掴み、互いに強く頷き合った。本当に誰とでもすぐに親友になれる男である。自分を抜かしてだが。
 嫌味気味に思っていると、急にガウェインがこちらを振り返った。
「ケイ卿達もそれでよろしいか?」
「え……?あ……」
 突然、振られたことに驚き、ケイは反応が遅れてしまった。代わりにルーカンが答える。
「ガウェインが付いていくなら何も心配ないよ。ランスロット殿の事も長殿のお墨付きだ。安心して陛下を任せられる」
 そこで言葉を切ると、ポンとケイの肩を叩いた。
「なっ、ケイ」
「あ、ああ、いいんじゃないか」
 どもりながらも何とかそれだけ応える。それを聞いた二人は、何やら互いを激励するような言葉を掛け合う。その様子にまたげんなりしてしまった。
 疲れる奴らだが、確かに自分達と比べものにならないほど腕が立つ。二人がいればアーサーに危険が及ぶことは恐らくないだろう。自分達が共に行くよりは確実だ。
 ふと視線を横にやると、アーサーがこちらを見ていることに気付く。先程の強い眼差しではなく、感情を挟まない瞳で。
 一瞬だけ、目がかち合う。だが、すぐにアーサーの方から視線を外し、ガウェインとランスロットの輪の中に入っていった。
 その姿を追いながら、ケイはアーサーの言葉を思い出していた。
 自分は剣であり、共に戦ってくれる騎士達は自分を支える鞘である。
 彼はそう言っていた。
 正直、その言葉には今でも驚きを隠せないでいる。自分とは違い、幼少の頃からしっかりとした考えを持っていた奴だったが、あのように高尚な事を言えるようになっているとは思っていなかったのだ。
 自分の知らない間にアーサーはもう立派な一人の騎士であり、王となっていたのだ。
 それは喜ぶべきことだ。喜ぶべきことなのだが。
 ケイの頭の中には、ひとつの疑問が浮かんでくる。
 アーサーの周りにいる者達が、彼を支える鞘ならば自分はどうなのだろうか。
 彼を禁断の行為に走らせるのを止められなかった自分が、彼の鞘である資格なのあるだろうか。
 否……ある筈がない。
 では、自分はアーサーにとって何になるのだろうか。何になれるというのか。
 兄でもない、鞘でもない自分は一体。
(今の俺は……何なんだ?)
 彼らの晴れやかな後ろ姿とは逆に、ケイは自身の価値を見失いつつあった。

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[ 2006/12/09 23:35 ] オリジナル小説連載 | TB(0) | CM(0)
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2006年5月16日開設

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