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Sir Kay~Brother Of King~第三章<5>




   第三章「弟の影となり」<5>



 矢は反応に遅れた新米騎士数人に命中する。避けられた者達は、自馬へと一目散に走っていった。ケイ達も同様に自馬へ駆け寄る。足下に置いていた器を蹴ってしまったが、そんなことに構っている暇はない。
 自馬に跨り、見上げると、崖の上に二十数体の影が確認出来た。その影は、人間よりも遙かに大きく強靱な肉体を持っていることが遠目からでも分かる。魔物であることは明らかだ。
 更にその図体と、馬のような生物に乗っていることから、ゴブリンなどよりも高位な種族であるのが瞬時に把握出来た。
「オークか……!」
 こちらが正体を悟ったのと同時に魔物『オーク』の群れが雄叫びを上げた。獣の咆哮の倍の騒音に、耳が痛くなる。
 オークは、ゴブリンよりも凶暴な上に知能が高い。群れで行動し、人間を襲うという話はざらにある。ここまで無傷で来られたのも考えれば、現況は十分予測出来る事態だった。
 『ボア』と呼ばれる猪によく似た魔物に乗ったオーク達は、雄叫びを上げながら勢いよく崖を滑り落ちてくる。
「怯むな! 進め!」
 高らかに剣を掲げたアーサーの言葉が合図となった。騎士達も気迫を高める為に声を張り上げながら、突進していく。
 両者が激しくぶつかり合う。場は一気に混戦状態となった。
 先手の矢によって負傷した者がいるものの、数はまだ互角に近い。油断をしなければ勝利出来る戦いだった。
 ケイも一体一体確実に仕留めていく。ふと視線を見回せば、ルーカン達の姿が遠くに見えた。ベディヴィアは以前、レオデグランス卿の元に向かう途中で襲われたドラゴンによって左腕を失っている。以来、移動する時などは、ルーカンの馬に二人で乗っているのだ。兄が巧みに馬を操り、弟が周囲の敵を残った片腕に持った剣で薙ぎ倒していく。実に息のあったコンビネーションである。
 今度はガウェインの姿が入ってきた。こちらより倍近くの体格を持つ相手にも何も恐れず、真正面で立ち向かっていく。豪胆な性格に相応しい戦いぶりだ。
 そして、アーサーが目に留まる。血なまぐさい戦いだというのに、その中で軽やかに剣を振るう彼は、俗世の者とは思えないほど高潔で美しかった。尤も、ケイはそんな風に感じていることを決して認めはしないが。
 などと、周囲の状況を確認していられる身分ではなかった。そうこうしている内に次の敵が迫ってくる。振り落とされる斧をかろうじて避け、腹を切り裂く。
 苦しみの声を上げたオークは、ボアを繋いだ手綱を離した。そのまますぐに次の標的へと向かう筈が、この時は何故か倒れていくオークに目がいってしまった。
 見下ろす形となったケイの視界に驚く光景が飛び込み、思わず馬を止める。
 倒れたオークの額の中心が開かれる。
 現れたのは、第三の瞳。
 それは、魔女モルガンが持つものと同等だったのだ。
 あまりのことに、意識がそちらに全て奪われる。その隙が仇となった。
 背後の敵の矢が馬の臀部に刺さり、バランスが崩れる。そのまま横転し、乗っていたケイも振り落とされてしまった。
「……痛っ!」
 咄嗟に受け身はとったので骨が折れるなどはしなかったが、背中を強く打ってしまう。痛みのせいで目の前を火花が散る。
 痛みに意識が集中したために周りの状況に気付くのが遅れてしまった。
「ケイ!」
 自分の名を呼ぶルーカンの声が耳の片隅に入ってきて、ハッとする。今が戦闘中であるのが一瞬、頭から抜けていた。
 急いで剣を拾い、顔を上げる。先程倒したオークが乗っていたボアが、こちらに向かって突進してくるのが見えた。乗り手を失い、暴走しているのか。
 ケイはすぐさま立ち上がろうとしたが、思いの外背中を強く打ってしまったようである。痛みが走り、構えることが出来ない。その間にもボアは、グングンとこちらと距離を縮めていく。
 ダメだ。間に合わない。
 体当たりされるのをケイは覚悟する。
 しかし、そのような事態には陥ることはなかった。
 横から放たれた矢が、見事急所に命中し、ボアは体当たりする直前で倒れ、絶命したのだ。
 思いがけない展開にケイは困惑しつつも、矢が放たれた方向に目を向けた。気付いた騎士やオークもそちらに意識を集中させる。
 オーク達が駆け下りてきた崖の上に、今度は白馬に乗った剣士がいたのだ。キャメロットの騎士ではない。そもそも白馬に乗るのはアーサーのみであり、自分や他の者のは普通の茶色型なのだから、明らかに違う。
 剣士はローブを身に纏い、顔もフードを深々と被っていてよく見えない。だが、太陽を背に煌々としたその姿は、アーサーと酷似しているように感じられた。
 颯爽と剣士が崖を駆け下りてくる。それと同時に戦闘が再開された。オーク数体は、突如現れた謎の剣士に危機を感じたのか、騎士達を無視して攻め込んでいく。それを剣士は、無駄のない動きで矢を放った時のように急所を的確に切り裂き、貫いて仕留めていった。こういった混戦状態では、剣を急所に当てるのは非常に難しい筈。それだけで剣士の腕は相当なものだと、誰もの頭に認識された。
 ケイが呆然とその光景を見ていると、白馬の剣士が目前まで駆け寄ってきた。驚いて見上げるも、フードの中身は口元しか確認出来ない。
「乗られよ」
「は……て、おい!」
 突然のことで戸惑うこちらの意志は無視された。剣士に腕を掴まれ、半ば無理矢理に騎乗させられてしまう。
 文句を言おうとするも、見ていたよりも激しい馬上の揺れに、意識が馬の胴体を掴む手に集中する。これでは、気を抜くとまた振り落とされてしまう。しかも自分が操るよりもスピードが早い。これで落馬したら、先程のような怪我では済まないだろう。仕方なく、そのまま乗っているハメとなってしまった。
 開けた場所に到達した剣士は馬を止め、後ろを振り返る。静かな振る舞いながらも妙な気迫を感じられて、オーク達は恐れおののく。
 そこにガウェインが目前の敵を薙ぎ倒して駆け寄ってきた。
「貴殿。なかなかやるな!」
「貴方も」
 隣り合わせでお互いを賞賛し合う。ガウェインからしてみれば、良き好敵手との出会いといったところか。
 激戦の中でも余裕のある彼らを、ケイは必死に馬にしがみつきながら、心の中では一歩引いて見ていたのだった。
 こうして謎の剣士の加勢もあり、それから一時間も経過しない内に戦いは、こちらの勝利で終わった。負傷者は出たが、皆五体満足で回避出来たのだから、よしとすべきである。
「貴殿、すごいな! あれだけの腕前の者は滅多に見たことがない」
「恐れ入る。貴方の剣術も素晴らしかった。是非、いつか手合わせを願いたいものだ」
「おお! それはいいな。今から腕が鳴る!」
 先程出会ったばかりだというのに長年の親友のような掛け合いをする二人の隅で、ケイも馬を降りた。しかし、フラフラで足下がおぼつかない。頭も心なしかグラグラしている。
「大丈夫か、ケイ」
 駆け寄ってきたルーカン達が心配そうに声をかけてきたけれど、答えることが出来ない。すると、気付いた剣士とガウェインも傍に来た。
「申し訳ない。少々乱暴な扱いをしてしまって」
 剣士が済まなさそうに言ってくる。
 あれで少々か。そう反論したかったが、ぐっと抑える。それよりも言わなければならないことがあるからだ。
 ふらつく頭を抑えながら、剣士を睨みつけた。
「何者だ、お前」
「ケイ。加勢してくれた者にそんな言い方は」
「いくら助けてもらったからって、素性も知れない奴をそう簡単に信じられるか。第一、顔も隠しているんじゃ怪しいと思われたって仕方がないだろう」
 ガウェインが諫めるような目つきをするが無視をする。助けてもらったのは事実だ。しかし、だからといってこの剣士が味方かどうか判断するには材料が足りない。一見、協力をしに来たように見せかけてとんでもない罠を張り巡らす者も存在するのだから。モルゴースがその良い例だと思うが、実の息子の前で言うのは流石に気が引ける。
 ルーカン達もこちらの考え方には同意しているのか、何も言ってこない。ガウェインもケイはともかく、二人が傍観しているのでそれ以上は強く押せなかったようだ。
 四人の視線が剣士へと集中する。
 剣士は四人を見回し、間を置いてからフードを脱いだ。何の躊躇いもなく。
 暴かれた下の顔に、その場にいた者は息を呑む。そこに現れたのは、何とも稀に見る美少年だったのだ。
 黄金に輝く髪。青空の如く透きとおった瞳。唇も輪郭も、まるで全てが完璧な人形のようだった。それは、アーサーと同様でいてどこか異なる。アーサーがどちらかといえば中性的な面であるのに対して、彼は男性的な雰囲気の方が全面的に押し出されているからなのかもしれない。
 四人が思わず凝視していると、剣士は何かに気付いたような顔になって移動し始める。その行き先に視線を漂わせて、ケイは驚く。同時に足を動かし、剣士を抜いていった。
 辿り着いた先には、ケイの馬が、オークの矢が臀部に刺さったまま息も絶え絶えに倒れていた。
 急いで駆け寄り、矢を抜く。臀部の方は大したことはないが、変な形に横転してしまったのか。足にも傷が出来ている。どれも致命傷ではないとはいえ、この先の旅に連れて行くことは不可能に思われた。
 心の中に動揺が走る。ケイにとってこの馬は、騎士になってからずっと共にやって来た、いわば相棒なのだ。それを置いていかねばならないというのは、極めて重大なことである。しかし、歩けない馬を連れて行けば他の方々の足手まといになってしまうのもまた真実だ。幸いここは自然がたくさんあり、気候も暖かい。傍には草も生えているから、少なくとも飢え死にするはないだろう。自然治癒が出来れば、野生へと還れる。そうするしかない。そうするしかないのだが。
 決断に迷っていると、剣士が横に並んできた。
 訝しげに振り向けば、おもむろに馬に触り始めたではないか。
「何すんだよ!」
 ケイは、剣士の片腕を思い切り掴み、怒りの表情を向ける。しかし、剣士は動じない。それどころか興奮するこちらを諭すように告げてきた。
「離れていてくれ。私は治癒魔法の心得がある」
 冷静に、だが有無を言わさない態度にケイはぐうの音も出ない。しかも治癒魔法が使えるのならば、止める理由がなくなる。
 掴んだ腕を離すと、剣士は再び馬に手を置いた。瞳を閉じて意識を集中させていく。ケイも、後から来た三人もその様子をじっと見守った。
 剣士の手から淡く暖かい光が発せられ、一瞬にして馬を包み込む。それは、確かに治癒魔法だった。続けること数十秒。光が消えた頃には、馬の臀部にも足にも傷がなくなっていた。馬は元気よく立ち上がり、嘶きを上げる。
「これで大丈夫だろう。良い馬を失わずに済んで良かった」
 ケイが馬を見上げていると、瞳を開いて同様に見上げていた剣士が声をかけてきた。穏やかに微笑む姿は、凛々しい表情も相まって男の自分から見ても何故か気恥ずかしくなってくる。しかも、自分は彼を疑っているのだ。そんな自分の馬を救ってくれた行動をどう取るべきなのか、正直迷ってしまう。
 とりあえず、礼を言うべきかどうかを考えると。
「ケイ卿!」
 焦ったようなその声を耳が捉えて心臓がドクリと跳ねる。目を向ければ、アーサーが声と同様に焦燥とした表情で駆け寄ってきた。
「無事か! 怪我は……」
 全身を見回し、怪我を探す姿にケイは困惑する。こんな感情を表に出した彼を見るのは久々だったからだ。
「大したことはありませんよ。落馬して背中を打っただけですから」
「そうか……良かった」
 こちらの返答に、アーサーの表情が安堵に綻ぶ。それも最近、自分の前では見せなかったものだ。幼少の頃から飽きるほど見ていた筈なのに、不思議と新鮮に思えてしまう。だが、こちらの視線と剣士の存在に本人もハッとして瞬時にいつもの厳しい表情へと変化させた。それにまた胸の奥に棘が刺さったような感じになる。
 アーサーは剣士の方を振り向く。剣士は彼が来た時から、地に膝をついていた。
「貴殿の助力により、こちらに被害なく勝利することが出来た。感謝する」
「偉大なるアーサー王陛下からそのようにおっしゃっていただけることは、この上ない誉れに御座います」
 自身の名が剣士の口から出たことにアーサーは目を見開く。ケイや他の三人も同様だ。ベディヴィアは相変わらずの無表情であったが。
「私を知っているのか」
「今のログレスで陛下の名を知らぬ者はおりません」
 未だに謎の剣士であるが、その言葉には頷ける。内乱の終結、他国からの侵略者との戦いの華麗なる勝利の数々を収めてきたアーサー王の名は、知られていて当然だ。尤も、それでもケイの中では、この剣士が味方であると判断出来ないのであるが。
 続いてアーサーが質問した。
「名は何という」
「ランスロットと申します、陛下」
「ランスロット?」
 ルーカンが突然二人の会話に入ってくる。
「確か、亡きバン卿のご子息もそんな名だった気がするんだが……」
 バン卿、という名にはケイも心当たりがあった。確か、先王ユーサーとゴルロイス卿が戦った際にユーサー王の傍についた騎士の名がそうであったと思う。その戦の傷が元で亡くなったという話もあった筈だが。
「私が、そのバン卿の息子だ」
 その場にいた誰もが驚きを隠せなかった。ランスロットと名乗った剣士は、アーサーの実父に仕えた騎士の息子だという。更に彼は、衝撃的な事実を言ってのけた。
「私は、エルフの里から参りました」
「エルフの里だって?」
 自分達の目的地の名が出たことで三度驚いたケイは、無意識に声に出してしまった。
「じゃあ、エルフに縁深い騎士とは、バン卿の事だったのか」
 独り言のようにルーカンがつぶやく。確かに彼が言った噂を当てはめればそういうことになる。
 マーリンの予知も思い出してしまえば、つまりこの男が自分達の探し求める『宝』の可能性があるということだ。
 あまりにも突然な展開にケイはついて行けず、混乱してしまう。しかし、そんな自分の気持ちを余所に話はどんどん進んでいく。
「エルフ族の長は、私を実父から引き取った後、私を実の子のように育ててくださった存在です。長は、陛下が里を目指していることもその理由も全て知っておられます」
 ランスロットは陛下、とアーサーに言葉をかけてから言った。
「貴方をご案内いたしましょう。エルフの里へ」
 ザア、と風が強くざわめき始めていた。

※ バン卿は、正確にはアーサーに仕えた騎士です。このお話では、設定の都合上変更しました。

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[ 2006/11/25 23:36 ] オリジナル小説連載 | TB(0) | CM(0)
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2006年5月16日開設

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