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Sir Kay~Brother Of King~第三章<4>




   第三章「弟の影となり」<4>



 翌日、アーサーとその護衛騎士十数人は、キャメロットを出発した。
 事前に調査したところによると、エルフの里はひとつの谷を越えた先にあるらしい。現在は、その谷を進んでいる最中だ。幸い、ここまで魔物や野党などと遭遇することはなく、予想していた時間を大幅に短縮出来ている。しかし、こういう時こそ油断をしてはいけないのは、誰もが熟知していた。
 エルフの里へは、早馬で行っても一週間はかかってしまう距離である。できれば、あまり時間をかけたくないが、こちらにとってそこまでの道程は、未知であり未開だ。そのため、遅れてしまうのは覚悟の上で慎重に行動しなければならなかった。
 やがて休憩をとる時間となった。新米騎士やその従者は食事の仕度を始め、見張りに立った者以外は、談笑をしたり今後の予定を考案しあったりと各々自由に過ごしている。
 そんな中でケイは一人、周囲と離れた岩場に座っていた。元々、そういった交流の輪に入るのが好きではなかったのと、ここ最近、本当に多くのことがありすぎて、とても喋る気分になれないのが理由だった。
 ちらりと横目で遠くを見やる。自然とアーサーの姿が入ってきた。穏やかに微笑んでガウェインと話している姿は、あの日から見たことのないものだ。まだ数ヶ月しか経っていない筈だが、自分に向けられたのが遙か昔のような気がしてくる。そして、もう向けられないと思うと、胸の奥に棘が刺さったような感覚に陥っていく。自分のしたことを棚に上げているのは、重々承知だ。
 放っておくと湧き上がってくる感覚を振り払い、目線を上方へと移動させた。空は雲に覆われて澱んでいる。まるで今の自分の心中を表わすかのように。
「ほら」
 かぐわしい香りが鼻孔に漂ってきたと同時に声が耳に入ってくる。振り向くと、ルーカンが食事の入った器を、手に片方ずつ持って立っていた。
 無言で差し出されていた一つを、自分も無言で受け取る。中身のシチューは湯気を立てて、とても暖かかった。
「あまり皆から離れない方がいいぞ」
 ケイの隣に座りながら、ルーカンがやんわりと忠告してくる。
「つるむのは好きじゃねぇよ」
「一人はぐれて魔物にでも襲われたらまずいだろう。それに、コミュニケーションは大事にしないとね」
 いつもの微笑みを口の端に刻み、シチューを口に含む。ケイはこれ以上反論しても無駄だと長年の経験から感じ取り、自分も一口啜り始めた。
 すると、斜めの方向に大きな影が視界に入ってきた。何かと思い、顔を上げてみる。
 影の正体は、ベディヴィアだった。しかし、本人は、何故かその場に突っ立ったまま動こうとしない。訝しく思っているとルーカンもそれに気付いたのか、視線を向ける。
「ん? ……ああ、そうか。頼むよ」
 何やら納得したその言葉にベディヴィアは頷くと、少し離れた場所にいた数人の騎士達の元に歩み寄り、そのまま彼らとどこかへ行ってしまった。そして、ルーカンは再びシチューを頬張り始める。
 二人のやり取りの意味が全く理解出来ないケイは、首を傾げるしかない。
「あいつ、何しに行ったんだ?」
「ここまで来る途中に川が見えたから、水を汲んでくるとさ」
 シチューを啜りながら事なげもなく答えるルーカンに、思わず唖然としてしまう。
「……いつ、言ったんだよ。そんなこと」
「顔に書いてあっただろう」
「いつもの無表情のままだったじゃねぇか」
「いや、ああ見えて結構変化しているんだぞ。目の奥が微妙に動く」
「んなの分かるか!」
 当然のように言ってのけられると腹が立ってくる。そんな細かすぎる違いにどう気付けというのか。
 そういえば、と昔の記憶がふいに甦ってくる。確かにこの兄弟は子供の頃から、驚くほど意思の疎通が為されていた。自分など二人にはテレパシーの能力でもあるのかと、一度本気で思ったくらいだ。
 言葉には出さなくてもわずかな変化で、今相手が何を考えているのかはっきりと言い当てることが出来る。何故、そんなことが可能なのか。自分には未だに理解出来ていない。
 それがこの兄弟の一番の不思議だった。
「なあ」
 シチューを少し頬張り、顔は相手に向けずに声をかける。
 ルーカンが顔を上げるのを、視界の隅で確認出来た。
「前から思っていたんだけどさ、お前、何でそんなに分かるんだ。あいつの考えていること」
 こちらの突然の問いにうーん、とルーカンが困ったように唸るのが見えた。
「何でって言われてもなあ。物心ついた時にはもうそんな感じだったから、理由など特に思い当たらないよ」
 半ば予測していた答えにケイもふーん、と感情希薄に相づちだけを打つ。
 そうなることが当たり前である人間にとっては、理由など分かる筈もないということか。否、そもそも理由などないのかもしれない。二人にとってそうであることが当然なのだから。それは長年の付き合いから何度も感じたことである。
 しかし、今のケイには、それがとても羨ましく思えてしまった。
「俺は、全然分かんねぇよ。……あいつのことなんて」
 あいつ、というのはベディヴィアのことではない。
 脳裏に浮かんでくるのは、数ヶ月前まで自分の弟だった今の主である少年の姿だった。
 明確な名を出さなかったが、恐らく隣の男にも伝わったことだろう。
 二人の間に沈黙が流れ、それが少し経った後。
「いいじゃないか」
 またも事も無げな答えが返ってくる。これにはケイも予想外だった。目を見開いて彼の方を振り向く。
「分からないのだったら分かろうとすればいいんだ。むしろ、そっちの方が羨ましいと思うけどな、私は」
 ルーカンは食べ終えた器を足下に置き、布で口元を拭いた。その平静とした態度に眉を顰める。
「どこが羨ましいんだよ」
「分かる毎にお互いの新たな一面を発見出来る。常に新鮮味を感じられて楽しそうじゃないか」
 よくそんな風に考えられるものだ。ケイはある意味感心してしまう。
「そんなの俺からしてみたら面倒くさいだけだぜ。お前らみたいに何もかんも分かり合っていた方が楽だろ」
 ルーカンがなるほど、と二度三度首を縦に振り、妙に納得している。
「人間というのは、無い物ねだりする生き物だということかな」
 勝手に自己解釈をしてにこやかに微笑む。ケイは肩を落としてそれ以上何も言わなかった。これ以上話を続けると、あちらのペースに巻き込まれるのがオチだと気付いたからだ。シチューを一気に飲み干し、自分もまた器を足下に置く。
「まあ、様々な形があるのは当然だろう。君とアーサー。私とベディヴィア。同じ兄弟でも全く違う」
 微妙に話が逸れたような、否やはり逸れていないのか。一瞬乗るべきかどうか迷ってしまう。だが、それには同感ではあった。生まれた家も育つ環境も違うのだから円満なものや、互いの事が全く見えない間柄が生まれるのは、自然の成り立ちだ。もちろん、前者がルーカン達で後者が自分のところである。尤も、自分のところより更に酷い関係も今は知っているが。
「ガウェインとこみたいなのもあるからな」
「俺が何だって?」
 若干、皮肉げに言ってみれば右から声がしたので、飛び上がりそうになるほど驚いてしまった。
 顔を上げれば、たった今噂をしていた張本人が立っているではないか。先程までアーサーの傍にいた筈なのに。
「げっ!」
 咄嗟に驚きがそのまま口から出てしまう。そんなこちらの態度にガウェインは、些か不愉快そうに顔を顰めた。
「げっ! とは聞き捨てならないなあ。一体何を話していたんだ」
 尋ねられて、ケイは返答に迷う。すると、ルーカンが助け船を出してきた。
「ガウェインも随分と馴染んできたな、と思ってね」
 全く戸惑いのない物言いに不審さを感じなかったのか、ガウェインの表情が一挙に柔らかくなる。そもそも、この男に自分が良くない噂の対象になっているなどと考えるわけはないのだったが。
「そうか? そう見えるのだとしたら、先輩方のおかげだ。皆気さくで良い方達ばかりだからな。もちろん、お前達にも感謝している」
「ははは。それは嬉しいな、ありがとう」
 感謝をしている割には、自分達への口調の変化が早いのでは。ケイは常日頃、そう思っていたが、また揉めてしまう可能性があるため、今度は口に出さない。まあ、同年代であるからどちらでもいいのだけれど。
 彼の良い意味で真っ直ぐ、悪い意味で暑苦しい言動にすんなり対応するルーカンを、膝に頬杖をつきながら細目で見やる。相変わらず人に合わせるのが上手い男だ。自分では、絶対に真似出来ない。
 そうこうしている内にベディヴィアも水汲みから戻ってきて、たんまり詰まった水筒を渡された。何故かガウェインの分もあったことには、目を伏せる。
「ああ、そういえば君は知っているかい? エルフの里にある噂を」
「いや、知らないな」
 ケイの隣に座ったガウェインは、水を一口含んでから、ルーカンに答える。
 その話にケイはハッとする。自分はその話を出立前に聴いていたが、あの時はアーサーが現れて中断されてしまい、そのままになっていたのだった。思い出したら気になってしまい、二人の話の隙間に割って入る。
「そうだ。聞くの忘れてたんだった。何なんだよ、その噂ってのは」
「鞘がある」
「それは持ち手の傷を癒す力があるんだとさ」
 先に口を開いたのは、ルーカンの隣に座るベディヴィアだった。続いてルーカンが補足する。
「鞘とは、マーリン殿のおっしゃっていた……?」
 ガウェインの言うように、ケイも思い返していた。
『剣と鞘。この二つの内、どちらが重要か』。
 会議の途中、マーリンはアーサーにそう問いかけたのだ。そして、エルフの里に行くよう導引したのもその老人である。果たして、これは単なる偶然だろうか。
 あの老人のことだ。きっと全て詳知の上だったに違いない。
 しかし、更にルーカンが驚くべきことを言った。
「同じものかどうかは判断出来ないけれどね。それから、人間が一人住んでいるらしいよ」
「人間が? エルフの里に?」
 ケイは信じられないという気持ちになる。それは、あまりにも意外な情報だ。人間嫌いのエルフの集落に人間が住むなど、正直想像がつかない。
 ルーカンは、ひとつ頷くと話を続けた、
「そう。何でもエルフと縁深い騎士が、死の間際に自分の赤子を預けたとかなんとか……そんな話もある」
「つまり、その人間はエルフに育てられたということか」
 ガウェインが感慨深く言うと、ルーカンはあくまで噂だけどね、と付け足した。ケイも言葉には出さないものの、考察する。
 エルフが人間の子供の親代わりをする。そんなことが本当にあるのだろうか。常識で考えれば有り得ないことだ。確かに、エルフの中には人間に好意的な者もいなくはない。ほんの一部ではあるが、人間社会に溶け込んでいるエルフだっている。だが、親代わりをするとなれば、話は別の筈だろう。ましてや、里で暮らすなどということは。全くもって不可解だ。
「マーリン殿がおっしゃっていた、『二つの宝』。エルフの里の鞘と、エルフに育てられた人間。果たしてこれらは全く関わりがないといえるかな」
 最後にこちらへ問いかけるようなルーカンの言葉が、脳内に浸透していく。
 剣と鞘の謎かけ。二つの宝を得よ、という予知。
 そして、今聞かされた噂。
 宝というのが、その鞘と人間の事を指しているとしたら、一見関わりがないように三つの要素が一つになる。そうすることが最も辻褄が合う。
 ならば、何故マーリンは最初からそう伝えなかったのだろうか。あのような曖昧な言い方では、どう捉えたら良いか迷ってしまう可能性があるというのに。それとも、それさえも考えあってのことというのか。
 何か、あの老人に図られているような気がしてならない。本当にこのままエルフの里へ向かって良いのだろうか。
 ケイは心の底で燻っていた疑念が高まっていくのを感じる。
 その時だった。
 四人は瞬時に緊張した面持ちなると、一斉に崖の方へ振り向いた。
 戦い慣れをしている騎士の勘か、気配の変化には敏感である。故に、周囲からピンと張りつめた空気に漂ってきたことに気付かない筈がなかった。
 それは、アーサーや他の騎士達も同様だった。
「伏せろ!」
 誰かがそう叫んだのが聞こえた、次の瞬間。
 おびただしい数の矢が空から降り注がれた。

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[ 2006/11/18 23:42 ] オリジナル小説連載 | TB(0) | CM(0)
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2006年5月16日開設

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