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Sir Kay~Brother Of King~第三章<3>




   第三章「弟の影となり」<3>



 マーリンがケイを伴って現れたことは、ガウェインと彼に連れだってきた騎士達をやや驚かせることとなった。新参者である彼らにとって、マーリンはアーサー王の後見人であると同時に稀代の魔術師という神懸かり的な印象を持つ存在である。そんな人物が先程会議から外された問題児と一緒にいる姿は、ケイがアーサーの義兄であった頃を知らない彼らには、奇妙にさえ思えるのかもしれない。
 自身に注目する視線には構わず、マーリンはゆっくりとした動作でアーサーの前に進み出た。しかし、会議の詳細などについて問いかけたりもせず、ただアーサーを見つめるばかりである。アーサーもまた、自分から何も語ろうとはしない。全てを見通すマーリンのこと、ここで話し合った事も既に承知済みだろうと思ってのことだった。
 周囲の者達は、主とその後見人が視線を交わす光景に息を呑む。
 しばし沈黙の後、マーリンの第一声が響いた。
「アーサーよ。剣と鞘。この二つの内、お前はどちらが重要だと思う」
 あまりにも予想外の、そして突拍子のない言葉に全員が首を傾げる。問われたアーサー本人も意味を計り兼ねているのか、わずかに目を見開いている。周囲が注目すると、アーサーは少々思案に沈んでから答えた。
「剣だ。剣がなくては、敵を討ち取ることは出来ない」
 その答えには、誰もが己の心中で賛同した。そもそも剣と盾ならともかく、何故剣と鞘を比べる必要があるのか。全く持って不可解でしかない。
 それとも、この問いかけには、常人では理解出来ない重要性が含まれているのだろうか。
「そうか」
 しかし、周囲の期待を余所に当のマーリンは、ただ無表情のまま頷くだけだった。
 瞑目し、再び開いてから口を開く。
「アーサーよ。エルフの里へ行くがよい」
「エルフの里……?」
 またもや前後の脈絡がない言葉に面食らう者が続出する。だが、今回はアーサーやこの老人をよく知る者達だけは、意味を理解していた。
 この老人の言わんとしていることを。『予知』を。
「さよう。そこでお前は二つの宝を手に入れることになろう」
「お待ち下さい。マーリン殿」
 二人の会話にルーカンが割って入る。彼もまた言葉の意味を理解している者の一人だ。
「それは、その二つの宝を入手しなければ、の戦には勝てない、ということですか」
「そうじゃ」
 ルーカンの疑問にマーリンは即肯定する。そして、後ろを振り返り周囲を見渡すと、宣言するかのように高らかに言った。
「このログレスに真の平和が訪れるには、アーサーとお前達、そして二つの宝の力が必要不可欠である」
 厳かな物言いに、誰もが圧倒される。だが、ケイだけは他の者とは違った考えをしていた。
 今回の戦は、エルフやドワーフなど人間以外の種族は参加していない。元々、人間の前にはほとんど現れないからだが、彼らが何事も力で解決しがちな人間を蔑んでいるという理由もあった。特に森の奥深くに住むと言われるエルフの人間嫌いは酷いと評判で、先王ユーサー・ペンドラゴンが己の私欲の為に戦を起こすという暴挙に出たことにより、その傾向は更に強まったと言われている。そんな彼らに会ってどうしようというのか。ましてや、その二つの宝とやらが、例えばエルフに古く伝わる物であるとしたら。譲ってもらえる確率は限りなく低い。そもそも何かも分からないものを追求することに、果たしてどれだけの意味があるのだろうか。意味のない、またははっきりとしないことをするのを嫌うケイにとっては、非常に理解しがたいことである。
 と、色々頭の中で思い巡らしていたが、それらを全て口にするつもりはない。先程追い出されたこともあり、言ったところでまた非難されてしまうだろうし、正直徒労に終わる気もする。何だかそれも馬鹿らしく思えた。
 すると、アーサーが立ち上がり、マーリンと同様な物言いで皆に告げる。
「わかった。貴方の言葉を信じよう。我々はこれより、エルフの里へ向かう!」
 次の瞬間、ガウェイン並びに周囲の騎士達が鬨の声を上げた。稀代の魔術師、そして主たる王の決定事項に意義を申し立てる者はいない。こうなるであろうことは、ケイも半ば予測していたことだ。
 こうしてキャメロットの騎士達は、至急エルフの里へと向かうこととなったのであった。
 目的地が未開の地である為、今回の編成人数はレオデグランス邸の時より多く、ケイやガウェインなど若い者達の他にエクター卿や老練の騎士達も同行する。
 突然の旅支度に城内は一気に騒がしくなった。剣の手入れ、食料の調達、自馬の状態確認など、やるべきことはたくさんある。更にそれらを短時間で終わらせなければならず、皆、息急き切って行動していく。
 その中でケイも厩で自馬の状態確認を行っていた。気分は全く乗らなかったが。
「ケイ!」
 遠くから呼ばれて振り向くと、ガウェインが駆け寄ってくるのが視界に入った。思わず不機嫌が表情に出そうになるのを何とか留める。
「何か用か」
 しかし声までは気が回らず、挑発的な物言いになってしまう。しまった、と思ったが、幸い向こうは気付かなかったようだった。
「いや、会議の時は、つい冷静さを欠いてしまった。後になって考えてみればお前の意見も一理あったというのに」
 真面目な表情の彼にケイは面食らう。まさか、あちらからそのように言ってくるとは思っていなかったからである。こちらから詫びようとは考えていなかったが、流石に向こうから言われると、いつまでも憮然としているのが子供じみてくる。そもそも今回の事は、自分にも非はあったのも事実だ。それにこれから先、否応にも付き合っていくのであるし、さっさと関係を修繕しておいた方が得策ともいえるだろう。そう思ったのたが……。
「まあ、俺も大人気なかったしさ」
 自分の非を認めるケイにガウェインは言った。
「ああ、俺は全く気にしていないから」
 今度は別の意味で面食らった。唖然としてしまい、言葉も出てこない。そして、先程の言葉の真意を理解して、一気に腹が立ってくる。
 この男は詫びに来たのではない。単に俺はあの程度のことでは怒らないぞ、と意思表示をしに来ただけだったのだ。やや言い方は悪いかもしれないが。
 馬鹿だ、と自分で自分を嘲笑う。この自信たっぷりな男が、簡単に己の意見を律することなどないということは分かっていたのに。
「……へえ、そう」
 空笑いを浮かべながら生返事をする。その感情の変化に気付かず、自身の思いを受け止めてもらえたと思ったであろうガウェインは、こちらとは逆に満面の笑みを向けてきた。
「エルフの里は、俺達人間にとって未開の地だ。陛下をお守りする為にもお互い全力を尽そう!」
 強く手を握り、固い握手を交わしてくる。いわゆる友情の再確認といったところだろうか。ぶんぶんと上下に振り回されるが、ケイはもう払う気にもなれず、ただ為すがままに任せた。
 それをある程度の時間続けると満足したらしい。自分も準備があるからとガウェインは手を振って去っていった。もちろん、その表情は残酷なまでに満面の笑みのままで。
 ケイも空笑いで手を振り返し、姿が見えなくなるとその手で自馬の手綱を掴んだ。
 一転して表情が鬼のような形相へと変貌する。背中が心なしか熱い。まるで炎が燃え上がっているかのようだ。
(お前が気にしてなくても、こっちは気にしているかもとか思わねぇのかよ……!)
 無意識に手綱を持つ手に力が籠もった。ギリギリと音を立ててしなるのにも気付かず、引きちぎらんばかりに伸ばす。
「そんな顔をしたら、馬が怯えるぞ」
「もう怯えているが」
 横から聞き慣れた二つの声が耳に入り、ケイは視線を自馬へと移す。確かにいくらかビクビクしたような目つきになってこちらを見ていたので、咄嗟に手綱を離した。
「っるせぇな。いちいち声かけてくんじゃねぇ」
 顔を向けずに言葉だけ返す。見なくても声だけで分かるからである。
 その声の主・ルーカン兄弟は、予測していた反応だったのか苦笑を漏らしていた。弟の方は相変わらずの無表情だったが、もちろんケイには見える筈もなく。
「まあ、そうカリカリするな。ガウェインも君だけ追い出してしまったことに負い目を感じていたんだよ」
 それはフォローなのか仲裁なのか。分からないが、到底頷ける類ではない。
「へえ、全っ然そうは見えなかったけど」
 ケイは皮肉気味に言い放つ。だが、それもルーカンには予測済みだったようで、返事はあっさりと返ってきた
「いいじゃないか。あれが彼のスタイルだと思えば」
 よくそんな風に考えられるものだ。何でも物事を客観的に捉えて、決して激昂したりはしない。常に冷静で且つ穏やか。ケイは彼のそんな性格をある種羨ましく思っていた。その分、かれこれ長い付き合いだが、未だに掴みきれていない男でもあるが。
「都合の良い割り切り方出来るな、相変わらず」
 感心半分呆れ半分で言うと、ケイは自馬を宥めつつ話題を変える。
「にしても、何で今になってエルフの里になんか行かなきゃなんねぇんだ。あのジジイ、曖昧な予知ばっかしやがって」
 会議で抱きつつも口にしなかった疑念が、気心が知れている者達の前だったせいか、ポロリと出てきた。
 幾分落ち着いたが、苛立ちはまだ消えておらず、それが声に出てしまう。そのため、なかなか馬の震えは止まらない。
「こら、失礼だぞ。反論があるなら、あの場で言えば良かっただろう」
 ルーカンが窘めてくるが、まるで子供に言っているような口調のせいか全く説得力がない。ケイは悪びれることなく、言葉を続ける。
「いいんだよ、別に。何か言ってまた周りの奴らのひんしゅくを買うのは、もうゴメンだしな」
「卑屈だ」
「何だって?」
 ケイは振り返って口を挟んできたベディヴィアを睨みつけた。普段無口なくせにいざ口を開いたかと思えば、見透かしたようにこちらの心中を言ってくる。兄弟だけあってルーカンと同じところがあるが、思ったことをありのまま口にする分、妙にかちんと来るのだ。
 腰に手を当てて睨んだままのケイと、全く表情を変えないベディヴィア。
 その二人の間にルーカンが割って入った。
「まあまあ。それに大抵の予知というのは、そういうものかもしれないよ。曖昧であれば、後でいくらでもこじつけられるしね」
「……お前の方がよっぽど失礼じゃねぇか」
 弟とは違ってやんわりとオブラートに包んだ物言いが、ルーカンの特徴のひとつだが、時折さらりと毒突いたりもする。それには流石のケイも、ベディヴィアへの苛立ちも忘れて呆れてしまう。
 尤も、それも計算してやっているのかもしれないが。
「私としては、今回の予知は結構納得のいくものではあったけれどね」
「何でだよ」
「エルフについては前々から噂を聞いていたんだ。一応アーサーにも報告はしておいたんだが」
「噂? 何だよ、それ」
 ケイは首を傾げる。それは初耳だった。しかし、噂があるということは、マーリンもあながち何の裏付けもなく進言してきたわけではないのかもしれない。情報収集はルーカンの特技であったが、あの何でもお見通しの老人が知らないわけがないのだから。
「ああ、実はエルフの里には……」
 ルーカンが噂の詳細を話そうとした、その時だった。
「話の途中、すまない」
 後ろから声がかかり、三人はハッと振り返る。
 そこには、アーサーが硬い表情で立っていた。
「陛下……」
 動揺するケイを一瞥してから、アーサーはルーカン達の方に話しかける。
「構わないか」
 細かい部分は省略されているが、何を言わんとしているのか、ルーカンは即座に理解した。
「ええ、もちろんですよ。ベディヴィア、行こう」
 慇懃に一礼をして承諾し、弟に声をかけてその場を去った。ベディヴィアも頷いて後を追う。
 後には、アーサーとケイだけが残った。一挙に気まずい空気が流れてくる。
 こうして面と向かうのはあの日以来だった。周りにも準備をしている騎士達はいるものの、どこか自分達だけ別空間にいるような気になってしまう。
 あちらから声をかけてきたというのにアーサーは、厳しい表情で黙ったままだ。沈黙に耐えきれなくなったケイは、自分から話しかけることにする。
「もう不用意な発言はいたしませんから、その話でしたらどうぞご安心下さい」
 その話というのは、もちろん会議での事だ。
 久方の会話の最初の話題にしてはどうかと思ったが、正直今はこれしか思い付かない。それに恐らく、アーサーもその為に来たのではないか。他にあちらから話しかけてくる理由もないだろう。
 すると、アーサーは表情を変えないものの、ようやく口を開いた。
「マーリンと話をしたのか」
「は? ……ええ、少しは」
 あの老人の名が出てきたことに驚いてしまい、一瞬何を言われているのか分からず、反応が遅れてしまう。
 会議を追い出された自分がマーリンと共に戻ってきたことを、アーサーも驚いていたのだろうか。あの時は特にそんな様子は見せていなかったが、他の騎士達の手前、平静を装っていたのかもしれない。しかし、何故そんなことをわざわざ聞きに来る必要があるのか。
「何を話したのだ」
 あれこれ模索していると、アーサーが更に詰問してきた。話したことを聞いてきたのだから、その内容を聞くのも確かだ。だが、先程より強めの物言いが気になってふと改めて彼を見てみる。今までの厳しい表情には、どことなく焦燥を感じられるようになっているのが分かった。
 そこで合点がいく。何故、アーサーが聞きに来たのか。その行動の意味を。
 つまり、あの日の出来事をマーリンに知られてしまったのかを心配しているのだ。とはいっても、別に心配しているのはマーリンに知られたことではないだろう。多分、自分が話したのが他の誰であってもこうして聞きに来たに違いない。
 しかし、それで来たということは、自分が話したと思っているということなのだろうか。だとしたら、随分な話だ。それでは、まるで告げ口をしたみたいではないか。考えたら、段々と腹が立ってくる。
 だから、思わずその苛立ちをそのままぶつけた。
「陛下がお気になさるような事は話しておりませんよ。尤も、あの老人は何でもお見通しのようですがね」
 言葉の後半部分に、アーサーが明らかに動揺を見せた。口元をきつく結び、眉間に皺を寄せる。その苦渋の表情に、ケイは今の自分の言葉を後悔した。どうすべきかと悩むが、その間に先にあちらから口を開いた。
「……そうか。わかった」
 短くそう言うと、アーサーは後ろを振り返り、そのまま去っていく。
 呼び止めようとしたが、寸でのところで止めた。そんな資格ももう自分にはないからと思ったからだ。
 自分が告げ口をしたのかと思われたと感じて、ついきつく口走ってしまったが、あの日の事を一番悔やんでいるのはアーサー自身の筈である。そして、それを他の者に知られたくないと思うのは、当然の心理だ。特に純粋で挫折を知らなかったアーサーなら、なおさらにそう思うのではないか。
 あの日の出来事が過ちであるのは、決して変わらない。自分もその事については責める気持ちを今も持っている。だが、わざと傷を抉るような真似はするべきではなかった。苛立ちに任せてそんな気遣いも出来なかった自分が酷く恥ずかしく思えてくる。今更、そう思ったところで後の祭りだが。
 去っていくアーサーの姿が遠くなる。自分はそれを、最早見ていることしか出来ない。悩み抜いて選んだ道の結果である筈なのに、何故か寂寥を感じてしまうのは、自分の中途半端さゆえであろうか。
 自問自答しても、答えは得られなかった。

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[ 2006/11/11 23:34 ] オリジナル小説連載 | TB(0) | CM(0)
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2006年5月16日開設

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