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Sir Kay~Brother Of King~第三章<1>




   第三章「弟の影となり」<1>



 光を導くは闇の調べ。
 闇は光の影となると決意する。



 アーサーとグィネヴィアの婚約。そして、かつての宿敵ロット卿の息子・ガウェインがアーサーに仕えるようになって、数ヶ月が過ぎようとしていた。
 戦の連戦連勝も加わり、吉報が続くキャメロットは、喜びに満たされ続けている。同時に士気も最高潮だ。
 これには、ガウェインの存在が大きな影響を及ぼしていた。ガウェインは、豪胆で律儀、人情に篤い性格の彼は、当然の如く、多くの騎士達から信頼を会得している。日が浅いにも関わらず、会議においても戦においても先陣を切り、後ろにいる騎士達を鼓舞していく。そんな彼の姿に誰もが心酔していった。
 ケイにとって色々な意味で苦手な男だが、今やガウィンはキャメロットになくてはならない騎士となっていた。
 しかし、彼の存在が必ずしも良い影響だけを与えてくれる訳ではないのも事実である。
「私は反対だ!」
 ダン、と机を強く叩く音とガウェインの怒声が室内中に響く。立ち上がった勢いで椅子が転がる。原因は、向かい側の席で先に起立していたルーカンにあった。
 現在、キャメロットの騎士達は、会議室にて次なる戦の作戦を話し合っている。ここまで戦勝を繰り返してきたが、今回の会議はより慎重に行われていた。
 恐らく、次が最後の戦になる。これに勝てば侵略者達との争いに完全な決着がつくだろう。だから、ほんの少しでも支障を残してはいけない。
 尤も、今回の会議が難航しているのには、他にも理由があったのだが。
「背後からの奇襲など、騎士のすることではない!」
「しかし、ガウェイン卿。あの砦は数多の罠が存在し、難攻不落と言われている。真正面から立ち向かっても現時点で勝機は少ない」
 激昂するガウェインにルーカンは落ち着いて説き伏せていく。
 会議を長引かせていたのは、前回の戦で侵略者達が逃げ込んだ場所の事である。彼らが逃げ込んだのは、谷の間に挟まれた古い砦。四百年程前、一人の職人ドワーフが設計したと言われている曰く付きの建造物だ。その周囲と内部には数多の罠が仕掛けられており、今尚難攻不落として名を馳せている。十五年前の先王ユーサーとゴルロイス卿との争いの際、人間同士のいざこざに嫌気が差した職人ドワーフが罠を何らかの方法で全停止させ、しばらく沈黙していたが、侵略者達が逃げ込んだことにより、眠っていた装置が目覚めてしまったのだ。
 これには参った。何せ、あの砦の事は幼少より聞かされており、恐ろしさは逃げ込んだ本人達以上に理解している。下手に挑めば返り討ちに合う可能性は非常に高い。最後の戦いにきて、じっくりとより緻密な作戦を立てる必要が為された。
 そこでルーカンが発案したのが、背後から奇襲をかけるという作戦。ただでさえ、こちらにリスクが大きい戦いだ。これまでのように真正面から立ち向かえば更に勝率は下がるだろう。ならば、少しでもこちらの被害を抑える為にも余計な戦いは避けられた方が、効率が良い。
 しかし、このログレスでは、簡単にこの意見が通らない方が常識であった。
「勝機は少なくとも、正義は我らにある。エクスカリバーに選ばれた勇者・アーサー王の加護を持つ我らが負ける筈がない!」
 一斉に賛同の声が上がる。思っていた通りの光景だ、とルーカンの隣に座っているケイは思った。机に頬杖をついてぼんやりと見つめる。
 ログレスは騎士が栄える国。騎士道を重んじ、公明正大さを心掛ける彼らにとって背後からの奇襲は正に卑怯千万の何ものでもない。非難が殺到するのは当然ともいえた。
 そう予測はしていたものの、発案者のルーカンも流石に弱っているように見える。
 ケイはひとつ大きく溜息を吐くと、やや声を張り上げて言った。
「じゃあ、お前の考えを聞かせてくれよ」
「何?」
 眉を寄せたガウェインが、こちらに視線を向けたのを確認してから、席を立つ。
 次の瞬間、徐々に熱狂していた周囲の声が静まっていく。
「さっきから、一番威勢がいいんだ。当然、ある程度のことは考えてくれているんだろうな」
 ガウェインは、困惑したように一回言葉を詰まらせると、答えた。
「だから、皆が一丸となって立ち向かえば……」
「必ず勝てるって? その保証は?」
 詰問を連続で聞かれ、ガウェインはもう答えることは出来ない。その様子に今度は小さく溜息を吐いた。
「ガウェイン。お前の言葉にはさ、現実味がないんだよ。負ける筈がないとか一丸となって、とか。ガキのケンカ理論じゃあるまいし」
「俺の頭は子供なみだと言いたいのか!」
 激昂するガウェインとは裏腹にケイは飄々と返す。
「別に、そこまで言ってないけど」
「よせ、ケイ」
 わざと神経を逆撫でするような物言いをルーカンが小声で制してくるが、無視して更に続けた。
「これは戦なんだぞ。勝たなきゃ意味がないんだ。闇雲にぶつかっていって、万が一負けたとしたら、どう責任を取る?」
「ケイ卿!」
 突然、ガウェインが再度机を強く叩いた。これには流石にケイも驚く。
 ガウェインは握り拳を振りかざし、叫んだ。
「最初から負けることを考えていては、勝てる戦いも勝てなくなる! 騎士道の名の下、陛下と共にあれば怖れることなどない! その想いこそが、我らの最大の力となる筈だ!」
 先程以上に熱く語る姿に、ケイは呆れるしかなかった。納得のいく説明をしろと言っているのに何故より一層の感情論をぶつけてくるのだろう。この男の考えていることは、全く自分には理解出来ない。
「あのさ……だからそういうことを言っているんじゃなくて」
 頭を抱えつつ、ケイはもう一度同じ事を言い直そうとする。
 しかし、その言葉は即座に遮られてしまった。
 次々と立ち上がってきた騎士達によって。
「ガウェイン卿の言う通りだ!」
「そのように臆病風を吹かせてどうする!」
 立ち上がっていない他の騎士達もそうだそうだ、と便乗するかのように声を張り上げてくる。その光景にケイはもう開いた口が塞がらない。
 果たして彼らには現状が見えているのだろうか。そもそもこの会議を何の為にやっているのか分かっているのかさえ、疑問に思えてきてしまう。これでは、本当に幼稚な子供と一緒だ。
 尤も、周囲からしてみればこちらの方がおかしいのであろうけど。
 とにかく、反論するのも馬鹿らしいので、場が静まるまで聞き流すことにしたのだったが……。
「仮にも陛下の兄君たる貴殿が及び腰では、下の者はついて行かぬぞ!」
 『陛下の兄君』。
 その一言が耳に飛び込んできたことで、ケイの心に一気に火が点いた。
 普段なら、それも軽く受け流していたことだろう。
 だが、今のケイにとってその言葉は禁句だった。
 あの日以降のケイにとって。
「……石頭野郎共が」
 ぼそりとつぶやいたつもりだったが、室内には思いの外大きく響いた。これまで沈黙を通してきた者までざわり、と騒ぎ出す。
「だったら、今すぐ飛び込んでって野垂れ死んでこいよ! それが騎士道の名の下にっていうんなら、さぞかし本望だろうが!」
「ケイ……!」
 睨みつけて罵声を浴びせるケイを、ルーカンが肩を掴んで止める。しかし、時既に遅く、周囲からは怒りの声が上がってしまう。ガウェインなどは、こちらに飛びかかってきそうな勢いだ。
 ルーカンが慌てて宥めようとしても収まりがつかない。当のケイがじっと睨んだままなのが余計に周囲を憤られる。
 あまりに大騒ぎになってしまい、収拾がつかなくなりそうになった、その時。
「静まれ!」
 凛とした声に、室内が水を打ったように静まり返った。
 皆で一斉に振り返ると、アーサーが厳しい表情をして立っているではないか。
 アーサーは、ゆっくりとこちらを見回してから話し出した。
「どちらの意見も一理ある。何より、この選択にはログレスの未来がかかっているのだ。それを味方同士で争い合って何とする!」
 冷静なその言葉が心に浸透していったようで、周囲の者の表情が沈み込んだものへと変化していく。ケイも流石に閥が悪い気がしてきた。論争をややこしくしたのは自分の罵声が原因ともいえたのだから。
 アーサーは更に指示を出した。
「この件は、厳密に事を行わなければならぬことであり、簡単に答えを出せるものではない。各々、今一度よく考えてみてくれ。それと……ケイ卿」
 自分だけ名指しで呼ばれたことにケイは驚く。何故呼ばれたのかが分からなかったからではない。彼の口から自分の名が出たのが、実に久々であったからである。
 間を置いてから返答すると、アーサーが淡々と告げてきた。
「貴殿は少し席を外してもらおう」
 何を言われたのか理解するのに少々時間がかかった。だが、一度理解してしまえば、その意味に気付くのは、ものすごく早い。
 皆が冷静に話し合いをするには、お前は邪魔だ。つまり、そういうことであろう。
「……分かりました」
 低い声で投げやりに応えて扉へと歩き出す。その間誰とも視線を合わせない。ルーカンやベディヴィアも無視した。
 しかし、扉の外に半分、身を乗り出したところで振り返り、最後に爆弾を落としていった。
「精々、騎士道精神に乗っ取った、実のある話し合いをなさって下さいよ。私抜きでね」
 大きい音を反響させて、ケイは扉の外へと消える。その直後、怒りの声が室内から溢れたのが聞こえたが、もう振り返らなかった。
 つい、口車に乗って激情をそのままさらけ出してしまったことには、確かに自分にも非はある。だが、全てがそうなのか。全て自分一人が悪いというのか。
 何もかもが馬鹿馬鹿しい。あそこで話していたことさえ、無意味に感じてくる。あの日から持続し続ける苛立ちも含まれて非常に気分が悪かった。
 すると、少しして再び扉が開く音がした。また誰かが出てきたようだ。
 確認をするつもりはなかったが、必要もなかった。誰なのかは、粗方予測がついている。
「ケイ!」
 名を呼ばれ、振り返ってみれば思った通り、ルーカンが駆け寄ってきた。後ろには例の如くベディヴィアが付いてきている。
「……何だよ。説教でもしに来た訳か」
 苛立ちをそのまま声に乗せる。
 自分を心配して追ってきたのだろう。表情からも見て取れる。ベディヴィアは相変わらずの無表情だが。しかし。
「違う」
 ベディヴィアが速攻で否定してきたので不思議に思っていると、ルーカンが続けた。
「最近苛々しているから、どうしたんだろうと思っただけさ」
 今の自分の心情を暴かれたのかと思って一瞬ドキリとするが、何とか表情には出さなず、平静を装う。
「気のせいだろ」
「果たしてそうかな。先程の会議でも随分刺々しかった。普段はともかく、ああいう公の場では自粛していただろう。それなのにここ数ヶ月、どうも様子がおかしい。君も……アーサーも」
 アーサーの名が出たことにケイは目を見開く。ルーカンもそんなこちらの態度に気付いたのか、更に深く追及してくる。
「そして、君達がおかしくなった時期は重なる。……何かあったんじゃないのかい、君達の間に」
 そこまで見抜かれてしまっていれば、もう誤魔化すことは出来ないだろう。そんなにあからさまだったかと思う反面、先程の言動を考えれば推測出来ないことではないとも思った。特に自分をよく知っている二人なら。
 しかし、だからといって真実を伝えるわけにはいかない。口に出すことなど出来ないのだ、あの事だけは。
「……何もねぇよ」
 視線を逸らしてぽつりと答える。だが、流石にルーカンもそれでは納得しなかった。
「本当かい? とてもそうとは思えない……」
「っるせぇな! 放っとけよ! 大体、人のことジロジロ覗き見やがって、お前は俺の監視役か!」
 とことん問いただしてくる彼の態度と、ここ数ヶ月の間、心に燻っている苛立ちがぶつかり、衝動のまま怒鳴りつける。その勢いのまま、ルーカンの胸ぐらを掴みかかるが、その手はすぐに離されてしまう。ベディヴィアに腕を持ち上げられてしまったからだ。
「……! 離せ、馬鹿力!」
 暴れるケイだが、体格差を考えれば振り解けるわけもない。普段ならすぐ分かるようなものだが、そんなことにさえ頭が回らないほど今は冷静さを欠いていた。
「ベディヴィア」
 乱れた襟元を整えながら、ルーカンが静かに名を呼ぶと、ベディヴィアは何も言わずにケイの腕を離した。掴まれていた部分がジンジンと痛んだ。
「悪かったよ。少し強引過ぎた」
 くっきりと跡が残る腕をさすりながら、ケイは詫びるルーカンに視線を移す。口では詫びてはいるものの、表情は平静としており、全く噛み合っていない。上辺だけの言葉だということが見て取れた。
 その証拠に今度はまるで真逆なことを言い出してくる。
「だが、どちらにしても先程のような態度は取らない方がいい」
 ケイは眉間に皺を寄せる。詫びたと思ったら、次は注意か。注意されたことも、その注意の内容も気に入らず、鼻で笑って反論した。
「黙ってヘーコラしてろっていうのかよ」
「ケンカ腰になるなという意味だよ。あのような言い方をされれば、大抵の人間は怒る。特にガウェインのような性根が真っ直ぐな人間は、言葉をそのまま受け止めてしまう。そんなことで孤立するのは馬鹿らしいと思わないのかい」
 もっともな言い分だった。正直、ぐうの音も出ない。
 確かに私事の際ならまだしも会議中にとるべき態度ではなかったのは事実である。そう頭では分かっているのだが、今の自分にはそれを素直に受け止めることが出来ない。
「俺は、間違ったことは言ってねぇよ。あいつらの頭が固すぎるのが悪いんだ」
「仕方ないだろう。ログレスは現実論より理想論を重んじることが多いからな。むしろ、私達の方が異端なのさ」
 いくら反論してもあっさり崩されてしまう。こういう時、彼の冷静さが妙に気に障る。
 考えてももう何も浮かんでこず、しかしせめてもの抵抗で背を向けた。
「そんなことは分かっているけど、何か……納得いかねぇ」
 ようやく絞り出したものは、そんな言葉でしかなかった。それでも背を向けることで意思表示をし続ける。
 しばらくすると、トーンの低くなったルーカンの声が耳に入ってきた。
「ケイ……。君の恥は、エクター卿の恥に繋がるんだぞ」
 バッと勢いよく振り返る。父の名が出たことは、ケイにとって大きな事だった。意地も何も一気に消え果ててしまう。
「君が出て行ってすぐに雰囲気を壊してしまったことを深く詫びておられたんだ。アーサーがいくら止めても」
 知らされた事実にケイの目がより大きく見開いた。
 まさか自分の不誠実な態度で、父がそんなことになっていたとは。少し考えれば予測できそうな事態であったのに。意地が消えた代わりに今度は罪悪感が押し寄せてくる。
「何があったか知らないが、君個人の問題で身近な人間が被害を被るような言動は差し支えるべきではないか」
 先程とは打って変わってルーカンの言葉が身に染みて入ってきた。他の人間ならともかく、父に迷惑がかかってしまったのだ。ただでさえ、普段の素行から不孝ばかりしているというのにこれ以上寿命を縮ませるようなことをしてどうするのか。
 自分で自分を叱咤し、落ち着きを取り戻していく。しかし、次のルーカンの言葉でそれは徒労で終わった。
「アーサーも考えがあっての指示だったのだろうから、あまり怒るな」
 気分が瞬時に逆回転する。記憶の扉が、強風が吹いたかのように威勢良く開き、あの日の出来事が甦ってきた。
 妖艶に微笑む、二人の魔女姉妹。
 そして、アーサーの……弟の自分に縋りつく姿と、拒絶の表情を。
「……!」
 嫌な気持ちを振り払うかのように壁を思い切り叩きつける。ダン、と強い音が辺りに響いた。
 自分の突然の行動にルーカン達も驚いている。しかし、もちろんそんなことに気など回るわけもなかった。
「分かった風な口聞きやがって。言われなくてももうあんな真似しねぇよ。あんなんで責められるなんてこっちの方からゴメンだ!」
「ケイ……!」
 苛立ちをぶつけてケイはその場を去る。ルーカンが呼び止めるが、もう振り返らない。
 逃げ出したかったのは、彼らからか、あの日の記憶からか。
 それとも、扉の向こうにある現実からか。
 その、全てからだった。

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[ 2006/10/28 23:26 ] オリジナル小説連載 | TB(0) | CM(0)
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2006年5月16日開設

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