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Sir Kay~Brother Of King~・短編

※こちらは「Sir Kay~Brother Of King~」の短編、ケイの亡き母との思い出と、アーサーが王になって間もない頃の心情のようなお話です。



今は聞こえない歌声


『ケイ。歌は全ての者達の掛け橋なのよ』
 微かな記憶の中に優しい母のその言葉が、今も強く残っている。



 剣術。弓。馬術。更に勉学と、どれをとっても弟に勝ったことのないケイだったが、たったひとつだけ自慢出来るものがある。
 それは、歌だ。
 ケイは、その捻くれた性格に似合わず、母・エリスから受け継いだ、とても清涼な歌声を持っている。歌も母から直々に教わった。幼少の頃に亡くなってしまい、思い出はあまりないが、学んだ歌だけは今でも鮮明に記憶に残っている。
 しかし、歌が上手くてもケイの評判が良くなることはなかった。尤も、これは周囲が彼を認めなかったわけではなく、本人が特定の人間以外の前では歌おうとしなかったのが原因である。騎士の子が、歌が上手くても何の意味もないと思われるのが嫌だったから、というのが主な理由だ。
 ケイが専ら歌うのは、父・エクターや幼馴染みのルーカンとベディヴィア兄弟。そして、義理の弟のアーサーの前でだけだった。
 父の前では、亡き母との共通の思い出として、また唯一自慢出来ることで褒められたいという想いから、自ら積極的に歌っていた。
 幼馴染み兄弟の前では、恥ずかしい気持ちはあるが、茶化したりしないという信頼感を持っていたので、歌うことに抵抗はなかった。
 しかし、弟の前では、全く異なる理由で歌っていた。
 弟に対して歌うのは、大抵が子守歌だった。元々は、夜になると暗闇を恐れるアーサーの為に母が枕元で歌っていたものであり、母が亡くなった後、その役目は自然と歌を学んでいたケイのものとなった。
 ケイにとってその役目は、嫌でたまらないものでしかなかった。何せ、弟から毎晩歌をせがまれるのだ。しかも歌う際、手を繋ぐことまで求めてくる。これが厄介だった。眠ったと思い、自室に戻ろうと手を放そうとしたら、予想以上に強い力で掴まれていて抜け出すことが出来ず、結局そのまま一夜を明かしてしまったのも一度や二度ではない。その度に文句を言いたくなるが、如何せん本人に意識がないことなので、言ったところで無駄骨になるだけだった。正直うんざりしていたが、それでもせがまれたら嫌とはいえなかったのは、歌が好きだった故か。あるいは、意外に自分もお人好しだったのか。
 だが、これらも全て子供の頃までの話だ。
 成長し、アーサーも暗闇を恐れて子守歌をせがまなくなってから、ケイは歌う回数が徐々に減っていった。何故かは分からない。ただ、何となくそうなってしまったのだ。
 更に騎士となってからは、そのために割く時間もなくなり、最近はもう記憶の中に母から学んだ曲と歌詞が時折浮かび上がるのみである。
 歌は、ケイの唯一の趣味でもあったのだ。それを時間がなくなったとはいえ、全く歌わなくなるとは自分でも不思議である。時間など割こうと思えばいくらでも割ける筈。それが好きな事をするためならなおさらだ。
 悩み抜いた末、ある答えに行き着いた。
 アーサーに子守歌を歌わなくなった頃からだったか。自分は歌おうとすると、脳裏にひとつの疑問が浮かぶようになっていた。
 自分は何の為に歌う、と。
 そう考えた時、すぐに『好きだから』という答えが出てこなかったのだ。
 好きだから歌っているのではないとしたら、自分は何の為に歌うのだろうか。
 自分の歌は、何の為にあるのだろうか。
『ケイ。歌は全ての者達の掛け橋なのよ』
 幼い頃の母との記憶が甦ってくる。
 母は、優しく自分に微笑みかけながら語り続けた。
『種族も言葉も思想も、全て越えて生きているものを繋ぎ合わせてくれる』
 喋る母の声と、歌う母の声が重なり合う。
『いつか、あなたの歌も誰かの掛け橋になる日がきっと来るわ』
 自分の頭を優しく撫でてくれる手の温もりまで鮮明に思い出せる。
 母との数少ない思い出のひとつ。こうして思い返すだけで、まだ小さかったあの頃と同じように心が温かさに満たされていく。
 だが、あの頃と同じように母の言葉に頷くことだけは出来なかった。
 皮肉にも母が歌の素晴らしさを教えてくれたこの記憶が、今の自分は歌う意味を失ってしまったことに気付かされてしまったからである。



 バルコニーの手摺りにもたれかかりながら、ぼんやりと外の景色を見ていると、こちらに近付いてくる気配を感じた。
「ケイ。そろそろ時間になる」
 振り返れば、思った通り、ルーカンがベディヴィアと立っている。
「……ああ、わかった」
 了承して頷くも、ケイは渋い表情をしたまま動かない。
 それにルーカンは首を傾げる。
「どうしたんだい? 浮かない顔だ」
「別に、何もねぇよ」
 今度は背を手摺りにもたれかけさせて怠そうに答える。もちろん、そんな言い方ではルーカンが納得する筈もない。
「果たしてそうかな。あの日からずっとそんな仏頂面をしてばかりだ」
 あの日、というのがいつなのかすぐに察知して、ケイは小さく舌打ちをした。
 アーサーがエクスカリバーを抜き、マーリンによって先王ユーサー・ペンドラゴンの遺子であることを知らされてから、ひと月。次代の王として、代々のログレス王達が居城としていたキャメロットに移住してから半月。
 新しい王の誕生は、十五年前にユーサー王が逝去して以降、他国からの侵略、内乱など暗い出来事ばかりが続いていたログレスに希望の光を差し込んでいっている。
 しかし、それとは反比例してケイの気分は非常に優れなくなっていた。
 父の意向とはいえ、弟だった者に仕える。そのことが、思った以上にストレスを感じさせていたのだ。
「悪かったな。元からこういう顔なんだよ、俺は」
「知っている」
「るっせぇな!」
 半ば自虐的に言った言葉にルーカンの背後に立っていたベディヴィアが、即座に頷く。その姿に自分から言ったことだが、無性に腹が立った。
 怒鳴りつけ、今にも食って掛からんとする勢いのケイをルーカンが二人の間に入って止める。
「まあまあ。気分が上がらないのだったら、久々に歌ってみたらどうだい」
 突然の提案にケイは、心の内を見透かされたのかと一瞬息が詰まる思いがした。ちらりと横目で窺えば、ルーカンはいつもの口元に笑みを浮かべているのが見えたので勘違いだと分かり、安堵する。気を取り直して元の不機嫌な表情に戻った。
「そんな気にならねぇよ」
「ならないから歌うんだよ。一曲ぐらいの余裕ならまだあるから……」
「意味のないことはしたくない」
 遮るようにケイが切り捨てる。その拒絶を本気と感じたのか、ルーカンは少し間を置いてから改めて口を開いた。
「……そうか。なら、無理には言わないよ」
 先に行っている、と言い残してルーカンはベディヴィアと共に出て行く。その後ろ姿を見送ると、ケイは再び外の景色に視線を戻した。
 こうしていると子供の頃、邸のバルコニーで景色を眺めながら歌ったことが思い出されていく。
 あの頃は良かった。何も考えず、理由など求めず、ただ歌えればそれで満足していたのだから。
『兄上の歌声は、とても心地良い。僕をいつも癒してくれます』
 心から嬉しそうに笑いなが、そうアーサーが言ったのは、いつの頃だっただろうか。随分昔の筈だが、つい最近にも思えてくる。自分がかける言葉といったら、常に悪態ばかりだったが、弟はそれでも笑顔を崩さなかった。
 兄弟だった頃、日常的にあった出来事。
 もう、そんな日々が訪れることはない。あの日から自分達の関係は変わってしまったのだから。
 歌は、全ての者の掛け橋になってくれる。母はそう言った。
 けれど、自分とアーサーを繋いでくれることはない。
 歌う意味。それを自分は疾うに失ってしまった。
 だから、そんな自分の歌が掛け橋になることはないのだ、と。
 大きく息を吐いて振り返った瞬間、ふと脳裏に母の姿が思い浮かんだ。薄膜が張られたようにぼんやりとした姿でしかないが、記憶の中の母は歌を歌っている。
 しかし、何故か歌声は聞こえてこない。歌っているのは分かるのに、その歌声を思い出すことが出来ないのだ。
 遠い昔の記憶だから、忘れてしまったのか。
 それとも……自分の歌う理由を失ったことで、母の歌声さえも失ってしまったのだろうか。
 頭を強く振って、記憶の残像を掻き消す。どちらであろうと他の要因であろうと何でもいい。どのみち、歌など今後の自分には必要のないものだ。
 自分の成すべき事は、父の望み通り、騎士としてアーサー王に仕え助力することなのだから。
 足を動かし、王の間へ急ぐ。表情を引き締める。余計なことを考えないように。
 一瞬、全ての音が聞こえなくなったと感じたのは錯覚だろう。



あとがき:
「ケイは歌が上手い」という独自設定がありますので、それをテーマにしました。三章で多少重要なポイントになると思われます。

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[ 2006/10/21 23:25 ] オリジナル小説短編 | TB(0) | CM(0)
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2006年5月16日開設

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