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Sir Kay~Brother Of King~第二章<6>




   第二章「変わりゆくもの」<6>



 むかしむかし。
 ある小さな村に住むごく普通の夫婦に、一人の女の子が生まれた。
 女の子は優しい両親の元、すくすくと育っていった。
 少女と呼べるほどに成長した頃、平和な村にある事件が起こった。
 その年は異常気象ともいえるほどの大雨が続き、近くの川が氾濫したのだ。
 村人達は丘の上へ非難したが、村が壊滅するのは明らかだった。しかし、大事なのは村ではなく、人の命の方。皆無事に避難出来たのだから、それで満足だった。
 その時、一人の女が「娘がいない」と嘆きだした。少女の母親だった。
 母親の言葉に、皆は一斉に辺りを見回す。そして、見つけた。まだ村の中にいる少女の姿を。
 少女の両親は、娘を助けにいこうとしたが他の村人達に押さえつけられた。もう遅い。今行けばお前達も氾濫した川に呑み込まれてしまう。娘は諦めるしかない。そう言うしかなかった。
 どどど、と地響きのような音が段々と近付いてくるのが聞こえる。ついにきたのだ。
 村人達は暴れる両親を押さえつけながら、少女から目を逸らした。これから川に呑み込まれてしまう小さな姿を見ていたくはなかったから。互いに寄り添いあいながら、じっとその時を待った。
 だが、いくら待っても川がこちらまで流れてこない。それどころか音が一定のところで止まっていることに気付く。村人達は、恐る恐る村の方へ視線を戻した。
 その時見た光景は、正に奇跡の瞬間だった。
 氾濫した川の水は、少女の目前で動きを止めていた。否、止まっているのではない。少女が両手をかざして堰き止めているのだ。
 少女から流れ出てくる、常識では計り知れない『力』によって。
 その力で少女は、膨張している川の水を村の外へと退けたのだ。
 水は周囲だけを覆い尽くし、村は無傷だった。
 村人達は歓喜した。「この子は神の子だ」と口々に讃えた。
 この出来事以来、少女は村人達から村の守り神として崇められるようになった。
 美味しいものを食べたいといえば、村長以上の豪勢な食事を用意され、綺麗な服を着たいといえば、遠くの街から仕立屋を呼び寄せてもらえる。
 どんな願い事でも叶えてもらえた。
 少女は、最初それがとても嬉しかった。素直に感謝をしていた。
 しかし、人間というのはどんなことでもやがて慣れていくもの。次第にそれを当然だと思うようになり、少しでも自分が考えていたものと違えば、その村人を処罰するようになった。それは、両親でさえも同じだった。
 村人の表情は、だんだんと歓喜から恐怖へと変わっていった。
 少女から女へと成長した頃には、自分に向けられるそんな瞳に快楽を覚えるようになっており、不満を見つけては何人もの村人を残酷な形で傷つけて喜んでいた。
 その姿に陰でこう言われるようになっていった。
「あれは神の子でなどはない。魔女だ」
 魔女と呼ばれるようになった女の横暴に耐えられなくなった村人達は、ついに反旗を翻すことを決意した。
 全員が武器を持ち、魔女の住む屋敷を取り囲んだのだ。
 しかし、魔女の力はすさまじかった。放たれた炎によって、村人達は一瞬になり、村は一晩で消滅した。
 支配していた村を失った魔女はその後各地を放浪していたが、あまりにも退屈なので世界でも支配してしまおうかと軽い気持ちで考えた。
 いくつもの村や街をその力で襲い、我が物にしていき、ついにはある国の王を殺して城を奪った。
 魔女の恐ろしい力の前には、誰も逆らえない。このまま世界は恐怖と絶望に満ちていくしかない、と諦めるしかなかった。
 その時、一人の若者が魔女討伐を名乗り出た。
 若者は、蔑まれながら生きてきた孤児であった。ゆえに、誰も若者が魔女を倒すことなど期待していなかったが、止めることもしなかった。
 馬鹿な孤児が死に急いだ、と。それぐらいにしか思っていなかったのだ。
 若者は、それを承知の上で魔女の城へと向かった。
 たった一人でやって来た若者を、魔女は笑った。しかし、それと同時に面白くもあった。あの日から周りには、自分を敬う者か恐怖する者しかいなかった。目の前の若者のように強い眼差しを向けられるのは初めてだったのだ。
 戦いが始まった。若者が剣を構えて突進すれば、魔女は力で空中へ舞い上がる。魔女が力で弾き飛ばそうとすると、若者は盾でそれを防ぐ。
 平行線を辿る戦いは、三日三晩続いたところで変化を見せた。若者を守っていた盾が度重なる魔女の攻撃によって、ついに破壊されてしまったのだ。
 戦いに飽きてきていた魔女は、そろそろ終わりにしようと力を高めて衝撃波を放った。
 しかし、それで勝負はつかなかった。
 若者は盾を投げ捨てると、素手で衝撃波を受け止めたのだ。普通の人間には有り得ないことである。
 驚いた魔女は一瞬行動が遅れた。若者は、その隙を逃さず、左手で衝撃波をかき消し、右手で剣を構えた。
 そして、魔女目掛けて突進し、鋭い刃で貫いた。
 魔女は血を流し、倒れた。他の人間と変わらない赤い血だった。
 若者は魔女に近付き、見下ろした。
「勝利を収めた勇者様。魔女を殺した感想はいかがかしら」
 魔女は若者を見上げ、戯れ言のように言った。
 若者は答えた。
「魔女よ。私は勇者などではない。貴女と同じ異質な者だ」
 その言葉に魔女は驚かなかった。衝撃波を素手で受け止めたことからも若者が普通の人間ではないことは明らかだったからだ。
 魔女が自分と同じ者に出会ったのはこれが初めてだ。だから、尋ねた。
「私と同じ人。どうして貴方はその力を他人のために使うの? 私達は他の者より優れているのに」
「魔女よ。では、私も聞こう。貴女は何故その力を己のためだけに使ったのか。何故、救うより傷つけることを選んだのか」
「私と同じ人。理由などありはしないわ。あるのはただ、それを選んだということだけ」
「魔女よ。それならば私も同じだ。私もそれを選んだだけだ」
 若者の言葉には一寸の迷いも感じられなかった。
 この語らいの中で、魔女はひとつの事実を知った。
「私と同じ人。いいえ、貴方は同じで異なる者なのね」
 それが魔女の最期の言葉だった。
 その死に顔は、己の人生に全くの後悔のない、満足したものだったと、若者は後世に言い残したという。
 魔女を倒し帰還した若者を、人々は皆賞賛し、口々に『勇者』と讃えた。
 しかし、若者はこれを否定した。
「私は勇者などではない。皆を苦しめ続けた魔女と同じ異質な者である。彼女が『魔女』と呼ばれていたなら、私も『魔女』と呼ばれるべきだろう」
 驚く人々に若者は続けた。
「私や彼女のような者は、恐らくこれからも生まれることだろう。だが、我々は決して生まれた時から他者を傷つけることを求めているのではない。皆が確かな愛をもって接すれば、魔女も同じ愛を返すことを求める筈だ。彼らを愛することを忘れないで欲しい」
 若者は、その後の人生を次の世代に生まれる魔女達のために捧げた。その功績によって、この『二人の魔女』の物語は、今なお世界中に受け継がれている……。



 ケイは湖の上に浮かぶ女を睨みつけたまま、子供の頃から聞かされていた伝承を思い出していた。
 人の身で人を超えた存在、『魔女』。空想でしか知らなかった者が今目の前にいるのだ。現時点ではあくまでも推測だが。
 最初の魔女である『二人の魔女』がこの世を去ってから現在まで、若者が予見した通り、幾人もの魔女が生まれたという。実際は歴史的に知られている数の倍以上はいるとも言われているが、ほとんどは異質であることを周囲に悟られないためにその力を隠したままでいるらしく、正確なところはわからないのだ。現に常人以上の力を持つ者を『魔女』と呼ぶというのなら、アーサーやマーリンもそうとなる。しかし、どちらも『魔女』と呼ばれたことはない。二人は、それとは異なる何かであると自然と感じ取らせているのかもしれない。ちなみにこの世界では、若者の残した言葉から、男も女も一括りにして『魔女』と呼ぶのは常識である。
 女が魔女であると仮定して、次に考えなければならないのは、『良き魔女』か『悪しき魔女』かである。『良き魔女』とは、伝承での若者のような魔女のことであり、『悪しき魔女』とは、彼と戦った女のような、力を他者にぶつける者のことである。長い歴史の中、『良い魔女』も『悪い魔女』も同等に存在してきたらしい。それでは、この女はどちらであろうか。正直見た限りでは、『良い魔女』とは思えない。そもそも、本当に魔女かどうかも確定はしていないのだが。
 女はこちらの質問に答えず、無邪気に微笑んだままだ。聞こえなかったわけではない筈であるのに、行動で示したのだから答える気がないのだろうか。それともやはりからかっているのか。腹立たしいことだが、ケイは、もう一度同じ質問をすることにする。
「あんたは……魔女なんだろう……?」
「そうよ」
 今までが嘘のように、女はあっさりと答えた。浮遊したまま湖から地面へと移動する。隣に降り立った女をケイは黙って見つめた。
 確信はしていたものの、本人の口から聞くと緊張が更に高まるのがわかった。握り締めた拳から汗が滲み出ていく。
 しかし、何故この魔女は自分の元に現れたのだろうか。それが疑問だ。魔女が興味を持つようなものなど自分にはないのに。目的がわからなければ、どう対処すべきか迷ってしまう。しかも相手は魔女。普通の人間とは思考も違うだろう。更に美人であるから疑いも高まる。これは美人嫌いという個人的な意見からだが。
 とにかく今は冷静な対応が最善策である。
「申し遅れた。俺は」
「ケイでしょ。騎士ケイ」
 名を名乗ろうとして、先に女の口から自分の名が出たことに驚いたが、すぐに納得した。元々自分に会いに来たのなら、名を知っていても不思議ではないだろう。だが、丁度良く質問が出来たので素直に使わせてもらうことにする。
「何で、俺の名前を……」
「知っているわ。アーサー王の義理のお兄様だもの。有名よ、貴方」
 名を知っていた理由を聞いて、ケイは少々気分が下がった。
 有名よ、という言い方が妙に皮肉めいているように聞こえたのは、こちらの被害妄想だろうか。どちらにしても、有名な理由が自分にとって良いものでないのは確かだろう。たとえ戦いの中で努力していても過去の失敗は消えないのだから。
「……その有名な俺に何か用なのか」
「嫌ね、そんな怖い顔しないで。ただ会ってみたかっただけよ」
 途端に口調が低くなったケイに、女は口元に手を当てて笑った。その仕草が馬鹿にされているようで腹立たしい。
「噂通りの男かどうか確かめたかったのかよ」
 答えはわかったつもりで投げやりに聞く。しかし、実際に返ってきたものは、想像とは別のものだった。
「周りの噂とアーサーから聞いたのとでは、貴方の印象があまりにも違うから気になったのよ」
 ケイは一瞬耳を疑った。その名がまさか今出るとは思っていなかったからである。嫌な予感が脳裏を駆け巡っていく。
「あんた、アーサーと……」
「会ったわよ、さっき」
 予感は的中した。この女はそれが目的だったのだ。魔女が勇者の前に現れる理由などひとつしか思い浮かばない。『悪しき魔女』だとしたら、尚更だ。
 早く戻ってアーサーの安否を確認せねばならない。彼の傍には今グィネヴィアもいる。彼女には危険が及んでいる可能性もあるのだ。だが、この女を野放しにもしてはおけない。無意識に腰の剣に手が触れるが、自分の実力で魔女を討つのは難しいだろう。逃げるか、戦うか。どうすべきか。
 あれこれと考えていると、それが伝わったのか女は軽やかに笑った。
「だからそんな怖い顔しないで。心配しなくても何もしていないわ。彼がちょうど一人だったから少し話をしただけよ」
「一人……?」
 意外な言葉だった。本当に何もしていないのかは怪しいものだが、アーサーが一人だったというのはどういうことだろうか。先程グィネヴィアとあんなに仲睦まじくしていた筈なのだが……。
「あのお嬢さんなら、アーサーが貴方のお見舞い用にとお花のお裾分けを頼んだものだから気分が優れないって言って先に帰っちゃったわ」
 こちらの疑問を読み取ったのか、女が答える。ケイは一気に頭が痛くなった。それが真実だとしたら、せっかくの良い雰囲気を、アーサー自ら壊してしまったということか。グィネヴィアも可哀相に。否、壊された理由を考えれば、むしろ可哀相なのは自分か。また彼女に嫌われる要因が出来てしまった可能性があるからだ。結局は一度じっくりと話さなければならない運命なのか。
 女の言うことが真実であろうと嘘であろうと早く戻らなければならないが、その前にひとつ聞いておかねばならないことがあった。
「アーサー……陛下に何の用があった」
「貴方と同じ理由よ。会いたかったの」
 そんな理由で王に会えたら、色んな人間が同じ事をして大変ではないか、と思いつつも話を続ける。
「エクスカリバーを抜いた未来の王の顔が見たかったとか?」
「そんなんじゃないわ。ただ会いたかったのよ、ずーっと昔から」
「昔から?」
 アーサーの交友関係は自分よりも遙かに多いが、自分はその全てを把握していると確信出来る。常に自分の後ろを追いかけてきていた弟が、自分の知らないところで自分の知らない人間と付き合いがあるとは思えない。ましてや、魔女などと。
 ならば、何故この女は、昔から会いたかったというのか。
「……あいつの事知っていたのか、昔から?」
「ええ。名前も顔も……エクスカリバーを抜くことも、ログレス王になることも、ね」
 ケイはゴクリと唾を飲み込んだ。背中に冷たい汗がつぅっと流れるのを感じる。これ以上は聞いてはいけない。第六感がそう教えてくる。だが、その先を聞かねばならない。それもまた確かだった。改めて女を見つめる。
「何で、そんなことまで……」
「知りたい?」
 女は意味ありげに笑う。無邪気だが、艶やかさも感じる微笑み。最初、自分が魔女であるか、と聞いた時と同じものだ。
 ゆっくりとケイの傍に歩み寄り、その細くしなやかな手を肩に置く。当然互いの身体が寄り添う形になり、顔ももう少し近づければ口づけが出来てしまうほどの距離にある。
 服越しに伝わってくる女の柔らかい感触に、ケイは思わず頬を赤らめた。こういう状況には慣れていない。と、いうより、ほとんど経験がないのだ。
 離れろ、と抗議しようと口を開くが、女の額に開かれたものにケイは釘付けになる。
 それは、瞳だった。
 そのもう一つの瞳を見た瞬間、驚く暇もなくケイの体は電気が走ったかのように痺れて動けなくなってしまう。そんなこちらの様子を気にも止めず、女は耳元に唇を寄せてきた。
「それはね……」
 囁きと共に吐息を耳の中へ吹き込まれる。引き離したくても身体は全く動かない。これは女の魔法なのだろうか。
 女が息を吸い込むのがわかった。そして、その息と同時に言葉が吐き出されようとした、その時。
「そのくらいにしておけ、モルガン」
 横から老人の声が響いた。それと同時に女はケイから身を引く。女の身体が離れた瞬間、先程まで指先さえ動かなかった身体が戒めから解き放たれたかのようにすんなり動くようになった。
「お師匠様」
 女が横を向いてそう口にしたことにやや目を見開くと、ケイも顔を横に向けた。そして、声の主の正体に目がより見開かれる。
 そこに立っていたのは、マーリンだった。しかし、驚いたのは正体がこの老人であったことではない。この老人がレオデグランス卿の邸にいることでもない。
 女が『お師匠様』と呼んだことにである。
「モルガン。あまり妙なことはするなと伝えたはずじゃが」
「あら。私、お師匠様が目を光らさなければならないこと、まだ何もしていないわ」
 モルガンと呼ばれた女は、注意を与えられても平然として答える。モルガンとはこの女の名前なのだろう。彼女の様子にマーリンは溜息を吐いた。
「まだ……か。とにかくこれ以上の関わりは儂が許さぬ。去れ」
「はあい」
 警告ともいえる言葉にも軽く返事をするだけだ。いつものことなのか、マーリンはそのことに触れはしない。
 二人の会話を、ケイは半ば呆然として聞いていた。色んな事が頭の中を駆け巡っている。突然現れた女は、モルガンという名の魔女でアーサーを昔から知っていてしかもマーリンの弟子とは。そんな相手が他に誰かがいるならまだしも自分一人の時に現れるなんて、一体全体、何がどうなっているんだろうか。こんな状況に巻き込まれたことがないため、もうどうしたらいいのかわからない。そんな風に混乱していると、当の彼女がこちらを振り返ってきた。変わらぬ無邪気な微笑みに身体が強張る。額の第三の瞳はもう見えなかった。
「じゃあ、またね」
 モルガンは手を振ると、くるりと一回転をし、風を身に纏いながら、一瞬の内にかき消えてしまう。
 突然現れた女は、同様に突然消えてしまった。結局何故アーサーを知っていたのかは聞けずじまいだ。そもそも、何をしに来たのだろうか。本当にただ会ってみたかっただけなのか。全てが謎のままに終わった。
「ケイ」
 名を呼ばれ、振り向く。マーリンが自分の方へ歩み寄ってきていた。
「すまぬ。あれは少々好奇心が強すぎてな。何にでも首を突っ込みたがる」
 困った奴じゃ、とマーリンは、今度は大きく溜息を吐いた。その困った性格は生来のものか、はたまた師に学んでいたときに培ったものか気になりはしたが、口にはしない。
「……そうですか」
 無感情に一言だけつぶやく。モルガンがいなくなった今、これ以上この老人に関わる必要はない。というより、極力関わりたくなかった。適当なことをいってこの場から立ち去ろうとしたのだが。
「ケイよ」
「は……?」
 再び名を呼ばれたことに少々面食らってしまう。マーリンは右手に持った杖をケイの前にかざした。
「これから先、アーサーには数々の危険が及ぶことじゃろう。それは魔女もまた然り……。お前はアーサーの傍らに立ち、助力を惜しんではならぬ」
 忠言ともいえるそれにケイは眉を寄せる。アーサーなら常だが、こんなことを自分がマーリンから言われたのは初めてだった。しかし、何故アーサーの傍らに立つのが自分なのか。他に良い適応者がいるのかはわからないが、それは間違っても自分ではないはずだ。
 嫌がらせか、冗談のつもりか。だとしたら、随分と質の悪い。
「恐れ多いお言葉にございます。けれど、私如きにそのようなことが出来るとは、到底思えませんが」
 腕を組み、皮肉混じりに答える。マーリンはその態度に気付いているであろうが、全く動じない。それどころか笑みさえ浮かべている。
「恐れることはない。ただ、傍にいて信じていれば良いのじゃ。アーサーとお前を繋げる『絆』を」
「絆……?」
 マーリンの言わんとしていることが、ケイには全く理解出来ない。アーサーと自分を繋げる絆とは何だろうか。流れるものが違うのだから、血の筈がない。ならば、心しかないが、それも今ではあやふやでしかないと思えない。
 真意を聞こうとしたが、その前にマーリンは背を向けてしまう。
「早くアーサーの元へ戻ると良い。見舞いに行ってお前本人がいなければ驚くことじゃろうて」
「え……ちょっとま……!」
 こちらが呼び止めるのを聞かず、マーリンは先程のモルガン同様にかき消えてしまった。湖に最初に来た時の静けさが戻る。まるで嵐が去った後のような気分だ。モルガンもマーリンも言いたいことだけ言って、こちらの疑問には何も答えずじまいである。心にモヤモヤしたものが残り、釈然としなかった。
 だが、こんなところでボンヤリしていても仕方がない。今は早く邸に戻らなければ。マーリンの言ったように、アーサーが大騒ぎして自分を捜し回っているかもしれない。それを考えただけで頭が痛くなる。そうなる前にルーカン達が説明しておいてくれればいいのだが。
 祈りながらケイは大急ぎで走り出す。腹部の痛みには今は目を瞑るしかなかった。

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[ 2006/09/16 23:49 ] オリジナル小説連載 | TB(0) | CM(0)
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2006年5月16日開設

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