スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

[ --/--/-- --:-- ] スポンサー広告 | トラックバック(-) | コメント(-)

Sir Kay~Brother Of King~第二章<3>




   第二章「変わりゆくもの」<3>



 元来魔物は、滅多に人前には姿を現さず、このような森や洞窟など光があまり射さない場所を好む。その中でも特に強い力を持つものは、人が訪れることのない未開の地にほとんど生息している。数ヶ月前、馬上槍試合の際に暴れたゴブリンのような力も知能も低いものとは違い、人間を襲わずとも生きていけるからだ。
 だからこんな薄暗い森とはいえ、人里に程なく近いここで強大な魔物に遭遇することはない筈である。ましてや、ドラゴンなど有り得ない。
 だが、目の前の光景は夢ではない。現実なのだ。
 ケイもアーサーも今までドラゴンを見た事は一度もなかった。せいぜいおとぎ話や書物で知っているぐらいである。
「そ…んな……」
 初めて実物を目にしてケイの体は震えた。息が荒くなり、大量の汗が滲み出る。最強の生物と名高いドラゴン。あの時出会った巨人の比ではない。
 無意識に剣の柄を持つ手に力がこもった。体勢をとりつつ、視線を後ろの二人に向けると、アーサーもグィネヴィアを胸に抱いて守りつつ、剣を構えている。
 ドラゴンは一軍を率いていても対等に戦うのは難しい相手だ。如何にエクスカリバーを持つアーサーがいても勝ち目は薄いだろう。自分の剣を足したところで雀の涙ほどにしかならない。
 そんなことが頭をよぎってケイは思い出した。確か巨人と対峙した時も同じようなことを考えていた気がする。
 結局、ほんの数ヶ月前の話だが、自分はあの頃と全く変わっていないということか。主に剣の腕の事だが。
 だがルーカンとベディヴィアの力を借りられない今、二人を守れるのは自分しかいないのも事実である。
「…陛下。私が注意を引き付けます。その隙にお逃げ下さい」
 ケイは声を潜めて提言した。
「兄上…!何をおっしゃるのです。そのようなこと出来ません!」
 アーサーが即座にそれを棄却する。普段ならそう言うだろうとわかっていたが、今はグィネヴィアがいるのだから受け入れてくれるかと思っていたが、やはり甘かったか
 ケイは前のドラゴンと後ろのアーサー達を交互に見やる。もちろん構えは崩さない。
 幸いドラゴンはこちらを睨むばかりで攻撃の兆しはまだ感じられなかった。再度説得を試みる。
「二人でかかったところで勝てる見込みはありません。それに今は騎士道の戒よりグィネヴィア様の安全を確保する事の方が大事でございましょう。早く」
「ならば私が残ります。グィネヴィア殿は兄上が……」
 どんなに言って聞かせようとしても一向に首を縦に振らないアーサーに、ケイの苛立ちは増していく。
 自分が逃げる側になるなど出来るわけないではないか。
 アーサーはログレスを統一する使命をもつ王。自分はその配下。どちらが殿を務めるべきか、一目瞭然だ。
 何故自分の言っている意味がわからないのだろう。それともわかってて言っているのか。…アーサーなら後者も有り得る。
 ならこのまま言っていたところで埒が明かない。ケイは作戦を変えることにした。
「…わかんねぇ奴だな、邪魔なんだよ」
「兄上…?」
 突然普段の乱暴な口調に戻ったケイに、アーサーは戸惑っているようだった。
「滅多に出くわさないドラゴンをぶっ倒して俺の名声を上げようと思ってんのに、お前らがいたらやりにくくてしょうがねぇ。わかったんならとっとと消えろ」
 ケイはそう冷たく言い放ち、二人を睨みつける。
 これは幼少の頃からよく使っていた方法だ。ケイはそのひねくれた性格上、周囲にはすこぶる評判が悪く、特に同じ年頃の者達にはケンカをふっかけられることが多かった。その度、一緒に戦おうとするアーサーを追い払うために、わざと邪魔なのだと言って帰らせていたのだ。
 なまじ正義感の強いアーサーには、正攻法でいっても逆効果だ。だから、敢えてお前がいない方が上手くいくのだと言い聞かせる。兄を慕う弟は、その兄からの言葉を素直に従うしかない。
 皮肉なものだった。捨てるべきかと悩んでいた兄弟の絆に頼ることになろうとは。
 尤も、あの頃は本当に邪魔だからそうしていただけなので厳密的には異なるが。
(…にしても、この状況の違い過ぎには正直笑えるぜ)
 騎士見習いの鼻たれ小僧達と最凶の魔物と呼ぶ声高いドラゴン。比較にならない両者に対して同じ策しか思いつかない。本当に笑いたいのは、そんな思慮の浅い自分自身なのだろう。
 しかし、今はそんな場合ではない。
「早く行けよ!俺の邪魔を…」
 するな、とケイが更に言い募ろうとしたその時だった。
 ドラゴンが突然、長い首をものすごい勢いで振り下ろしてきたではないか。
 ケイと、グィネヴィアを抱えるアーサーは、咄嗟にお互いとは正反対の方向へ飛んで、ドラゴンの攻撃を回避する。三人を逃したドラゴンは、その巨大な口で逃げ遅れた二頭の馬に食らい付く。嘶きを上げる間もなく、馬達の姿は巨大な口内へと消されてしまう。
 バリバリと音を立てながら血を滴り落とす姿を目の当たりにして、ケイは背筋が凍り付いた。ベディヴィアの腕もあのように噛み砕かれたのだろうか。
 そして次にあの口で喰らわれるのは自分なのだろう、と。
 万が一にもアーサー達の方にしてはいけないのだ。最早、腹を括るしかない。
 するとドラゴンは、都合の良いことにケイの方へ体を向けてきた。このままドラゴンの注意を自分に引き付け続けようと、ケイは剣を突き付ける。
「こっちだ!獲物はこっちにいるぞ!」
 声を振り絞り、挑発的な言葉を投げかける。もちろん虚勢を張っているだけだ。その証拠に鋭い目で睨まれて、声も体も震えている。ドラゴンの巨体でアーサー達からこちらが見えない事は幸運なのだろう。
(頼むから早く逃げてくれ……!)
 心の中でつぶやいた、その時だった。
 意識を一瞬アーサー達に向けたのがいけなかった。察知したかのように、ドラゴンがその長く太い尾を打ち当ててきたのだ。
 尾は腹部を直撃し、ケイの体はまるで綿のように軽く吹き飛ばされる。背後に大樹があったため遠くまで行くことはなかったが、その分ぶつかった時の衝撃は大きい。
「兄上!」
 あまりの痛みに気を失いかけたケイだったが、アーサーの声が耳に届き、何とか持ちこたえた。
 咳払いすると腹部に激痛が走る。どうやら肋骨が折れてしまったようだ。息をするのも苦しい。
 ズシンズシンと地響きがする。それが聞こえなくなったと思ったら、今度は突然辺りが暗くなる。顔を上げると、ドラゴンがすぐ傍まで来ていた。辺りが暗くなったのは、ドラゴンの影のせいだった。
(ああ…。死んじまうな、俺)
 今にも閉じてしまいそうな瞳でドラゴンを見上げながら、ケイはぼんやりとそう心の中でつぶやく。自分の死が間近に迫っているというのに、その思考は驚く程冷静だった。恐怖も頂点まで達すると感じなくなるということか。
 それにしても情けないものだ。元々勝てる見込みのない戦いだったとはいえ、たったの一撃でこのザマとは。父が知ったら、さぞ不甲斐ない息子とお嘆きになるだろう。尤も自分は昔からこんな人間でしかなかったが。
 かき消えそうな意識の中、ケイは何となくこれまでの人生を思い返してみた。人間は死の直前に自分の人生を走馬灯のように思い出すと聞いたことがあったからである。
 しかし、過去をいくつか振り返ってみたところで止めた。自分の人生は、思い出す程の価値があるものではない。嫉妬と僻みを繰り返した日々など。
 幼少の頃から、全てにおいてアーサーと比較されてきた。剣も弓も馬も、勉学でさえも。何一つ弟に勝てたことはなかった。
 それは恋愛でも同じ事だ。ケイは十三歳の時に初恋を経験した。相手は父の古くからの友人である騎士の娘で、一つ年下の少女だった。
 父が馬術槍試合に参加した際、彼女も父親と共に来ていた時に想いを伝えた。
 人生で初めての告白だった。
 だが、それは次の彼女の返事によって苦々しいだけの記憶となってしまった。
「私はあなたの弟が好きなの」
 彼女はそう言った。自分が初めて愛した少女が選んだのは、アーサーだったのだ。
 何故よりによって彼だったのだろうか。せめて他の誰かであれば良かったのに。そうすればあんなにも奈落の底に突き落とされるような気分にならずに済んだかもしれない。単なる自分勝手な考え方だが。
 このことがきっかけで、ケイはアーサーと競い合うことを止めた。周囲のアーサーへのあからさまなえこひいきにもどこ吹く風の気分だった。
 どうせ自分が弟に勝るところなどありはしない。そんな風に諦めたのだ。
 それは正しかったのだろう。現に数年経った今、アーサーはログレスの王となり、自分は彼の側近となったではないか。
 アーサーは天に選ばれし者。自分はただの凡人。否、それ以下か。どっちみち生まれから、立つ場所が違っていたのだ。
 なのに。下らない兄としての自尊心は今もなお健在ときている。どこまでも自分は愚かでしかない。
 しかし、それもここで終わりである。自分はこれからドラゴンによって一気に食い殺されるのだから。
(できれば丸呑みであってほしいな。ベディヴィアみたいにちょっとずつはゴメンだぜ……て、あいつ死んでねえけど)
 などと考えていると、ドラゴンがその大きな口を開けるのが目に入った。いよいよだろうかと思い、ケイはゆっくりと瞼を閉じる。
 さすがにアーサー達も逃げただろう。ケイが食われれば、次の標的は自分達になる。グィネヴィアを救うためにも早くここから離脱しなければ、といくら敵前逃亡を良しとしないアーサーでも理解したに違いない。満足いった人生ではなかったが、二人をかばって死ぬのなら差し引きゼロに出来ただろうか。
 目前の暗闇に浸っていると、ドラゴンの呻き声も聞こえなくなる。耳が何の音も拾おうとはしなくなっていた。知らない内に食われてしまったのか。それなら痛みを感じずにいられて幸運だったのかもしれない。
 その時、ふ…と、指先に何かが触れているのを感じた。
 とても小さく、暖かいものが指先を包んでいる。
 目を開けて確かめようとするが、何故か瞼を上げることが出来ない。
 これは一体何なのだろうか?ケイには全く見当も付かなかった。
(いや…違う)
 すぐにケイは考えを改め直した。忘れていた懐かしさが込み上げてきたからだ。
 自分はこの温もりを知っている気がする。別のどこかで触れたことがある。
 答えを出せそうになった、正にその時だった。
 閉じた瞼の裏に眩い光を感じる。それがケイを現実に引き戻した。
 先程までとはうって変わって簡単に瞼が上がる。開いた視界に入ってきた光景に、ケイは驚愕した。
 何と剣を構えたアーサーが目の前に立っているではないか。
 太陽さえも凌ぐ眩い光。その正体はケイをかばい、ドラゴンと対峙するアーサーだったのだ。
「こ…の馬鹿!何やってんだ」
 あまりの事にケイは怪我も忘れて上半身を起き上がらせた。
 兄の叱咤に、アーサーは背を向けたまま答える。
「兄上を置いていくことなど出来ません」
 この期に及んでまだ言うのか。正義感の強過ぎる弟…否、主にケイは怪我のせいではなく気が遠くなりかけた。
「んなこと言ってる場合かよ!グィネヴィア殿まで死なせるつもりか!」
「グイネヴィア殿も死なせはしません。今ここでドラゴンを倒せばいいこと」
「状況見て言えよ!ドラゴン相手にお前一人で敵うわけないだろうが!」
 酷い言いようではあったが、外れてはいない。いくらアーサーといえど、一人でドラゴンに打ち勝つことは難しいことだ。それはわかっている筈。
 ケイがアーサーを説得しようと全身を駆け巡る痛みをこらえて必死に言葉を探していると、次の瞬間ドラゴンが動いた。
 首を大きく振って牙を剥くと、アーサー目掛けて振り下とされる。あまりの速さにケイの叫びは空へと消えた。
 だが、それよりも速くアーサーはドラゴンの攻撃を避け、その勢いに乗ってドラゴンの顔を斬りつけた。
 耳に入ってきたのは、初めて聞くドラゴンの断末魔。
 斬りつけられた左目を押さえ、苦しみもがいている姿にケイは驚きを隠せない。
 すると、再び前に立ったアーサーが静かにつぶやくのが聞こえた。
「敵わなくても私は負けない。勝てなくとも…守ってみせる」
 誰かに聞かせる訳でもない、独り言のようだったが、その凛とした力強い言葉には、一寸の迷いも感じられない。
 ここは日の当たらない森である筈なのに、アーサーがいるだけで暖かく、また眩しく感じられる。
(…ああ、そうだ)
 こういう時程、自分とアーサーの差を感じずにはいられないのだ。
 嫌な気持ちにさせられるからその姿を見ていたくないと思うのに、何故か目が離せない。
 結局は自分もその光に惹かれてしまうということか。
 ドラゴンは目の痛みにもがいていたが、しばらくすると傷ついた瞼を閉ざしたまま体勢を戻した。開いたもう片方の目でアーサーを睨みつけてくる。
 しかし、アーサーは怯まない。後ろにいるケイからは見えないが、その瞳は閃光の如く揺らがない強さを帯びている。ドラゴンもたじろいでしまう程に。
「悪しきドラゴンよ!大いなる光の裁きを受けるがいい!」
 力強く叫んだアーサーは、エクスカリバーを天高く掲げた。神々しい刃からまばゆい輝きが発せられ、周囲の全てが一瞬にして光に包まれる。あまりの眩しさにケイも手で顔を覆った。
 耳には再びドラゴンの断末魔が入ってくるだけで、一体今どのような状況になっているのか、皆目見当も付かない。
 永遠に輝き続けるかと思われた威光だったが、それでも徐々に薄れていくのが閉じた瞼から感じられた。
 そしてほとんど光を感じなくなった時、今度は突風が吹き上がった。何事かと思い、目を開けると、ドラゴンが苦しみながら翼を広げて宙に舞っているではないか。突風はドラゴンがはためく翼から発せられていたのだ。
 エクスカリバーの威光にもう片方の目もやられてしまったドラゴンは、翼をより大きく広げ、飛び上がると、そのまま空へと消えてしまった。
 正に嵐が去って、森は静寂を取り戻す。
 一連の出来事に頭がついていかず、ケイは座り込んだまま呆然としていた。
「兄上!大丈夫ですか?」
 剣を鞘に収めたアーサーが振り返る。
 心配する問いかけにケイの思考はようやく動いた。自分が怪我をしたことを思い出し、一気に痛みが蘇ってくる。
「……!」
 痛い、という声も出て来ない。先程あれだけ叫べたのが不思議なくらいだ。
「兄上!」
 腹部を押さえて蹲ったケイにアーサーが駆け寄ろうとした、その時。
「アーサー様!」
 グィネヴィアが満面の笑顔でアーサーの胸へ飛び込んできた。
「…グィネヴィア殿!」
 アーサーもまた、驚きながらも彼女を優しく受け入れる。
「グィネヴィア殿。お怪我はございませんか?」
「はい。アーサー様のおかげです」
 グィネヴィアは顔を上げると、輝く瞳でアーサーを見つめる。
「…やはりお噂は本当でした。貴方様こそ真の勇者様ですわ」
「グィネヴィア殿……」
 寄り添ったまま二人は見つめ合う。
 その様子をケイは横目で見ていた。顔を上げることが出来ないので足下しか見えないが、漂う雰囲気からして何となく予測はつく。
(…何これ。俺、邪魔者?)
 ドラゴンを自分が引き付けて二人を逃そうとした。命を落としても自分にしては立派過ぎる程の殉死となっただろう。
 しかし現実は一発であっけなく倒され、アーサーに救われた。
 ドラゴンに傷を負わせ、エクスカリバーから発せられる威光で見事退け、美しい姫君から賞賛を受ける。選ばれし勇者には実にお似合いだ。
 しかも負傷した部下を守ったのだから、なおさらその勇姿は映えるだろう。
(ていうか、噛ませ犬かよ…)
 柄にもなく格好つけようとした結果が肋骨を折り、アーサーの偉大さを改めて見せつけられただけか。
 兄としてだけでなく、側近としても何の役に立たなかったとは。
 ケイは自分の滑稽さにおかしくて仕方がなかったが、笑うことは出来なかった。
 肋骨に響くからである。

 <4>へ

 web拍手
 ↑よろしければ、押していただけると幸いです。

スポンサーサイト
[ 2006/08/26 23:20 ] オリジナル小説連載 | TB(0) | CM(0)
コメントの投稿














管理者にだけ表示を許可する
プロフィール

春菜

Author:春菜
ニコジョッキーブログはこちら

2006年5月16日開設

ぬるいゲーマーです。

管理室

FC2カウンター
検索フォーム
ブロとも申請フォーム

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。